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第十一話 コンパにて…(2)

途中で聖が一人の女子と「レストルームに行く」と言い、席を立った。

―――アイツ女子トイレに行くのかよ…


数分後、俺の携帯にメールが入った。

聖からだ。

(パンチマーク)が10個ほど表示されたあとに、「死ね!」と書かれてあった。

――― ……ぁんだよ………悲しいなぁ。


俺はメール返しではなく、直接聖に電話をかけた。

が、電源が切られている…

メールのあと、すぐに電源を落したようだ。


聖が戻って来たが、目も合わせてくれなくなっている。

しかたなく、あじの骨をカラッと揚げたやつをボリボリと食べながら隣の女子と楽しく、

本当はぜんぜん楽しくないけど…お話をし時間の過ぎるのを待った。


「二次会はどこにする?」という話が出始めた頃、俺の携帯が鳴った。

着信を見るとおやじからだった。


「もしもし?どうしたの?うん、聖?一緒だよ?……ぇええ?!!ど、どこ?

 すぐ行くから!!うん、分かった!!」

急に大きな声を出した俺を、みんなが見た。


「聖!!大変だ、雅ちゃんが病院に運ばれた!」

俺は立ち上がり、聖に言った。

「雅が?!どうして?!」

驚いた顔の聖も立ち上がった。

「おい、聖!とりあえず病院に行くぞ!」

「う、うん!」

俺はみんなに「俺と聖、二次会パス!」とだけ言って、ポカンと口を開けているみんなを残して店を出た。


車の通れない繁華街の道を俺と聖は手を繋ぎ、思い切りダッシュした。

「聖、大丈夫か?」

「うん!頑張って走ってるぅ~」

なぜか、聖はスカートを穿くと女言葉になる。

ヒールを履いていた聖は途中で靴を脱ぎ、俺は裸足のままの聖とタクシーを拾うために大通りまで走った。



タクシーに乗り込み、病院に向かった。

「雅、どうしたの?病院って…事故?病気?どうしよーー」

「わかんない。聞くの忘れた。病院の名前だけ聞いて電話切ったから」

車の中からおやじの携帯に電話をしたが、病院内だからなのか、繋がらなかった。


「どうしよう、城…、雅に何かあったら…」

大切な妹の病状がわからなくて、聖は泣きそうな顔をして俺を見た。

「大丈夫だよ」

俺はそれしか言えなくて、聖の手をずっと握っていた。


救急病院に着き、中に入るとおやじが椅子に座っているのが見え、俺たちは急いで

駆け寄った。

「おやじ!」 

「お父さん!雅は?!」

「あっ!心配いらないよ、ただの便秘だ!はははっ!」

おやじは明るく言った。


「え?ただの?」

「べ?べんぴ?…べんぴ?」

「そうだ!便秘だ!!ただの!もうすっかり出た!てんこ盛りぃ~なんてね!」


便秘症の雅は2週間ほど、腸の中に貯蓄してしまっていたらしい。

おやじ達とテレビを見ていて、急にお腹を押えて苦しみがり、慌てたおふくろが

救急車を呼び、病院に運ばれた。

病院に着いて原因もわからないまま、おやじは聖の携帯に電話をしたが、

電源が切られていて、俺にかけたと言うことだ。


雅はもうすぐ救急室から出てくるというので、俺たちはロビーで待っていることにした。


聖も安心して気が抜けたのか、隣に座っている俺に寄りかかっていたが、

何かを思い出したように俺から離れて、言った。

「城…オレに内緒でしょっちゅうコンパ行ってんだぁ…それに女たらしなんだぁ、

 女と遊んで楽しそうで何よりですね!!」

棘のある言い方をした。


「はぁ?しょっちゅうなんて行ってねーよ!あれは井上が勝手に言ったんだよ!

 今日のコンパだって助っ人だよ、みんな帰省してたりして、いないから…

 聖だって恋人募集中なんだろ?恋人もいなくて残念だな?いつも女装子でコンパ行って

 男捜ししてんのかよ」

言い返した。


「あれは朋絵ちゃんが勝手に作って言ったんだよ!それに今日は頼まれたんだよ、

 朋絵ちゃんに!女の子が集まらないから女に化けて参加してくれって!」

俺たちはシーンとした院内でボソボソと、小声ながら互いを言葉で突付きあった。


「……」

「……」

コンパ参加は同じような理由だった。


「あれ?聖ちゃん、珍しいね、ワンピース。久しぶりなんじゃない?二人で

 デートだったのか?いや~いつもラブラブでいいなぁ~おまえら!まっ、パパとママには

 勝てんだろうけどなっ!」

聖の横に座っているおやじが言った。

おやじ……



俺たちは無言だ。


「あっ!聖!お兄ちゃん~」

手を振り、雅がおふくろと走ってきた。

「雅、大丈夫なのか?」

「うん…へへへ…」

雅は少し恥ずかしそうに舌を出して笑った。

病院に運ばれた理由が理由だからなぁ…女の子としては恥ずかしいのだろう。


家から歩いて10分ほどの救急病院だったため、歩いて帰ることにした。

雅はすっきりさっぱりしたのか、おふくろ達と足取り軽やかに歩いている。




八月の暑い夜。

風も無い。

朝の天気予報では今夜は熱帯夜だと言っていた。


俺は、少し離れて隣にいた聖の手を掴み、前を向いたまま歩いた。

聖は少しだけ力を入れて、俺と繋いだ手を離さなかった。


そして俺たちは黙ったまま、前を歩く三人の後ろに付いて家路に向かった。


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