セミス公爵令嬢攻略作戦
「会議?」
「そうです。題して、『セミス公爵令嬢公爵作戦会議』をここに開こうと思います」
モーリスの発言に、エンドピオが首を傾げた。
最近、侯爵家にエンドピオを招く――というより呼びつけることが、婚約関係だった時よりも明らかに増えた。
普通の視点で見ればそれは極めておかしなことだったが、モーリスはそんな細かいことには気づかない。とにかく彼と言葉を交わしていたくて仕方ないのだ。
彼が自分のたった一人の理解者だから。
「それで、公爵令嬢をどうやって手に入れるかということを話し合うのか?」
「そうです。乙女心は複雑ですからね。セミス嬢がどういった心の持ち主なのか、第二王子のバート殿下を愛していらっしゃるのか否か、それが問題です」
「バート兄様か……。彼は頭はいいが少し過激なところがある。セミス公爵令嬢がそれをどうやって捉えるか、彼女の人柄をよく知らない僕にはわからないな。ただ、一部の女性には嫌われるタイプではあるのは確実だが、同時に好かれるタイプでもある」
「それではなかなかに、セミス嬢の心の判断は難しいですね……」
セミス公爵令嬢を攻略――つまりモーリスとくっつけるには、なかなかの手順が必要そうだ。
そこでモーリスは思いついた。
「ならばエンドピオ、聞き込み調査などどうでしょうか?」
「聞き込み? 何の聞き込みだ?」
「もちろん、セミス嬢のバート殿下へのお気持ちです。いくらセミス嬢が素敵な方だとはいえ、愚痴の一つや二つは漏らすはず。それをお友達に聞いて回って、彼女の本心を掴みましょう」
エンドピオは、なるほど、というような顔をした。
恋のことになるとすっかりおかしくなるモーリスだが、元々馬鹿ではない。これでも上位貴族の令嬢であり、教育はきちんと施されているのだ。
「それはもっともな提案だな。不可欠なことと言えるだろう」
「他に、エンドピオは思いつきますか?」
「僕はセミス嬢とバート兄様の様子を、それとなく観察しておく。そしてどんな様子かを見て、彼女の気持ちを探ろうと思う」
「それではストーカーというやつではありませんか?」
「それを言うなら君も変態の一種だろう」
「わたくしは変態ではありません。百合ですよ」
ふふっと笑いながら、モーリスはエンドピオを抱きしめた。
なんだか彼がたまらなく愛おしくなる時があるのだ。可愛い弟のようなそんな愛おしさ。
実際には彼とは同い年であるし、弟のはずはないのだけれど。
「さて。では早速作戦を開始いたしましょう」
「君は行動力があって羨ましい」
「当然です。行動なくしては何も始まりませんから」
とりあえずは友人たちに聞き込みに回ろう。
そう言って、二人は別れた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ガーバル公爵令嬢? 彼女、とってもバートとの婚約を楽しみにしてたわよ?」
「妃になれるのは光栄ですって」
「私たちもそれを素直に応援してました」
「あなた、セミス様とお友達になりたいの? なら仲間に入れてあげてもいいけど」
「えぇ!? 彼女が他に好きな人? そんなの聞いたことないわ」
誰に聞いても、知らないようだった。
むしろ彼女はバート殿下との婚約を心待ちにしていたと聞かされた。
でも、モーリスは諦めない。
こうなったらもう、再度アタックするしかない。
以前はバート殿下がいたからダメだったかも知れないが、次こそは。
「セミス嬢が一瞬、わたくしに見せてくださった微笑み。わたくしはあれで恋したんです。この想い、どうか届きますように……」
そしてモーリスは、攻略作戦の変更をエンドピオに告げる。
それは、アタックだった。甘い雰囲気で二人きり、アタックをかますのだ。
エンドピオは少しばかり不安げな顔をした。しかしそれを押し切って、モーリスはセミス・ガーバル公爵令嬢を自分の屋敷へ招くことに決める。
――「きっと成功します」だなんて根拠のない自信に満ちた笑みを浮かべながら。