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第七話  涙の登戸君

聖と手を繋いでウキウキとマンションまで帰ってくると、エントランスに設置されているソファのところにポツンと一人、学生服の男の子が座っていた。

俺たちの話し声に気づいたのか、その子が振り向いた。


……え?

「城くーーーーーん、え~~~ん」

俺の胸の中に、すっぽりと収まった。

「の、のぼ、登戸君…?」

「うっ、うっ…う…」

泣いているようだ。


「おい!離れろよ!おまえ!!オレの城から離れろよ!!」

え?「オレの城?」…うれしい、俺~。


聖が登戸君を俺から引き離そうと、体を引っ張ったが、登戸君はスッポンのように食いついたら放れない…みたいな感じで俺にしがみ付いている。

俺も困ったが、聖がムキになり始めた。


「登戸!!テメェーこのやろう!城に触るな!」

力のあるはずの聖が必死に登戸君を剥がそうとしたが、ビクともしない登戸君。

必死に俺のシャツを掴んでいた。

「どうしたの?登戸君?」

俺の声に少し顔を上げて、また泣き出した。


「しょうがない…俺の家に行こう。話聞くから、ね?」

登戸君にやさしく言った俺を見る目つきが完璧に怒っている聖は、俺の腕に抱きついた。

登戸君は…俺を抱きしめたまま後ろ向きに歩き、右側の聖には腕をギューっと抱きしめられた状態のまま、三人でエレベーターに乗った。


また、変な絵図らだよ…わけわかんね…

歩きづれーし…



チャイムを押すと、おふくろが出てきて俺たち三人の姿に口に手をあてて

「あらまっ!」と言った。

登戸君はやっと俺から離れ、泣き顔のまま、おふくろにちゃんと挨拶をした。

リビングに行くと、おやじと雅が仲良くお笑い番組を見ていた。

雅はほとんどこの家に入り浸りだ。

その代わりに俺が聖の家にいることが多いんだけど。


登戸君は、振り向いたおやじと雅に軽く会釈をした。

「あっ!登戸君、こんばんは~」

と、雅は軽く言ったあと、またテレビの方に顔を向けなおし、おやじに登戸君と俺のことをひそひそ話で説明していた。

すでに登戸君への興味は全くないらしい。

女心はわからない。


「あなたたち、お夕食は?まだならすぐに用意するわよ」

時間は8時を過ぎていた。

「登戸君もまだなんだろ?一緒に食べよう?」

「はい」 と小さい声で返事をした。


ダイニングに行き、椅子に座ったが、なぜか三人横並びに座っている。

聖が椅子をずらして俺にぴったりとくっ付けると、登戸君も椅子をずらし引っ付いてきた。

真ん中の俺は下を向いた。

はぁ…


キッチンから出てきたおふくろが、三人を見て「あらまっ!」と言い、ご飯をよそい、

俺たちの前に座った。


はぁ……

溜息ばかりも吐いているわけにもいかず、俺は登戸君に涙の理由を聞いた。

「どうしたの?なにか嫌なことでもあったの?ホームシックとか?ん?」


涙声の登戸君の話によると、昨日、寮に帰ったあとマネージャーから次の仕事の内容を知らされたが、それは初めてのCMの仕事だった。

ものすごく嬉しかったが、本来そのCMに決まりかけていたのは同じ寮に住むタレントの卵だったらしい。スポンサーサイドが登戸君の方を気に入ってしまい、彼に急遽決まり、そのタレントの卵にものすごい意地悪をされ落ち込んでしまった、ということだ。


それで、学校帰りに事務所へ行ったあと、寮に戻るのも嫌で、俺の住所を辿ってマンションまで来てしまい、俺に電話をしたが出なくてメールをしたあと、ずっと待っていた。


俺がシカトこいた登戸君からの電話だ…

かわいそうなことをしてしまった。

俺は少しばかり反省をした。


三人並んでキツキツの中、食事をした。

一番体の大きい俺が真ん中で、ものすごく食べづらい。


登戸君の話を一緒に聞いていたおふくろが言った。

おふくろは昔モデルをしていたので業界のことはわかっている。

モデルの世界と芸能界とは多少違うが、どこにでも人を妬んだり逆恨みしたり、いじわるな人はいる、それに負けたらおしまい。いじめられたら、いじめた人を反面教師として、自分は先輩や後輩や周りの人たちにやさしくして自分なりに一生懸命この業界に残るように努力しなさい。

困ったことや悲しいことがあったらいつでもここにくればいいからと、

登戸君にアドバイスをした。


登戸君からやっと笑顔が出て、おふくろもうなずいて微笑んだ。

聖は俺の顔を見て、口を尖らした。


食事が終わると9時半近かった。

登戸君の寮の門限があるので、おやじが車を出してくれた。

聖も一緒に来ると言ったが、「おやじも一緒だから大丈夫だよ」と説得させ、

寮に向かった。

門限にはギリギリ間に合い、登戸君は元気になって、俺とおやじに笑顔で手を振り寮の中へ入って行った。


「はぁぁ…」

帰りの車の中で溜息を吐いてしまった。


「おまえも大変だなぁ~ははは~」

おやじはのん気に笑った。

俺は、運転するおやじを見てもう一度溜息を吐いた。


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