今度こそは
「お邪魔いたしますわね」
そう言いながら、セミス嬢が侯爵邸へ足を踏み入れた。
艶やかな金髪が揺れ、とても美しい。赤いドレスを纏った彼女はどこか力強い印象があり、モーリスの胸がドクンと高鳴った。
ああ、やはり素敵。
「今日はお越しくださり誠にありがとうございます。心からの感謝を」
「いえ、そんな。……ところで今日お呼びくださったのはお茶会とのことですけれど、他の方々の姿が見えませんわね?」
不可解だというように首を傾げるセミス公爵令嬢。
それは当然だ。モーリスがわざわざ二人きりになるように計らったのだから、他の客人などいるはずがなかった。
しかし一応、適当に取り繕っておこう。
「もう一人呼んでいたのですが、急遽参加できなくなったそうなのです。ですからわたくしとセミス嬢二人だけになります」
「あら、そうなんですの。それはそれは……」
「すみません。ですがわたくし、セミス嬢とお話しできるのが楽しみです」
モーリスはにっこりと笑った。
セミス公爵令嬢も「本当ですわね」と微笑む。しかしその空のような瞳が少しだけ鋭いようにモーリスには見えた。
「どうぞお上がりください」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
お茶を囲み、談笑する。
最初はドレスの流行など他愛ない話。しかしそのまま一気にバート殿下の話に持っていくことに成功した。
「バート殿下とはうまく行っていらっしゃいますか?」
「ええ、とても。……立派な殿方ですわ」
「あらそうですか。それは良かった」
セミス嬢の言葉が建前なのか本心なのかわからない。
じっと彼女を見つめていると、彼女の方から質問が飛んで来た。
「――それでこの前のお話は、本当ですの?」
「この前の、とは?」
「もちろんモーリス嬢が私に想いを寄せていらっしゃるというお話ですわ」
モーリスはごくりと唾を呑む。
いつ切り出そうかと思っていたその話をセミス公爵令嬢側から仕掛けてくれたのは幸いだった。自然に会話を続けられる。
なるべく平然を装って彼女は答えた。
今度こそ、成功させてみせる。
「……本当です。わたくし、どうしようもなくあなたのことを好きになってしまったのです。
エンドピオ王子と婚約を解消したのは、どうしてもあなたとお付き合いがしたかったからです。
無論のこと女同士の恋が禁忌であることは存じ上げております。しかしわたくしはそれでも、あなたのことを諦めきれません。
あなたはとても魅力的な方なのです。その輝きがわたくしには眩しくて、そして素晴らしいのです。
セミス嬢がバート殿下と婚約したと聞いて、正直驚いておりますし、やるせない気持ちでおります。
が、まだチャンスはあります。もしもセミス嬢が、ほんの少しでもわたくしのことを……その、好きと思ってくださるなら。
身分など関係ないのです。必要なのは気持ちだけ。ですから……」
モーリスはセミス・ガーバルをまっすぐに見つめる。
どうやらセミス嬢は戸惑っている様子でモーリスを凝視した。それから桜色の唇を少しだけ震わせ、
「お気持ちは嬉しいですわ。でも――」
「そこの侯爵令嬢! 俺のセミスに告白するとは何事だぁ!」
その時、大声が響いて、天から何者かが降って来た。