第3話 国王からの依頼
「やっと見つけたぞー! この野郎ぉ!!」
翌朝。
金がないので朝食も取らずに困っている人間を探していたギルバートの前に二人の男女が立ち塞がった。
少年の方は片目にアイパッチを装着している騒がしそうな金髪剣士。
もう片方の少女はオドオドとしており、目を合わせようとしてこない黒髪魔術師。
てっきり幼馴染に追いつかれたのではと身構えていたギルバートは逃げの構えを解除した。
そして腕を組み、首をかしげる。
「お前らは……誰だ?」
「リーダーがパーティメンバーの顔を忘れんじゃねぇよッ!」
少年が激高して叫ぶが、ギルバートはさらに顔を傾げた。
それはもう折れるのではないかぐらいに。
「だーかーらー! 勇者パーティだよ! 勇者パーティ!!」
数秒間、仁王立ちのまま記憶を辿ってみたギルバートは思い出したかのように手をポンと叩いた。
「声のデカい少年と、声の小さい少女」
「俺らの情報それだけかよッ!?」
(そういえば一週間前、自分を国王陛下だと抜かす老害に呼び出され、コイツらを紹介されたな)
「俺の名前はロイン、名前ぐらいは覚えてくれよ。そんでコイツは」
「わ、わた、わたしは、そ、そ、そ、」
壊れた機械のように喋りだす少女にギルバートは、珍妙なものを見るかのような目を向けた。
目を合わせながら喋れないのか、ギルバートの視線に気が付かないまま何とか名前を絞りだす。
「し、シーラと申します……不束者ですが、その、あの、よ、よ、よろしく……です」
あまりのキョドりように隣のロインは不安を感じながらも、ギルバートに指をさした。
「お前を見つけ出すのに苦労したかんな! 今度は逃げるんじゃねぞ! 国王陛下直々の依頼が届いたんだ!」
「老害からの依頼だと?」
「!! それ、絶対に本人の前で言うんじゃねぇぞッ!?」
国王陛下を老害呼ばわりとは、勇者の特権がなければ打ち首確定であろう。
奥歯を噛みしめながらロインは、なんとか怒りを抑える。
想像し憧れていた勇者像とは、あまりにもかけ離れていたからだ。
「これだ、ホレ」
依頼内容の書かれたスクロールを懐から取り出したロインは、ギルバートに見せつけるように広げた。
無言で、面倒くさそうに一通り目を通したギルバートは口を開いた。
「ここから西部にある旧遺跡に潜った王国の調査隊が未だに帰還しておらず、賢者シャレムの千里眼に妙な気配が見つかった……」
「冒険者ギルドにも依頼が送られたが、今度は依頼を受注した冒険者たちが帰ってこなかったんだよ。これ以上被害が拡大しないよう、俺たちの出番ってわけだ」
「………」
「おい、なに黙っているんだよ?」
依頼書をマジマジと見つめたまま黙り込むギルバートにロインは呼びかけたが返事はない。
「ご、ご、ごめんなさい!」
涙目になりながらシーラは謝った。
「いや! テメェに言ってねぇからッ!?」
確かに、自己紹介だけしてずっと喋っていなかったが別に彼女のことを言ったわけではない。
だが、ロインが大声を発したことによりシーラのメンタルがさらにボロボロになってしまう。
「情緒不安定な奴らだな。それでも俺の従者か、やる気がないなら帰れ」
唐突に辛辣になったギルバートに、ロインは顔を真っ赤にさせて剣を握った。
「誰が従者だこの野郎……舐めてんじゃねぇぞ。人生剣一本で成り上がってきたんだ。今まで一度だって負けたことはねぇ。たとえ勇者のテメェにも、いつかギャフンと言わせてやるからよ」
「ほう、随分と勇ましいことだ。その底の知れぬ憎しみの宿った眼……誰かを殺したいのか?」
「へっ、分かるか? ああ、そうだよ。あれから十年経ったが、まるで昨日のように覚えているぜ……俺の故郷を、家族を、なにもかもを根絶やしにした魔王軍どもをな。あいつ等に復讐するために俺は生きてきたんだッ!」
「……お前は、今まで魔族を何人手にかけてきた?」
ギルバートの意味の分からない質問にロインは一瞬だけ戸惑ったが、すぐに答える。
「そりゃもう何百匹も殺してきたぜ? 泣き叫んで、命乞いをしてきた奴も山ほどいたよ」
「そいつらにも家族、恋人、子供がいるとは思わなかったのか?」
「ああ? 思わねぇよ? なんで、これから殺そうって相手のことをイチイチ考えなきゃならねぇんだよ?」
「そうか、それがお前の考え方か。ならば俺とは永遠に理解し合えないようだな」
意味深にそう呟きながらギルバートは背中を向けた。
「おい、待てよ。まだ話は……」
「一つだけ、お前らに伝えておこう。俺には天秤など存在しない」
ロインの言葉を遮り、ギルバートはハッキリと言った。
そのまま無言で歩き出した。
その背中を忌々しく見つめながらロインは剣を収め、バツの悪そうな顔でその後を追う。
「あ、あ、あの、ま、まって……置いてかないで……!」
先ほどのギルバートの言葉を聞き、固まってしまっていたシーラは遠ざかる二人に気が付き、涙と鼻水を垂らしながら二人の後を追った。




