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6 鉱山へ

 朝日の眩しさに目を覚ます。サリはまだ眠っているようだった。

「サリ、起きるぞ」

「んー、おきる」

 欠伸と伸びをして、体の上から身軽な仕草で降りる。

「朝飯何がいい?」

「くるみつとあまいの!」

 何だか昨日より話し方が流暢になっている気がした。

 眠って魔力が馴染む度に進化が進むんだろう。

「じゃあ、クルミツとバナムにするか?」

「どっちもすき、はやく!」

「すぐ出すよ」

 魔術で火を起こしお湯を沸かしている間に、希望の品をバッグから取り出して金属皿の上に置いてやる。

 サリはその前に座ってクルミツを手に取った。

「いずかも、たべる!」

「俺はもうちょっとかかるから先に食べてていいよ」

 お湯が沸いてから作るから時間がかかる。

 いいから先に食べろと促してみるが、サリは手に持っていたクルミツを皿に戻してしまう。

「いっしょがいい」

 お腹が空いているだろうに、皿から離れ俺の肩に飛び乗った。

「食ってていいのに」

「いっしょ」

「サリは一緒が好きだなぁ」

「いずかといっしょ!」

 体を擦り寄せるサリを撫でる。そんなことをしている間に湯が沸いたので干した肉と野菜を入れてスープを作った。

「サリ、食べるぞ」

「うん!」

 持ってきたパンとスープ。サリはクルミとバナムで朝ご飯を済ませ。

 焚火を消し荷物を整えて鉱山に向かって歩き始めた。



「サリ!」

「うん!」

 川を遡り岩場を超えた途端気配が膨れ上がった。

「五体か?」

「ろく! あのいわかげにも、いる!」

 サリが言う方向に意識を集中させると、気配を潜ませてもう一体いることが確認できた。

「流石だ、サリ」

「さり、えらい!」

 ここはどうやら磐人いわびとの住処だったようだ。磐人は名前の通り岩人形だが、歴とした獣だ。

 意志を持ち、食事をして、生きている。

 基本的に穏やかな気性の魔物だが、縄張りを侵す者には容赦なく攻撃を加える性質を持っている。

 俺の二倍ほどもある大きな体から繰り出される重さを活かした攻撃は、凄まじい破壊力を秘めていた。

 岩に擬態していた彼らは侵入者の気配に目を覚まし襲い掛かって来る。

「すまねぇな。住処だって知らなかったんだ」

「たおす、たおす、たおす!」

 ここは本来鉱山への道だったのだが、長く放置されている間に住み着いたようだ。

 ショートソードとマチェーテを引き抜く。攻撃力の高い獣だから簡易結界は効かないと、両方の剣に纏わせ威力を上げた。

 岩で出来た太い右腕を振り下ろすのを左手のマチェーテで切り落とし、右手のショートソードで心臓部分を貫く。

「……グ」

 血は噴き出さないが代わりに砂を噴き上げながら磐人は地面に倒れる。

 魔物と違い塵にはならない磐人は、死ぬとただの岩となって崩れた。

「ググ、ガ、グガ」

 残った磐人たちから一層強い殺気を向けられた。

 仲間を殺されて怒ったんだろうが、こちらもやられてやるわけにはいかない。

 ごめんなさいと言って逃げても、この種族は住処を荒らされた恨みを晴らすまで追いかけて来る。

 接触してしまった以上戦うしかない。

「さり、たたかう!」

 サリが風のように駆け抜けてゴーレム二体の足を蹴り折る。

 一撃であの防御力を貫通して破壊するとは流石サリだ。

 支えを失ったゴーレムたちは折り重なるように倒れた。それを見て素早く跳び、上空で向きを変え両足を揃えて勢いを付け胸の上に飛び降りる。

「とぅ!」

「「ググァ、ガガ!」」

 胸の部分から真っ二つに折られたゴーレムが短い呻きを上げて絶命する。巨体は崩れ小さな岩の山が出来上がる。

「あと三体! いくぞ」

「やる!」

 サリを踏もうと足を上げるゴーレムの背中を、ショートソードで突き刺し倒す。だが動きを止めた俺に向かって、近づいてきたゴーレムが両腕を組んで素早く振り下ろした。

「さり、たすける!」

 とぅと可愛い掛け声と共にゴーレムの頭がサリの蹴りで吹き飛んだ。

 残りは一体。だが……。

「グァ……ガァ」

 俺たちを見ながらゆっくり後退りその場から逃げて行った。

「にげた!」

「サリ、追わなくていい。住処を通っちまったのは俺たちだからな。悪い事をしたがしょうがねぇ」

「しょうがない!」

 追いかけようとしていたサリは足を止め、俺の肩に飛び乗った。

 近いうちにまたここには人が通るようになる。これでここに巣をつくることをやめてくれればいいと願わずにはいられない。

 

「鎧、どうだ?」

「おそろい、すき!」

 初戦闘だったから使用感を聞いてみたがどうやら満足いくものだったようだ。元々体に傷を作るような戦い方をしたことはないが、身を守るものがあるのは俺としても安心できる。

