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諦めない

 侯爵家へとぼとぼと帰って来たモーリスは、がっくりと項垂れていた。


『ごめんなさいませ。私、この方と婚約しましたの。ですからあなたのお気持ちは受け取れませんわ』


 セミス公爵令嬢はそうはっきりと断言し、横にいたバート第二王子を指したのだ。

 どうやら彼らはちょうど今日、婚約を結んだところだったらしい。もう遅かったというわけだ。


「……そんな」


 こうしてモーリス侯爵令嬢の初恋は、儚く呆気なく破れる……はずだった。

 しかし彼女の友人――エンドピオは彼女の肩を優しく叩いて。


「まだチャンスはある」


 そんなことを言ったのだ。


 彼は、騒ぎを聞きつけてあの場へ飛び込んで来るなり、泣き崩れるモーリスを連れてわざわざ侯爵家までついて来てくれている途中だった。


「どんな、ですか?」モーリスは呟くように問いかけた。


「せっかく僕との婚約を解消してまで願ったんだろう? そうしたら最後の最後まで諦めてはダメだ。セミス侯爵令嬢と兄上が婚約するとの話はあったが、婚約は婚約。僕たちのように解消することだって簡単にできる。それはもちろん、王家の婚約が二度も解消されたとなればスキャンダルになるかも知れないが……僕はモーリスを応援したい。モーリスが悲しむところなんてこれ以上見たくないんだ」


 エンドピオの甘い言葉に、モーリスの心が癒されていく。

 都合のいい女。彼を捨てたくせに、そう思われるかも知れない。しかしモーリスは純粋に、彼のことも好きなのだ。親しい家族のような友人として。


「エンドピオがそう言ってくださるなら……、わたくし、頑張れる気がします」


「僕もできる限りの力は貸す。これでも一応、第三王子だからな」


「ありがとうございます」


 深く頭を下げる。

 何から何までエンドピオに迷惑をかけてしまい、非常に申し訳ない気持ちだったが、今ばかりは頼るしかない。

 この貴族界では本来許されざる恋心を成就させるには、彼の力がどうしても必要だから。


 その日はとりあえず侯爵家に帰った。

 そしてモーリスは一人、新たな策を考えるべく頭を巡らせる。


 一体どんなことをしたらセミス公爵令嬢が振り向いてくれるのか。もしも自分を良く思ってくれていたら、はたまた悪く思われていたら。


「ともかく、セミス嬢にきちんと謝罪をしなければなりませんね。……と言いつつ、きっとこれはわたくしのわがままなのでしょうけれど」


 平民であればきっと、女同士での恋も許されるはずなのに。

 モーリスは自分の侯爵令嬢という地位を恨みつつ、しかし諦めない。必ずセミス嬢を掴んで見せると決めた。


「……そうでなければ、応援してくださっているエンドピオに悪いですもの」

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