第四話 三人でデート…
登戸君と会う日曜日、聖は専門学校の友達たちと美術館に行くと言って、
朝10時ごろ家を出て行った。
雅と話して今日のことは、聖に内緒にしていたのでラッキーだった。
待ち合わせは12時。
聖の着なくなったワンピースをおふくろが仕立て直し、それを着た雅はご機嫌だ。
「ふふふぅ~、どう?お兄ちゃん!」
クルッと回ってみせた。
「かわいいじゃん」
「まぁね、これで登戸君と二人きりのデートなら申し分ないんだけど、
今日はお兄ちゃんがいるからね…ちょっと残念だわ」
そう言うと、もう一度クルリと回った。
……俺、邪魔なんですね。
雅は見かけがまだまだ中学生みたいだし、俺の記憶するところの登戸君も
幼かったからなぁ、俺的には保護者みたいな気分だ。
高校生二人の保護者が大学生というのも変だけど…
俺と雅が待ち合わせ場所に行くと、すでに登戸君は来ていた。
「登戸く~~~~ん」
雅が先に飛んで走って行った。
遠くから見ても登戸君はやはり目立っていた。
男だが、かわいいオーラをビシバシと放っている。
俺も雅の後を追うように走り、久しぶりの登戸君と再会した。
「登戸君、ひさし」
「ぶ」と言おうとしたところで、登戸君が俺の胸に飛び込んできて熱い抱擁を
交わしてきた。
身長の低い登戸君の頭は、俺の鼻先に当たった。
女の子だったらいい感じの背の高さだ。
「城くーーーーん!久しぶりだね!会いたかったよぉぉぉ」
ギュッと抱きつかれた。
「……」
周りの視線も痛いが、力一杯怪訝な顔の雅からの視線が一番痛い。
「ひさ、ひさし、ぶり…だね、登戸君…」
「ずっとメールだけだったもんね。会えてすごくうれしい!」
雅そっちのけの登戸君は、ずっと俺に話しかけてきた。
俺は笑ってごまかすしかない…
とりあえず、ウインドウショッピングでもしようと言うことになり、
若者の街・原宿に向かった。
雅を間に挟み、歩いていたが、いつの間にか登戸君が俺の横に来ている。
俺が何気なくまた雅を間に挟むが、またいつの間にか登戸君が隣にいる…
そして、時々腕を触ってくる。
そのたび雅が俺を睨む。
俺の所為じゃないって…
雅にアイコンタクトで訴えるが、俺が悪いようだ。
雅の眉間のしわがどんどん深くなる。
そんなことを繰り返し、ウインドウショッピングをした。
登戸君は久しぶりの休日だからなのか、顔いっぱいの笑顔で楽しそうだ。
いつの間にか、左側に脹れっ面の雅の手を引き、右側で腕を組む登戸君を連れて、
俺が真ん中になり、街を歩いていた。
どういう構図だよ…これ。
すれ違う人たちにも何気なく見られていた。
「疲れたね、ちょっとお茶でも飲もうか」
俺の言葉に登戸君が、よく行くカフェがあるからそこへ行こうと言い、
3人で例の構図のまま向かった。
「あそこだよ!」
そう言った登戸君はいつの間にやら、俺と手を繋いでいた。
3人仲良く手つなぎだった。
なぜ、気がつかないんだ!俺は!!
そんな自分に落ち込み、カフェまで下を向いて歩いた。
カフェの前で声をかけられた。
「城…?」
「あっ!聖~」
雅の声で俺は顔を上げた。
ええーー!!なんで聖がぁぁぁぁ!!こんなところにぃぃぃ?!
聖は、登戸君と繋いでいる手に視線を落したあと、俺を睨んだ。
が……
なんだよ!聖!!
聖の周りには女子が五人いて、聖は両脇の女子と腕をくんでいる。
たぶん、クラスメイトなのだろうが、男一人の聖に女が五人。
女六人にも見えなくはない。
おもわず、俺も睨み返し、登戸君の手を離し聖の手を掴み、みんなから少し
離れたところに連れて行った。
「聖、おまえなんで女に囲まれてんだよ!」
「相手は女だから別にいいだろ?っていうか、お前の方はなんだよ!
あいつ登戸とか言うヤツだろ?なんであの男と手繋いでんだよ!!」
ものすごく答えに困る質問だ。
「それは……俺もよくわかんない」
「ざけんなよ…」
俺たちがもめていると雅が近づいてきた。
「ねぇねぇ、みんな待ってるんだけど?」
振り向くとみんなが俺たちを見ていた。
聖は怒ったまま、女子と一緒にその場から離れて行った。
☆☆☆
「聖ちゃん、すごいあの二人カッコいいね!」
「いや~ん、マジかっこいいぃぃ」
「背の低い方の男の子って、雑誌とかで最近よく見かけるよね?」
「うんうん、なんかあの二人お似合い~~。背の高い方の人とさぁ」
「やだぁ~~、男同士じゃない~。でもいい感じだよね、許せる。うんうん」
女子たちの会話に聖の顔が曇った。
――ざけんなよ、城。お似合いとか言われてんじゃねーよ…
☆☆☆
俺は去っていく聖の後ろ姿を見ながら、沈んでいった。
「あの人…」
登戸君がポツリと言った。
「え?聖?私のおにぇーちゃん」
雅は、お兄ちゃんとお姉ちゃんを足して「おにぇーちゃん」と言った。
気をきかしているのやら、なんやらわからない言語だ。
登戸君は気がついたらしい、聖が男だと…
そして俺の腕にギュッとしがみ付き、上目使いで言った。
「僕…負けないから」
「へっ?」
登戸君は、登戸君の言葉の意味がわからない俺の腕を引っ張り、カフェに入った。
軽く食事をしながら話していたが、俺は聖のことが気になりほとんど上の空だ。
登戸君のお相手は雅に任せた。