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第二十五話 聖のチョコは誰に?

健児の家で目が覚めたバレンタインデー当日の朝、俺と日野は二人で地元の駅に戻った。

日野は、午後に雅と待ち合わせをしていると言う。


「でさぁ、悪いけど、これ雅ちゃんに渡してくれるかな?

 会ったときじゃ荷物になっちゃうから」

そう言って、チョコレートの入った紙袋を二つ、手渡された。

日野が貰ったチョコは全部雅にあげると約束したらしい。

あ~あ、これでまた毎日チョコ食べて、「太っちゃ~う」って気にするんだろうなぁ。


「僕は雅ちゃんのくれるチョコで充分だから! はっはははは。照れるなぁ!」


…あー、はいはい、そうですか!……二人のハッピーを少し分けてくれ!


自分のと日野との四つの紙袋を下げ、足取り重く、帰宅した。

そのまま15階に行き、雅に紙袋を全部渡した。

「日野が雅ちゃんからのチョコレート楽しみにしてたよ。後で会うんだろ?」

「え~、うふっ! おほっ! 手作りだし~愛こもってるし~」

雅は、クルクルと回りながら言った。


はいはい…そうですか!……1gでいい! 俺におまえらのハッピーをくれ!


「あっ、お兄ちゃん、これこれ! 登戸君から預かってきた」

雅から手渡されたのは、メチャクチャラブリーな包装紙とリボンでデコレーションされた包み。

今日は朝から仕事で、直接渡せないから雅に託したそうだ。


メッセージには、登戸君そのままのちっちゃくて乙女ちっくな文字で、


「僕たちが出会って一周年だね!

 バレンタインデーが二人の記念日なんてものすごくラブリ~(ハート)!

 僕の愛を食べてね~(ハート×5個)」


と、書かれてあった。

「……チョコは食ってもいいが、登戸くんの愛は食いたくない…」


そうなんだよ、一年前の今日、聖を賭けて日野と『イケメンコンテスト』に出てたんだよなぁ。

あ~、去年の今頃は聖とラブラブで、しあわせだったよなぁ。

戻りてー、去年に戻りてぇー、カンバーーック、去年のいまごろ!!




「そういえば、今日、聖ちゃん出かけるのかしら?」

……?

おふくろが、過去を懐かしんでいる俺を見て言った。

「昨日10頃、上がって来て手作りチョコを作りたいから手伝ってくれって。

 あなたにあげるわけないわよね?今日15階に戻って来るんでしょ?

 ケンカ別れで、捨てられて!出戻り息子ちゃん?」

おふくろ、はっきり言わないでくれ…


で、聖のチョコ、俺のじゃないとすると誰にだよ!

もう新しいのを見つけたのか!!

完全に終止符を迎えてしまった…のか、俺たち。


俺はフローリングに崩れ落ち、寝そべった。

「パパがゴルフから帰ってきたらお引越し手伝うって言ってたわよ」

「…ぅん」


イモムシのように這って玄関まで行き、俺は10階に下りて行った。

リビングを開けると、ソファの上で毛布に包まった聖が眠っている。


聖…

もうこの寝顔も見れなくなるんだよね…

俺のものじゃないんだよな…

た、耐えられない。


聖の頬に手が触れそうになり、俺は、自分の手を握った。

俺たちは終わったんだ…

これ以上聖を見てると辛いから、お風呂入ろう…グスン。




ブクブク…ブ…ク。

と、俺は鼻の上までを湯船につけた。

このまま死んでしまおうか…


……………… ゥ ………ブホッッ! ゲホゲホッ!

45秒が限界だった。

バカな事はやめようと風呂を出て、自分の部屋に行き、残りの荷造りを始めた。



トントン…


と、ドアがノックされた。

「開いてるぅ…」

俺はおやじがゴルフから帰って来て手伝いに来たのかと思い、クローゼットから服を取り出しながら後ろ向きのまま、気のない声で答えた。


「あと、この服だけ入れたら終わりだから…はぁぁぁ。

 ……おやじ、俺本当に何やってんだろ…」

クローゼットの服に顔をうずめながら、おやじに話しかけた。


「俺、すげー聖のことが好きで、俺にはアイツしかいねーのにさぁ。

 誰にも渡したくないのに…聖…新しい彼氏か彼女出来たみたいだしぃぃぃぃぃ、

 うっ、俺、消えてなくなりてぇぇぇぇ」


「……誰に彼氏が出来たって?」

あ゛あ゛ぁ?!

