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第八話  日野、あきらめた恋

横縦神社での『第1回 横縦町 たて笛大会』当日。

おやじとおふくろは大会の始まる7時頃に神社に来ると言うので、俺はリコーダーを持って聖と雅を連れ、先に神社へ行った。


大切に保管しておいたリコーダーを、この日のためにクローゼットから取り出し、聖と雅にうるさいと小言を言われつつも毎日練習していた。

もっとも得意とする「リコーダーを鼻で吹く」演技を披露すると、雅は大受けでお腹がよじれて痛いと転げまわりながら笑ったが、聖からは氷点下50度ほどの冷たい視線を頂いた。

数時間口を聞いてくれなかった。



神社近くから出店が並んでいる。

雅は香港で生まれ育っているため、日本の出店を初めて見て感激していた。

神社近くに着く頃には両手に、綿飴、りんご飴、水飴、チョコバナナを握食べていた。

全部甘いものだ…

父親似の体型を気にしているわりには自分には甘いようだ。


境内入り口に行くと日野が待っていた。

「城くん!5時30分境内入り口付近待ち合わせだ!」と日野からメールをもらっていた。


「日野?待たせたな」

俺が声をかけると、聖を見た日野の顔が一瞬「?」となった。

日野が聖に会うのは約3ヵ月ぶりだ。

その間に髪型を変え、少しボーイッシュに変身した聖が男だと気がついたのかと

思った。

「聖ちゃん、久しぶりだね。相変わらず、かわいいじゃないかい?今日は僕のたて笛を

 存分に堪能してくれたまえ!」

日野は少し赤くなっていた。ぜんぜん気がついていない。


「日野くーーん!」

ベッコウ飴を買っていて後から追いついた雅が、日野に一直線にかけてきた。

「あっ、雅ちゃん。いつもメールありがとう」

え?おまえらメル友なの?


雅は聖の様子をダシに毎日、日野にメールをしていた。

俺が自分の大切なリコーダーを日野に見せ自慢していると、健児たち元3Bのクラスメイトが集まりだした。

地元じゃない元同級生の方が多いのに、みんな俺と日野の戦いを見に来た。


「よ!大岡!久しぶりだなぁ~」

い、石田!!おまえはいつの間にサーファーになったんだ!!

四月頭に会った時はまだ色白だったのに…


元学級委員で真面目くさっていた石田が色黒のサーファーもどきに変身している。

こいつは、よくわからない趣味を沢山持っていて、器用になんでもできる。

そういえば、一緒に日焼けサロンに行ったとき、薄っすら日焼けした自分のボディを

見て何か考えていたもんなぁ…

今度はサーファーに目覚めたんだぁ。


体育大学に行ったボディビル部だった相川は、まだ少し涼しい季節にも関わらず黒のランニングを着て「相変わらずの肉体」を惜しげもなく見せている。

女子からはヒンシュクな格好だ。


担任だったサエドンも来たがっていたが、土日を利用して田舎の友人の結婚式に出席しているため今回は残念ながら来られなかった。


ライバルの日野は、別の高校だったにも関わらず、3Bのみんなに混じって楽しそうに

ワキアイアイと話している。



「あれ?聖君?」

髪の長い女の子が声をかけてきた。

隣には彼氏と思われる男もいる。


「金井さん。すげー偶然!あっ、彼氏?隣の人」

聖の専門学校のクラスメイトだった。


日野が少し首を捻った。

――聖 君――

という呼び方と聖の話し方が引っかかったようだ。


「こちら聖君。同じクラスなのよ。かっこいいでしょ、女子にモテモテなの。

 学校一のカッコいい男の子で、男子のファンも多くて、よく告白されてるのよ!

 ね~聖君?」

金井さんが自分の彼氏に聖に紹介したあと、金井さんカップルは去って行った。


日野は「学校一のカッコいい男の子」 部分で反応し、

俺は「男子ファンに告白されている」 部分で反応した。


「……ちょ、ちょっとお聞きしますが、男って?聖ちゃん…男って?へ?」

日野の眉間のしわがどんどん険しくなっていく。

「何、今更寝ぼけたこと言ってんだよ、日野!聖は男だぜ!なぁみんな~」

健児が日野の肩に腕をかけ、肩を叩き、みんなはうなずいた。


「うっっっそぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ」


日野の気持ち的には、町内の端まで飛ばされたのだろう。

力が抜けたのか健児に体を預けてしまっている。

まぁ、日野の気持ちはよく分かる。俺も初めて聖が男だと知ったとき、天と地がひっくり返って、どこかの暗闇に吸い込まれていったし!


そんな日野のことはどうでもいい。

俺は聖を睨んで「男子ファンに告白されている」部分の真相を追究した。

「俺、聞いてないぜ?!」

「言ってねーもん。言ったら城、怒るだろ?」

「あたりめーだろ!っーか、今までに何人に告られてんだよ!」

「4、5人かな?」


4、5人?!まだ入学してから二ヶ月も経っていないというのに……

それも女じゃなくて、全部男なのかーーーーー!

ものすごーく、この先心配になってきた。

肩を落して頭を抱えている俺の耳元で聖が言った。

「心配するなって、オレは城だけのもんだからさっ!チュッ!」

そう言って耳にキスをした。


「きゃ~~~~、もう!聖ちゃんと城くんラブラブゥ~~、うらやま~うふ!」

相変わらずコロコロとしている風ちゃんが、両手を頬に当て、嬉しそうな顔で言うと、

みんなから冷やかされた

が、日野はまだ立ち直れていないのか健児の背中におぶさったまま泣いている。

傍らでは雅がニンマリとした顔で、日野の背中をポンポンと叩いて慰めていた。



7時近くになり、みんなで境内の櫓まで移動した。

俺とヨレヨレした日野は参加者なので櫓の裏に回って、出番を待った。


まだ涙の止まらない日野は、俺の肩に顔を伏せながら言った。

「城くん…聖ちゃんとしあわせにな…僕はもう、諦めるよ…うっ、うぅ…」

「離れろよ、日野…」

大学生の男二人が寄り添い、一人は涙している俺たちを見ている周りの小学生たちの視線がものすごく痛い。

ヒソヒソ話されている。


『たて笛大会』が始まったが、参加者15人中、大学生は俺と日野の二人で、あと中年のおじさんと初老のじいさんの他は、みんな小学生と中学生だった…

中盤に出た日野は、ショックからの立ち直りが出来ないままだったが、そこそこいい音色を披露した。

だが、途中で涙の余韻の鼻水を啜ったのか「ピィ~」と変な音を出してしまった。


俺はトリだった。

石田が、俺の勇姿を写メに撮りサエドンに送っていた。


完璧だぁぁぁぁ!俺の腕は落ちてはいない!

演奏を終えた直後の自分への感想だ。


優勝は間違いないと思っていた。

しかし、町内お買い物券5千円分は小学生に持っていかれた。

現役小学生には敵わなかった…


あの子たち、たて笛なんて毎日吹いてんだろうなぁ…いいなぁ~小学生に戻りたい。

少し、遠い目をする俺がいた。


結局、俺と日野は参加賞の『横縦町内会』と記されている手ぬぐいをもらい、

みんなと一緒に神社を後にした。




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