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第三十一話 登戸君の涙

この回は、登戸君目線で書いています。

年明けからクランクイン予定の映画で、主演が決まっている僕は、その日、吉田社長とマネージャーと映画監督と数人の関係者で食事をしていた。

僕は、ここ二日、気分がハイだ!

映画の主演もそうだけど、それよりも!城くんが良い返事をくれたら、吉田プロに来るかもしれない。

そう考えると、すごく楽しくて、映画関係者にも愛想を振りまいて好感度が上がりっぱなしだった。


お店から出たのは、十二時近かった。

僕は、マネージャーと一緒に、運転手さん付きの社長の車に乗り、マンションまで送ってもらうことになった。

「初の主演映画だ。気を抜かずにやれよ」

社長に発破を掛けられ、

「がんばります!!」

と、やる気満々を見せた。


「これで城くんが事務所に来ればなぁ~、僕、もっと張り切れんだけどなぁ」

「そればかりは彼に決めてもらわないとな。吉田プロはいつでも歓迎なんだがなっ!」

社長が言ったけど、本当にそうなんだよ、城くんの気持ちひとつってやつだ。

そんな話をしていると、僕のマンション近くの大通りの交差点で信号待ちのため、車が止まった。


「ケンカですかねぇ、あれ」

助手席のマネージャーが、言った。

窓の外に目を向けると、一人の人を、三人の男が殴ったり蹴ったりしていた。

殴られている人は、殴り返さず、されるがままみたいな感じだった。

「げー、こわ~」

僕はそう言いながら、その様子を見ていると、車が走り出した。



「……待って!! 待って! 車止めて! あの人、僕の知ってる人だよ!」

大きな声で言った僕に驚いた社長が、運転手さんに車を止めるように指示した。

「聖さんだ! あの殴られてる人、聖さん!」

憎っくきライバル聖のスキンヘッドが、妙に光っていた。

僕が車を降りようとしたら、社長に止められた。

「祐二はここにいなさい。おまえは、行ったらだめだ」

社長は、マネージャーと運転手さんに聖の所に行くように言った。

社長の運転手さんは、百九十センチの大柄で、学生のころから柔道をしている。

当たり前だが、ひ弱な僕が行くより、ずっといい。

マネージャーと運転手さんが聖のところに行き、殴っていた三人から聖を引き離すと、三人がなにか大きな声で言っていて、運転手さんがそいつを投げ飛ばしていた。

車の後ろ窓から見ていた僕は…運転手さんを少しカッコイイと思ってしまった…


二人は、聖を抱えるように連れて来て車の中に乗せ、運転手さんは急いでその場から離れるように、車を走らせた。


「やっぱり聖さんだ。大丈夫!? どうして殴られてたの?」

聖に言っても、酔っているみたいで、殴られた痛さもあるようで、何も言わなくて、目も開けていなかった。

たぶん、僕のこともわかっていない。

ティッシュで傷口の血を拭いていると、社長に「誰なんだ?この子は」と訊かれた。

答えるのを少しためらったけど、僕は言った。

「城…くんの…、恋人…」

「…そうか。…彼の家はどこだ? 送ってやれ。…城くんと住んでるのか?」

「うん…」

「そうか。祐二、城くんに電話をしなさい」

社長に言われ、僕が城くんに電話をかけ、聖がケンカをしていたことと怪我をしていることを伝えると、電話の向こうの城くんが、ものすごく心配しているのがわかった。


城くんのマンションに行くと、城くんはマンションの前で待っていた。

たぶん、電話を切ったあとすぐに下に下りてきて、僕たちの来るのを待っていたんだと思う。

僕が車から降りて、マネージャーと一緒に聖を城くんに預けるとき、城くんの手がものすごく冷たかった。

氷のように冷たかった。

城くんは、何度もお礼を言い、頭を下げていた。


そして、聖をしっかり抱き抱えながら、城くんが社長に言った。

「吉田さん、本当にありがとうございました。あと、こんな時に申し訳にありませんが、

 就職の話は、無かったことにしていただけますか? 

 本当に勝手言って申し訳ありません」

そう言い、頭を下げる城くんに、

「まぁ、その話は今日はいい。早く彼の手当てをしてあげなさい。

 君も風邪をひくから、早く中に入りなさい」

と、社長がやさしく言った。


城くんと聖がマンションの中に入るのを見届け、車が走り出した。

僕は黙っていた。

喋ると涙が出そうだった。


「あの二人の間に割り込むのは、ちと、無理だな? 祐二?」

社長に言われた。

「……し、ってたんです、か?」

「まぁな。泣きたきゃ泣いていいぞ? 年明けまでもう仕事は入っていない。

 明日、顔が腫れてても、誰も何も言わん」

社長が僕の頭を撫でてくれた。

その手が暖かくて、僕は涙を、我慢できなくて、我慢しきれなくて、泣いてしまった。


「僕…わかってたけど…初めて、城くんに会ったときから…わかってたけど、

 城くんには、聖さんがいて…わかってた…けど…少しでも、だけど…少しでも、

 じょ、城、くんの…そばにいた、くて。…僕、女に生まれればよかっった…」

「女…か?」

「うん…。…女に生まれてたら、城くんのこと、…もっと、早く、あきらめられてた…」

「どうして? 女なら城くんの恋人になれてたかもしれないじゃないか?」

「違う…よ…、城くんの好きなのは、聖さん。聖さんは…男だ。僕も男なのに…

 僕、女だったら…」

泣くことを止められないのに、僕は社長に話していた。                                                                                                                               

「もう、いい。何も話すな。涙が無くなるまで泣いてろ。泣け泣け~」

社長は、また僕の頭に手を置いてポンポン叩きまくった。

マネージャーは助手席からティッシュを箱ごとくれて、

なぜか、運転手席からも鼻をすする音が、聞こえたような…気がした。




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