聖の声に驚いた俺は、振り返った。

「ひ…じり…」

ドアのところで腕を組んだ聖が立っていた。


「オレと同じこと思ってんじゃねーよ!」


へ? 俺と同じ事と言いますと…

(すげー好きで、俺にはアイツしかいねーのにさぁ。誰にも渡したくないのに)

という部分でいいのでしょうか!! な、なみだぁぁぁ。


俺は聖に近づこうと慌てて歩き、ダンボールの角に足の小指を引っ掛け痛さのあまり床に崩れた。

「いっ、てーーーーーーこ、こゆびがーー」

「あははは、バカか城は。ば~か」

聖が側に来て俺を抱きしめた。

痛みが消えた…


「ごめん、城。オレ、おまえのこと信じてやれなかった。

 好きなのに大好きなのに、大好きな城のこと、信じてやれなくてごめん…」

なんだか急なことでよくわからないけど、俺は聖の背中に腕を回し力いっぱい抱きしめた。


あ~久々~、聖の香りと聖の抱き心地ぃぃぃぃぃ。



聖に届いた麻衣子からの手紙。

俺に見せてくれた。


俺と聖の仲の良さに少しのジェラシーを感じて聖に意地悪をしてしまったこと。

泥酔した俺が麻衣子にキスをしたことは事実だが、「聖、聖」と自分の名前でない人の名前を呼ばれながら抱きつかれても冷めてしまうし、その前に聖の名前を連呼しながら俺は、すぐに熟睡してしまった。

あの夜は本当に何もなかった。

少し俺をからかったと書かれていた。


そして、「朝起きたとき、ちゃんと城くんはパンツを穿いていたはず。城くんに聞いてみてね」と綴ってあった。


あっ、そうだよ! 俺スッポンポンじゃなくて、おパンツ穿いてたよ!!



麻衣子は長女で染物工場の跡取り娘、親が決めた婚約者がいて短大の卒業と

同時に結婚が決まっていた。

「そんな自分が他の男性と寝ることは絶対ない。

 だから本当に城くんと私の間には何もない。

 城くんが愛しているのは聖ちゃんだけというのが、

 城くんを見ていてうらやましいくらいわかったの。

 聖ちゃんは城くんを信用して、ずっとこの先も二人で幸せになってね」

最後に、そう書かれてあった。


「………」

俺は、その手紙を読んだあと、横目で聖を見た。

「んだよ…」

聖も、俺を見た。


「テメェーこのやろー! 俺がこの一ヶ月どれだけ淋しくて悲しくて辛くて

 悶悶とした日々を送っていたか、わかるかー。返せ~俺の切ない一ヶ月を返せ~」

聖を押し倒して言った。


「城…ごめん…」

「聖…」

俺は聖に覆いかぶさったまま、聖の瞳を見つめてキスをしようとした。

が、ふと人の気配を感じ、顔を横に向けると、

……えっ? 足? 足が…? 一、二、三、四、五、六……六? 本?


顔を上げると、見慣れた顔の三人が、俺たちを見下ろしている。


「……え”え”ーーー!!」

俺と聖は、おもわず起き上がった。


「あらまっ!」

「あはっあはっあはは~?」

「すげーな、おまえら!」

おふくろと雅とおやじが立っていた。


「な、なに勝手に入って来てんだよ!」

「あらっ、だって開けっ放しだったんですもの」


「いつからそこにいたんだよ!?」

「え~と、城お兄ちゃんの、『テメェーこのやろう~~』辺り…かな?」


「……」

「もう引越しは手伝わなくていいようだな? 城!」


おやじは引越しを手伝いに、雅とおふくろは、バレンタインチョコを、俺と聖に渡しにきたらしい。

そんな中、俺と聖の仲むつまじい光景に遭遇し、しばし観覧していたようだ。




その日の夜、俺は聖からお手製のチョコレートを貰った。





********************



麻衣子からの手紙のおかげで、俺と聖は元に収まった。


両親に決められた道を歩いている麻衣子、

これからも決められた道を歩かなければならない麻衣子。

俺と出会い、俺に好意を持ち、少しだけ横道に反れた。

自分の意思で俺に抱かれた。

本当は…俺は……麻衣子を抱いていた。


あの夜の事実は、麻衣子の心の中だけに沈められ、

何も記憶に残っていない俺は、麻衣子が流した涙にも気づいてあげられず……

俺はずっと…

何も知らないまま自分の人生を終わらせた。


俺が体を合わせた女性は、最初で最後…麻衣子だけだった。


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