第十話 コンパにて…(1)
8月に入ってすぐに同じ学部の井上から電話が来た。
コンパのお誘い。
女子との絡みは苦手な俺は、たまに極たまに無理矢理コンパと言うものに助っ人として
借り出されていた。
夏休み中なのでコンパ命の連中が、バイトや帰省や旅行やらで人数が集まらず、
俺に拝んできた。
今回のコンパの相手の学校は、偶然過ぎるが、聖が通っている専門学生の子たちだ。
井上が海でナンパした女子が、そのお友達を連れてくると言う。
聖に知れたらすごくヤバイと思ったが、聖の専門学校としてはマンモス校だ。
全ての学科の学生はトータル6000人ほど、そのうちの5、6人。
大丈夫だと思い、井上に夏休み明け、講義の代返3回の交換条件で手を打った。
七色の声を持つ井上の代返は完璧だ、今までバレたことはない。
コンパ当日、聖は午後から友達の家に遊びに行くと言い、仕度をしていた。
「誰の家に行くの?」
「学校の友達の家で夏休みの課題やるんだ」
「ふ~ん、何時頃帰って来る?」
「…んー、たぶん飯食ってくるから、10時くらいかな?」
「ふ~ん」
10時か…6時からコンパで、二次会に参加しなければ余裕で10時前に帰って
来れるか…よし!
俺は聖が戻る前に家に帰るように考えた。
「城は?出かけるの?」
「え?別に?家にいるよ」
「そっか!じゃ、なるべく早く帰って来るよ、オレ」
「あっ、いいよ、ゆっくりしておいでよ」
と言う、俺の言葉に聖が変な顔をした。
「なんか、変じゃね?いつもオレが出かけると早く帰って来いってうるさいのに」
そうなんだよ、俺は聖が誰かと出かけると心配で、いつも早く帰るように催促しているんだよなぁ。
「だ、だって、遊びに行くんじゃないんだろ?勉強だろ?勉強…」
「…オレ、今日やめようかな…出かけるの。城、なんか隠し事してるみたいだし」
聖が俺の顔を横目で見ながら言った。
俺はあせりダメージジーンズの穴を突付きまくっていた。
「隠し事なんてしてないよ…俺、出かけないしぃ…家に…いるしぃ…」
聖の顔も見れず、下を向いて話す声が弱弱しくなっていく。
「ふーーーん、そう。じゃ、ゆっくりしてこようかなぁ~」
なんだか疑われている…おどおどしてしまうじゃないか!
聖が2時過ぎに出かけ、俺は井上たちとの待ち合わせ時間に合わせ、家を出た。
俺たち男5人が、コンパ予定の店に行くと女の子たちはまだ来ていなかった。
コンパ慣れしている他の連中は、「今回の女の子たちは期待してくれ!」と言う井上の言葉に浮かれ、二次会をどうするかなどと相談しているが、俺は、とにかく聖より早く帰らなければ…とそればかりを考えていた。
「大岡?二次会行くだろ?カラオケにしよぜ!」
「俺、これ終わったら帰るから~」
新田に言われたが、俺は断った。
二次会なんて出れるわけがない…
「何つれねーこと言ってんだよ。イケメンのおまえがいると女の子たちが喜ぶんだよ。
出ないと代返一回に変更~~~~」
井上に代返を減らされた。
「えー!ずるいよー。代返三回の約束でここにいんのにさぁ」
「じゃ!二次会出ろよな!代返五回にするから~」
俺はたかが代返のために、心を揺さぶられて何してんだろう…
うーーー、代返より聖だ!とりあえず、これが終わったら帰ろう。
俺が小さなことで悩んでいると女の子たちがやって来た。
奥から二番目に座っていた俺は、彼女たちの顔も見ず下を向いている。
はぁ…早く終わんねーかなぁ~
まだ始まってもいないのに溜息だ。
ドサッ!!
誰かがバッグを落とし、俺は顔を上げた。
…………ぁ…
ギョッ!ギョエエェェェェェ。
ひ、じりーーーーーーーーー。
落したバッグを拾いながら、ものすごい恐い眼差しで俺を見ている。
俺は下を向いたまま、頭を抱えた。
「大岡なにやってんだよ…」
隣の新田に肘で突付かれ、顔を上げた。
聖は俺の斜め前に座った。
マジやべーー!!
……というか、なんで聖が居るんだよ!
友達の家で宿題の課題をやっているはずでは?
……というか、家を出たときの服装と違う。なんでワンピースなんて着てんだよ!
どうして女装子してんだよ!ものすごいかわいい…女子の中で一番かわいい。
って、そんなことは今は関係ない!
俺は聖を睨み返し、アイコンタクトで「なんでおまえが居るんだよ!」
と、訴えたが通じるわけもなく、聖は聖で俺を睨み続ける。
井上がリードを取って俺たちを紹介した。
「………で、アイツは大岡城!コンパではいつも一番人気の見ての通りのいい男なんだ。
結構女誑しだったりして!女子のみなさん気をつけてください!」
げっ!!ふ、ふざけたことを言うな!嘘を言うなーー!
井上の勝手な発言に俺は井上を睨んだあと、聖をみたら腕を組んで目を細め、斜め45度
角の横目で凄まれた。
俺は体の毛穴から汗が全て出ている感じを覚えた。
あぁぁ、もう、おしまいだ。家に帰ったら……
考えるのやめとこ……
男子の紹介が終わると、女の子の代表・朋絵ちゃんと言う子が紹介を始めた。
「~~~~、で、三番目の子が崎田聖ちゃん!」
聖は自分の名前を呼ばれると、「ふふ!」と、ものすごくかわいく首をかしげ笑った。
……かわぇえ~…
俺はちょっとニヤついてしまった。
聖は、男子一人一人に微笑みを分け与えていたが、俺の顔を見た途端、
真顔になり素通りされた。
「聖ちゃんは、こんなにかわいいけど恋人がいないので、ただいま恋人募集中で~す!」
男子たちが喜び、手を叩いたが、聖は「げっ!」という顔で朋絵ちゃんの方を向き、
俺を見た。
はぁぁ?恋人募集中?!聖…おまえ…!
今度は俺が目を細め凄んで聖を見た。
聖は下を向いて俺の視線を外した。
聖もまた朋絵ちゃんに適当なことを言われていた。
俺と聖は目と目だけで、全然分かり合えないアイコンタクトのみで一言も話していない。
しかし、お互いに怒っていることだけは目を見ているだけで分かりあえた。
そして、30分ほど経ち席替えをし俺と聖は端と端になり、みんな楽しく打ち解けていく中
俺は聖とだけ打ち解け合えないまま時間が過ぎていった。
聖は男子にちやほやされ、みんなに極上の笑みを見せ、俺の方を向き極上のガンを
たれてくれた。