表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

後編

✩*.゜


「どうして、チナちゃんがここに!?」


 姉よ、わたしも同じセリフを言いたい。

 なんで……。


「そうか、なんだか初めて会った感じがしなくて親近感わいたのは、そういうこと? マナちゃんの妹さんだったんだ。マジですごい偶然だね」


 堂場さんが、わたしたちの間で一瞬流れた微妙な空気を知ってか知らずか、ほのぼの系のコメントを出して来た。


「二つ年下の妹の知波ちなみちゃんだよ。わたしと正反対で、しっかり者なの。でも、どこでふたりは知り合ったの?」


 あー、姉よ。わたしを紹介するときの、その定形文、もういい加減やめて欲しい。

 でも、姉は悪気無しの天然さま。

 だから、なおのことタチが悪い。嫌いになれない。


「えーっと、それはね……」


 堂場さん、言わないで!


 まさか、お姉ちゃんの新しい彼氏さんが堂場さんだったなんて。

 ショックが大きすぎて、涙も出ない。

 でも、これ以上、ここにいたくはなかった。


「あの、お姉ちゃん、わたし急用を思い出したから、失礼するね。わたしの分のコーヒー飲んでくれる。さよなら」

「あ、チナ……」


 なにか言いかけた姉をスルーし、わたしは、堂場さんに向いて頭をさげると、視線も合わせずに外に出た。


「あ、待って!」


 堂場さんの慌てた声が、苦い余韻を残した。


 色んな感情が胸の中で渦巻いていたため、廊下で黒い誰かとすれ違ったことに、わたしは気が付かなかった。


 だから、


『タツキ! おまえ、明日帰ってくる予定じゃなかったのか。でもいいところに、今の女の子追いかけて。コインパーキングの彼女だよ。おまえが可愛いって言ってた。わざわざお礼を言いに来てくれたんだけど、タツキと僕のこと、色々誤解もあるかもしれない。とにかく早く追いかけて!』

『名前は? コインパーキングの彼女の名前!』

『チナミちゃんだ』


 そんな会話が、あったとは、わたしには聞こえようもなく。


✩*.゜


 軽く走っただけで、日頃の運動不足のせいで、すぐに息がきれて、すでに歩いている。

 姉ばかりが、良い思いをしている。

 そう思う自分が……嫌い。嫌だ。

 姉はなにも悪くない。わたしの心が狭くて器が小さくて、勝手にコンプレックスを抱えている。


「待って、チナミさん!」


 すぐには自分の名前が呼ばれたことに気が付かない。

 だって、姉や家族は、わたしを【チナちゃん】と呼ぶし、職場では名字だし。


「チナミさん!」


 堂場さん? の声に似ているけど。

 彼が追いかけて来るわけないよね。


 わたしは空耳かと、疑いながらも歩きながら振り返った。


 そこには、あの時見たままの茶髪、サングラスに黒のレザージャケットの男性がいるではないか。


 わたしは訳がわからなくなって、その場で固まった。


 だれ? いや、あの時の人そのまま……。

 

「すみません、突然声をかけて……。えっと、なにから話せばいいか、わからないんですけど、イツキに追いかけろと言われて、あなたを追いかけました。って、俺、何言ってるんだ」


 なに? イツキ……って、堂場さんのことだよね。

 では、この人は?


「あ、私はですね、堂場一樹どうばいつきの双子の弟の樹生たつきです」


 そう言って、目の前の人は、サングラスを外した。


 タツキさんは、イツキさんよりちょっとだけ明るい茶色の虹彩、タツキさんはイツキさんよりキリッとした目付き。でも、顔も姿形もよく似ていた。


 双子の弟!?


 ようやくなにか、すべて腑に落ちるというか、モヤモヤしていた心が落ち着いてきた。

 わざわざ、わたしを追いかけてきてくれた。


「は、あ、ど、どうも。この前はパーキングで助けてくださって、ありがとうございました。えっと……」 


 言葉が続かない。


「あの、歩きながらでも良いんですが、チナミさんさえ良ければ、その辺のカフェにでも入って、少し話しませんか?」


 そう言って、恥ずかしそうな表情で無意識に髪をかきあげたタツキさんの手首に赤い痣が見えて、わたしはホッとして、胸がキュンとなった。


「……はい」


 わたしが頷くと、タツキさんはとても嬉しそうに目じりをさげて柔らかく微笑んだ。


 今日はバレンタインの前日、恋の始まりの予感? それが本物になるかどうかは、これからのわたし次第。

本当にしばらくぶりの投稿で、執筆の感覚を取り戻すのに時間がかかりました。


藤乃さま〜、この度は素敵な企画に参加させていただきまして、ありがとうございました。

そして、なろうさん、20周年おめでとうございます!

これからもどうぞよろしくお願い致します♪



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
タイトルが印象的で、読ませていただきました。 コインパーキングでの出来事、本当にこういうとき、すごく焦りますし、そこに助けてくれる人がいたら、本当に神ですよね。 主人公の心情が丁寧に描かれていて、共感…
[良い点] 雪乃さんの作品に登場する女性は柔らかくほっこり優しい印象が常にありますね(^^)作品を読ませていただく度に、素敵だなぁと思わされます。 そしていつも勝手に雪乃さんの人柄が描写に滲み出てるの…
[良い点] チナミちゃん、良かったね! タツキさんもどうやら気になってくれていたみたいで…… それにしても双子だったのですね。チナミちゃんと同じくお姉ちゃんの彼だったかとがっくりしていたら嬉しい展開に…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