第十四話 文化祭・麻衣子の短大
文化祭が目白押しになってきた。
聖の学校と麻衣子の短大の学祭が重なっていたが、土曜日に麻衣子のところに行き、
日曜日に聖の所を見に行くことにした。
麻衣子の学祭には、登戸君と井上と他、男5人で行った。
9月から始まった連ドラに出ている登戸君に、井上たちはえらく感激しサインをもらい
写メを撮っていた。
登戸君は男子に囲まれ少し嬉しそうにしていたが、女性ばかりの麻衣子の短大に着くと、
顔が残念そうになった。
登戸君は確実にそっちの男の子なんだと、この時俺は確信。
麻衣子に電話をすると、正門入り口まで来てくれた。
井上たちは、彼女の美しさにデレデレとしたが、登戸君は俺の腕にくっ付いたままだ。
麻衣子はそんな俺と登戸君を見て、クスクスと笑った。
俺たちは、金魚の糞のように麻衣子に付いていろいろと見て回ったが、初めて入る女子の
花園に少しばかり浮かれてしまった。
弓道部に籍を置いている麻衣子は2時から実技を披露するという。
みんなで昼ご飯を学食で食べたあと、麻衣子は部室に戻り俺たちは2時まで学内をうろうろとした。
男5人で女子の花園を歩くのは、恥ずかしい。
登戸君は行く先々で人気者…というか、芸能人だから女子のみなさんから「キャッキャッ、キャッキャッ」と熱い眼差しと声援を受けていた。
が、俺の腕からは離れようとせず、くっ付いたままだ。
そして、たまに俺の顔を見て微笑む。
2時に合わせて弓道の道場に行くと、静粛、厳粛な中、結構な人数が見学に来ていた。
俺たちも静かにその中に混ざった。
麻衣子は、はかま姿で、さっきまで下ろしていた黒い長い髪を一つに結んでいた。
俺たちに気がつき、口元を少しだけキュッと上げて微笑んだ。
麻衣子の番が来ると、彼女の顔つきが凛となり、集中力のすごさにこっちが緊張してしまった。
「足踏み」から始まり、矢を放つまでの一つ一つの動作をきれいな流れで行い、
「放れ」で、麻衣子の弓から矢が放たれると、シュッという音に俺の心臓はドキッと鳴った。
―――なんか、すごくかっこいいんですけど…
聖には言えないが、絶対言えないが、少し…ほんの少しだけ、心が揺れてしまい、
ボーーーーーッと麻衣子を見つめた。
登戸君にシャツの袖を引っ張られ、意識が戻り、登戸君を見ると、恐い顔で俺を見上げ
睨んでいる。
睨まないでください…こわいです…。
麻衣子はまだ次の回の披露が残っていて、一緒には帰れず、夜電話すると約束をし、
俺たちは女子の花園から後ろ髪を引かれつつお別れした。
あっ、登戸君だけは花園を離れたとたん元気になった。
ファミレスで夕食を済ませ、井上たちと別れた俺は登戸君を寮まで送って行く道すがら
聞いてみた。
「最近はもう、いじめられてない?大丈夫なの?」
「うん!他の寮の子たちが僕がいじめられてたのに気づいて、何かとかばってくれて、
いじめてたヤツも、もう何もしなくなったんだ」
「そうか、よかったな!」
「うん!城くん心配しててくれてたんだぁ、うれしいなぁ~」
そう言い、登戸君は俺の手を繋いできた。
「……登戸君…手は…まずいんじゃないかなぁ…」
俺は苦笑いな顔で言った。
「え~、どうして?城くん、僕と手を繋ぐのイヤなの?」
お得意の上目遣いで少し唇を尖らせた。
「え?べ、別に…イヤとかじゃなくて…」
本当はイヤだけど、登戸君を落ち込ませるわけにもいかず俺は続けて言った。
「ほら…登戸君、ただいま売り出し中の芸能人だし、男の俺と変な噂出ちゃったら
事務所にも怒られるでしょ?だから…」
「じゃぁ…」
と言いながら、登戸君は俺の腕を組んできた。
「いや~、腕も…ちょっと…ヤバイんじゃぁ…」
「じゃぁ、どうしたらいいんだよぉ!」
おいおいおい…泣き出しそうだ…
どうしよう…
「男同士だから、普通に歩いていれば……、それか、俺はよく仲間とかと肩組んだりは
するかな?」
健児や石田とか仲がいいヤツとは、肩を組んでふざけたりして歩いてるもんなぁ。
俺の言葉に登戸君は、俺の肩に手を回した。
が、身長差が15cmほどあるため、なんか俺にぶらさがってるみたいだ…
それに、一生懸命背伸びして歩いてるみたいだし。
しょうがない……
俺は登戸君の手を外し、俺が登戸君の肩に手を回した。
「こっちの方が楽だろ?」
「うん!へへ」
うれしそうにされた。
え゛っ……?
なぜか、登戸君は俺の腰に腕を回し、歩いている。
「なんか、手を繋ぐより密着度があってこっちの方がいいね!城くん!これで僕たちも
男同士に見えるよね!!」
…この構図は…男同士、仲間という感じではない。
自分で言い出した手前どうすることもできず、二人三脚競争のような感じの小走りで
なんとか寮までたどり着いた。
二人共なんだか少し息が切れている。
「じ、じゃ、ハァハァ…登戸君、また…はぁぁぁ」
「ハァハァ…うん、城くん送って、くれて…ハァ、ありがとう」
「仕事、大変だろうけど頑張れよ!」
「うん!!また時間ができたら電話するね!そしたらまた、男同士で歩こうね!」
登戸君はかわいく手を振り、スキップしながら寮に消えて行った。
俺は、どっと疲れが出た。
家に着くとまだ聖は帰っていなかった。
9時過ぎになり、俺は約束していた麻衣子に電話をした。
麻衣子が今度は俺の大学の文化祭に来たいと言い出し、聖たちが来る日とかち合わない日に約束をした。
「きっと、井上たちも喜ぶよ。麻衣子ちゃんが学祭に来るとさ!」
「あら、私は城くんがいればいいわよ。ふふふ~」
そう言って電話を切った。
麻衣子の言葉と、昼間のはかま姿の麻衣子を思い出して俺の心臓が、またドキンッと鳴った。
「ただいま~城!」
タイミングよく聖が帰って来た。
「おか、お、おかえり~」
あせった…。
寝転がっていた体を起こし、なぜか俺は正座だ。
感の良い聖が、俺の顔をジーーーッと見た。
「な、なんだよ、聖…」
「な~んだかなぁ、なんか隠してない?オレに…」
「別に?何隠すことあんだよ。あっ、おふくろとおやじ今日行ったんだろ?聖の学祭。
ファッションショーのモデルの中で、聖が一番カッコよかったってうれしそうに話し
てたよ」
俺は話をそらした。
「城、明日来るんだろ?オレ、がんばっちゃおーっと!」
伸びをしながらそう言い、俺に寄りかかって来た聖の顔を見て、俺は、さっきの事…
麻衣子の事を反省した。深く、深く反省した。
明日は雅と3Bの連中とサエドンとみんなで聖のファッションショーを見に行く。