 つけて欲しいと持ってくるのもなんだか微笑ましいし、買ってよかったと思う。

 それにしてもウサリスにここまでぴたりと誂えた鎧を作れるあの親父の技術力は本当に凄い。

 俺の鎧も前より動きやすい。

 今度壊れたらあの店で新しい防具を新調してもいいな。


 磐人以外の獣には遭遇せず目的の鉱山に辿り着けた。

「さぁ、この中を探そう」

「うん!」

 少し進んだ先の岩山にある入口へ入っていく。

 鉱山の内部には蝙蝠、蜥蜴などの獣が住み着いていたが、大した脅威ではない。とりあえず襲ってきた分だけを排除して、死体は魔術で燃やしておく。

 魔物とは違い獣は血も肉体も残る。放っておいたら血の匂いに惹かれ肉食獣が寄って来てしまう。

 割と浅い位置で目当ての魔鋼は見つかった。念のため言われていたのより少し多めに採ってバッグに入れる。

 まだ奥に獣の気配はするが襲い掛かってくる様子はない。

 本格的にここを使う前に討伐依頼を出す事を進言しておこう。その時まだ街に居たらその依頼を受ければいい。

 俺たちはそのまま洞窟を出て街へ戻った。





 夕方には帰りつき、武器屋に顔を出す。

「さりのぶき!」

 サリは店内に入りカウンターにいる店主を見るなり肩から飛び降りて、天板の上に飛び乗った。

「もう戻ったのか」

「途中で磐人が巣を作ってたが追い払っておいた。採掘場の奥にはそれなりに獣が住み着いてそうだったから、本格的に鉱山を使うなら討伐依頼を出した方がいい」

「そうか。分かった」

「採って来た。確認してくれ」

 採取して来た魔鋼の入った袋をカウンターの上に置いた。

「間違いないか?」

「ああ、これだ」

 品質を確かめるようにじっくり眺め、袋を手に取った。

「そうだな……二日後また来るといい。ついでにお前のマチェーテも置いて行け」

「これをか?」

「いいから、寄こせ」

 否とは言わせぬ圧を感じ、俺は言われるままマチェーテを差し出す。

「じゃあ、二日後だ」

 剣を受け取り鉱石を持って店主は店の奥に入っていってしまった。

「さりのぶきは?」

「作ってくれるってさ」

「ぶき! どんなの?」

「さぁな、でもこの店の品揃えを見るに期待していいと思うぞ」

「ぶき!」

 ワクワクした様子で楽しそうにしているサリの頭を撫でる。

「二日後だってよ、それまでゆっくりしてようぜ」

「さり、ゆっくり!」

 俺の武器まで預けてしまった。ショートソードはあるとはいえ、一本だけでは心許なく依頼を受けるには不安が残る。

 しばし思案した後、折角だからのんびり過ごそうと気持ちを切り替えた。

「オランジ、買って帰るか」

 道中見つけた森の浅い部分にオランジの木は見つからなかった。

「おらんじ! たべる! ばなもも!」

「バナモも買うか」

「たべる! たべる!」

 市場に寄って新鮮な果物や野菜、肉を買う。

 瘴気の中では出来なかった贅沢だ。

 市場は地元の住人も使うからここだけは常に活気づいている。馴染みの物、初めてみる品で賑わう市場はいくら見ていても飽きない。

 うっかり買い過ぎないようにと思っても気付いたら両手いっぱいになってしまう。

