第二十二話 城…一生の不覚
目がパッと覚めた。
陽射しが窓から入っていて、部屋の中が明るかった。
俺…あれ?どこだ?家の天井と違う。
横を向いた。
ま、ま、麻衣子――――?!
「あっ、おはよう~城くん」
さわやかに言われた。
裸なのに気がつき、声も出せずにあせってベッドから落ちた。
自分がパンツを穿いているのは確認した。
「……え…あ、」
「城くん、激しかったね~」
キャミソール姿の麻衣子に、またさわやかに言われた。
「お、おれ…おれ…」
「ん?ん~酔いにまかせてヤッちゃったみたいよ?私と」
あ゛あ゛?!!!!
どうしようーーーーーーー!!!
目の前にピヨピヨと何かが飛んでいる感じだ…
聖以外の人と寝てしまった自分。
19になって初めて女性と寝た自分。
その相手が少しだけあこがれていた麻衣子。
だけど、麻衣子にはあこがれていただけで恋とか愛とかとは違う。
麻衣子を抱いた記憶がまったくない自分。
頭がグチャグチャになり、どうしていいのかわからなくて、うろたえた。
そんな俺に麻衣子が言った。
「聖ちゃんには内緒にしておいてあげるから、大丈夫よ」
落ち着いている…。
あせっているのは、俺だけか。
「う、うん…ご、ごめん…麻衣子ちゃん、ごめん!」
頭を下げるのが精一杯だ。
麻衣子はそんな俺を見て、自分も酔っていたし、謝る必要はないと言った。
そして、男と女なんてこんなもんよ、と笑っていた。
なんだか、麻衣子のあっけらかんとした態度にどことなくホッとした俺は、きれいにたたんであった自分の服を着て、麻衣子の家を後にした。
家までの帰り道、一人落ち込んだまま、考えていた。
明日、聖が帰って来る…
どうしよう。
正直に頭を下げようか 「聖以外の人と寝てしまいました、すみません!」
なんて言えるわけねーよーーー!!
会わす顔がない。
家に戻っても食欲がなく、ずっとベッドの上で思い悩んでいたが、時間はどんどん過ぎてしまい、聖が帰って来る日になった。
俺は空港へ迎えに行く約束をしていたので、車を走らせた。
昨日からほとんど食事をしていない。
今だ何も喉に通らない…
聖の顔を見るのが恐い。
普通にできんのかなぁ、俺。
ドキドキしながら到着ロビーで聖と雅が出てくるのを待った。
「お兄ちゃ~ん」
元気な雅の声がして顔を上げると二人で手を振っていた。
俺もちょこっと手を上げた。
「悪いな、わざわざ迎えに来てくれて。城、なんかヤツれてない?」
「い、いや、大丈夫だよ。別に…」
やっぱりちゃんと顔見れないよ~
「あれあれ~?なんか二人共下向いちゃって。あっ、久しぶりだから照れちゃってるとか?へへ?ハグりなし?」
「うっせーんだよ、おまえは!」
雅は聖に叩かれていた。
「お帰り」
そう言い、俺は聖を引き寄せた。
心の中で深い深い懺悔をしている俺は、力を込めて聖を抱きしめた。
「城…?」
「あらら…公衆の面前で。や~ね、そういうことはお家でゆっくりしてちょうだいませませ。早く帰ろう?」
雅が俺の服を引っ張った。
「雅ちゃんは早く日野に会いたいんだろ?」
「えっ?!えへっ~ぐふふふっ」
雅は恥ずかしそうに笑い、背を向けて先に歩き始めた。
「ご両親、元気だった?」
「うん、来週からウィーンに移動だって」
「忙しいよなぁ、おじさんも」
「あっ、城、オレがいない間、浮気なんてしてないよな?」
んげっ!
いきなりそんな話題をフルなんて…
なんか怪しい素振りを見せたか?俺は?!
「あた、当たり前じゃないかよ、浮気ってなんだよ…」
笑顔を作りながら言ったが、ちゃんと笑えているのか自分ではわからない。
「聖こそ、西洋人になびいちゃったんじゃねーのか?んん?」
「……」
なんだ!その「……」は!!
俺の顔が歪み、聖を見た。
「おい…聖?」
「んーーー、悪いなっ!ちょっと浮気したかもしんねー」
「ぁぁああああ?!!」
俺の声がロビーに響きわたり、先を歩いていた雅が立ち止まり振り返った。
「パーティがあってさぁ、父さんと母さんに連れられて行ったとき、ドイツ人の男にディープなキスされた。君かわいいねって!あはは~」
笑いながら頭かいてんじゃねーぞ、聖!
「ふざけんなよ、どこのどいつだよ!!」
「どこのどいつだよ、って…それおやじギャグ?キスされたのドイツのドイツ人だし」
「……ざけんな…」
「…ん…」
俺はおもわず、人目もはばからず聖にキスをしていた。
「…あちゃちゃ~ちゃぁ~」
雅が他人のフリをして先にロビーを出て行った。
俺は大概自分のことは天高く棚に上げ、聖にやきもちを焼く。
絶対に離れたくなんてないし、悲しませたくもない。
麻衣子のことは、絶対に…言えない。