第十六話 文化祭・城の大学
俺の大学の文化祭。
聖たちが来る日、健児と校内のベンチに腰を下ろしていると日野が来た。
「オッス!日野ちゃん~」
健児が片手を挙げた。
「おぅ!健児くん!城くん!」
「あっ!城くん!コレーーー」
日野はポケットから紙を出して、俺の顔に押し付けた。
……毎度毎度、このパターンかよ。
聖が男とわかり、諦めたので挑戦状はなくなると思っていたが、なんだか日野は俺と戦うのが楽しいらしく、たびたび紙を取り出しては俺の顔に押し付けて来る。
「だから!見えねーってーてんだろーが!!なんだよ、今回は…」
一応、紙を取り上げ読んだ。
『文化祭名物、炭酸飲料500ml早飲みゲップ大会!賞品:炭酸飲料3ダースと胃薬』
……話になんねーよ。
炭酸飲料をより早く飲み干し、ゲップの長さを競う、というものだった。
「やだよ、こんなの…なんでみんなの前でゲップしなきゃなんねんだ?
はずかしいよ」
「今日の午後3時からなんだ。オープンステージのところ!」
日野は元気に言った。
「だから、やだよ」
「もう、城くんの名前もエントリーしといたから!」
「ぁああああ?」
ガッツポーズの日野に紙を丸めて投げたと同時に携帯が鳴った。
麻衣子ちゃん?
「もしもし?え?うん、構内にいるよ、今……ええーーー!!ちょっと、待って!
あさっての約束じゃぁ…えっ…?そ、そうなんだ…今行きます…」
俺は頭をかきながら携帯切った。
「どうした?城」
健児と日野が俺を見て聞いた。
「あ、うんちょっと、友達が正門に来てるって…」
麻衣子との約束は明後日だった。
が、急に親戚の家族が明日から東京に来ることになり、時間が取れそうになくなったので勝手に今日、来てしまった…ということだ。
どうしよう…あと一時間くらいで聖たちが来る。
俺は健児と日野に「ちょっと行って来る」と言い、井上に電話をかけながら正門に向かい走った。
「ええーー!井上~~まじかよぉ~~」
井上に、自分のサークルの仕事をしていて3時までは抜けられないと言われた。
走って正門に着くと、笑顔の麻衣子に手を振られた。
「ごめんね~急に来ちゃって!忙しかった?今日」
「え?いや、別に…忙しくはないけど…ハァハァ…」
「じゃ!早く案内して?行こ行こ~」
麻衣子が少し息の切れている俺の腕を組み、構内に入いろうと一歩踏み出した時、
健児と日野がこっちに向かって来るのが見えた。
―――え?どうしたんだ?あいつら…
「じょーぅ?」
マイナス10000℃ほどの冷たい声が後ろから聞こえた。
……青い…絶対今の俺、青い顔になってる…っつーか、消えたい…
聖の声だ。
振り向くのが恐い…
麻衣子とのこの腕組みがなければ、なんとか言い訳が出来るが、無理だ!
勇気を振り絞って、俺は振り向いた。
「あっ!日野く~~~ん」
雅が日野に向かって手を振りながら俺の横を通り過ぎた。
俺を睨んでいる聖の今日の格好は女装子。
聖は先日、髪にエクステを付けて少しロングにしていた。
なんでまた今日、女になってんだよ……メチャクチャかわいいし…
万が一コンパの席で一緒だった井上達に会っても大丈夫なように女で来たらしい。
井上達はまだ聖が男と言うことは知らない。
「ど、ど、どうしたの?ひじ、聖…まだ来る時間じゃぁ…」
「雅が早く日野に会いたいっていうから早く来たっ!!!」
下に下ろしている両手はグーで、完璧声はマグマの怒りだ。
麻衣子は俺と腕を組んだまま顔が「?」になっている。
「城くん?この方…?」
「あっ、えーと…」
麻衣子に顔を覗かれ、聖にガンをたらされ、俺は汗だくになって気が遠くなりそうだ。
――あ~~~~もう!どうでもなれーーー!!
俺は麻衣子の腕を外し、聖の隣に行き言った。
「俺の彼女…聖…です…ぅ」
もう、声に力なんて入らない。
「そうなんだ!私は麻衣子です。城くんのお友達なの、よろしくね」
麻衣子は驚く様子もなく聖に握手を求めた。
「聖で~~す。城がいつもお世話になってま~~す!」
聖の顔が天使の微笑みに変わり、麻衣子と握手を交わした。
みんなに麻衣子を紹介し、麻衣子にみんなを紹介した。
「今日のオレ、かわいいだろ?ん、ん?」
かわいい…いつもかわいいよ…うん。
「ところで、城。オレがこの時間に来なかったら、おまえあの女とどうして
たんだよ!オレに内緒でどうしようと思ってたんだよ!ぁあ?」
「別になんもしねーよ。だから、ちゃんと聖のこと彼女だって紹介しただろ?」
前を歩いているみんなの後ろでゴチャゴチャと揉めていると、麻衣子が振り向いて言った。
「ねぇねぇ、城くん、この間うちの学祭に登戸君連れて来たじゃない?
なんか、みんなすごい喜んでたわよ?校内の掲示板にも写真が張り出されて
みんな奪い合いだったの、ふふふ~」
―――はぁ?!なんでこんなところで、聖がいるところで言っちゃうんだよ…
聖には内緒だった。登戸君と会ったこと、麻衣子の学祭に行ったこと…
聖は俺の脇腹を握力MAXでつねり、「麻衣子さんの学祭、私も行きたかった~」
と笑顔で麻衣子の横に行き、二人でおしゃべりを始めた。
俺は横腹を押さえ、ヨレヨレとみんなの後を追った。
「なんか、短大の文化祭とはやっぱり違うよね?大学って!私も四大にすれば
良かったなぁ~」
麻衣子がきれいな笑顔で、うらやましそうに言った。
――やっぱ、麻衣子ちゃん、きれいだなぁ~
あ~~~~いかんいかん!俺には聖がいる!
聖に笑って見せたが、無視された。
バ、バレている…俺の心の中。