 まぁ、保存食も作れるから丁度いいか。

 サリが喋るのが珍しいのか、話すとこれを食べろ、味見しないかとあちこちからおまけを貰う。

 丁寧にお礼を言うサリになぜか誇らしげな気持ちになってしまう。


 宿に戻って浄化魔術で身綺麗になって、装備を解いて楽な恰好に着替え買ってきた食事を作りサリと一緒に食べる。

 見た事のない果物や野菜は必ず一つ買ってみる。

 今日買ったのはブラウという俺の親指と人差し指で円を作ったくらいの紫色の実が房になっている果物。

 甘そうな匂いに誘われ、サリが食べたいというので洗って飯に出してやった。

 両手に一粒持ってサリが齧りつく。瑞々しいそれは歯を立てると弾けるような音を立てて、齧った場所から果汁を滴らせる。

 紫色の汁がぽたぽたと落ちるその果実を夢中で食べた。皮が剥けるとより一層甘酸っぱい果物の香りが部屋に広がった。

 余程おいしかったのか一気に一粒食べきって、二粒目を半分まで食べたところでようやくサリが顔を上げた。

「ぶらう、おいしい」

 残りの半分もあっという間に食べて満足そうに目を細める。

「おいしいか? よかったな。ぷっ、口の周りも手も紫色だぞ」

 一粒貰ってみたが強い甘みと爽やかな酸味のあるおいしい果物だった。こんなの一房なんてすぐなくなる。

 ただ困るのが鮮やかな紫色の皮は染物に使えるほど強い色味があって、零れた果汁が染みを作ると手洗いでは取れなくなる。

 食べる時は気を付けるようにとの女主人の忠告は無駄に終わった。俺の指先も見事に紫色だ。

「凄いな。サリの手や口が紫だ」

 黒い毛皮が紫に染まっている。どんなに拭ってやっても取れない。

「さり、むらさきいや。いずか、とってぇ」

「はいよ。ほら、来い」

 手を差し出すサリを抱き上げる。

「我が身の不浄を落とせ」

 言葉と同時に浄化の魔術が発動する。

 光が消えると俺の指先も、サリの毛を染めていた紫色もなくなった。

「さり、もうぶらうたべない。むらさき、いや」

 サリは自分の黒い毛並みが気に入っているみたいだ。

「干したら果汁が垂れないし、染まりにくいみたいだぞ。甘さも増すんだって」

 それを聞いたサリは耳と尻尾をピンと立てて俺の顔を見た。

「いずか、ほして! さり、ぶらうすき」

「いいよ。残りは干しブラウにしよう」

 どの道痛みやすい果物だから残ったら干しブラウにしようと思っていたところだ。

「いずか、すき!」

 食事の続きをして、ベッドへ横になる。

 サリは寝る前にまた魔石を一つ食べた。


 持ってきた魔石はもう終わる。

 拳二つ分だったサリの体は倍の大きさになって、賢さと強さは格段に上がった。

 この進化はどこまで続いて行くのだろう。

 またどこかで似たような魔石が手に入るなら、まださらなる進化を望むんだろうか。

 サリが最終的に望む姿はどんなものだろうか。

 興味は尽きない。


「まぁ、どんな風になってもサリはサリで、俺の大事な相棒だ」

 温かい体温を抱き寄せ、目を閉じた。


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