第三話 かわいい登戸君…
次の日、雅は昼休みの時間を利用して二年生のクラスが並ぶ三階に行った。
目的は、登戸君。
二年C組のドアのところから教室を覗いた。
――あっ、いたいた、うげー女の子に囲まれてる…
登戸君はクラス女子にクルリと囲まれていたが、その顔はあまり楽しそうでは
ない。
女子に何かを言われると、うなずいてはいるようだが笑ってはいない。
「あのぉ…ちょっと、登戸先輩に用事があるんですがぁ…」
雅は近くにいた男子生徒に言い、登戸君を呼んでもらったが、女子が一斉に
入り口に立っている雅を見た。
――こ、こわいぃぃぃぃ。女子のみなさん。
怯えていると、登戸君が近づいてきた。
「僕に何の用なの?君、一年生でしょ?」
やさしい声だが、無表情な顔で聞いた。
「あ、私、お兄ちゃんの…大岡城の、」
「城くん?!!城くんの妹なの??!」
登戸君の顔が一気にバラ色に輝いた。
――あぁ、眩しい笑顔…
雅は少しヨレヨレとした。
「血はつながっていないんですが、未来的にはそんなようなもので…」
登戸君と話しているという事だけで、女子のみなさんの圧力がかかった視線を
浴びつつ、雅は俺・城との間柄を説明した。
「そうなんだ。きみ、城くんと同じマンションなんだぁ」
「はい。聖共々お世話になっていて…」
聖のことを兄と言っていいのか、姉と言っていいのか、登戸君がどこまで二人の事
を知っているのか判断に苦しみ、一応「きょうだい」で大岡家にいろいろとお世話
になっていると言った。
登戸君は聖を「イケイケメンメンコンテスト」で見かけていて俺の彼女だと
思っていたが、雅の説明で勝手な解釈をしてしまった。
(同じマンションなだけなんだ。そうだよね、
あの時、城くんはノンケではないと言ってたもんね)
「じゃ、今度、城くんも誘って一緒に遊びに行こうよ」
「ぇええ?いいんですか?」
登戸君に誘われた雅は舞い上がってしまった。
「うん、僕、学校と仕事であまり時間が取れないけど、
城くんが一緒ならがんばって時間作るから!」
「は、はい!!城お兄ちゃんに言っておきますから!!」
「うん、僕も城くんにメールしておくよ。うれしいなぁ~」
るんるん気分で雅は自分の教室に戻り、登戸君はウキウキ気分で自分の席に着き、
また女子に囲まれた。
登戸君は急に愛想よくなり、かわいい笑顔を女子のみなさんに撒き散らし、
女心をゲットしていった。
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俺が大学構内をふらついていると、メールが入った。
「雅ちゃんから?なんだろう」
(さっき、登戸君とお話しちゃいました!今度お兄ちゃんも一緒に遊びに行こうと
誘われたんだけど、お兄ちゃんよろしくね~)
登戸君が上京してからまだ会ってないもんなぁ。
彼、忙しそうだし…
雅に返信しようとしたら、今度は登戸君からメールがきた。
(雅ちゃんと言う子に会いました。城くんと同じマンションなんでしょ?
今度城くんと一緒に会う約束をしたんだけど、城くんはいつが大丈夫ですか?)
似たような内容のメールだった。
――えっ!これはもしかしたら、雅ちゃんと登戸君…いい感じになるかもしれない!
よし!兄としてここは一つ人肌脱ごう!!
と、思い、雅には(俺に任せろ!!)とメールをし、登戸君には、
(俺は土・日ならいつでも大丈夫だから、登戸君の時間が取れる時
教えてくれたら合わせるよ)
と、返信した……
ら、すぐに返信が来た。
(じゃ!次の次の日曜日!!久しぶりのお休みなんです(ハート)
城くんは大丈夫ですか?)
久しぶりの休みなんだぁ。そうだよな、登戸君、事務所側に学校が休みの日に
仕事入れられてるってメールで泣いてたもんなぁ、かわいそうに。
俺はすぐに「了解」のメールをした。
聖を誘おうと思ったが、やはり雅の本当の兄貴が一緒だと登戸君も緊張するだろうと
思い、雅と3人で会うことを約束した。
雅に登戸君と約束をしたことをメールすると、キラキラと輝いたデコメールをよこした。
大喜びの雅の顔を思い浮かべて、俺は兄貴気分でうれしくなった。