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気まずい夜会

 まだ来ない。

 あれから――セミス公爵令嬢に手紙を送ってから、どれほどの日数が経ったろう。


 一週間? 十日? 一ヶ月?

 実のところは三日しか経っていないにも関わらず、モーリスは待ち侘びすぎて気が狂いそうだった。


「まだ来ないんですか」


「ええお嬢様、五分前に確認いたしました」


「まだ来ないのです?」


「ええお嬢様、一分前に同じ質問をなさいましたよ」


「まだ来ないのですか!? 遅すぎますよ!」


「ですから……」


 こうしてメイドを困らせる始末である。

 「恋というのは人間を狂わすというが、ここまでか……」とエンドピオに呆れられたが、それでも待ち遠しくて仕方がなかった。


 しかしとうとう返事が来ることがなく、手紙を出してから三日後、公爵家にて開かれる夜会に出席することになってしまった。


「ああ……どうしましょう」


 セミス嬢の意向が確認できていないというのに、モーリスは一体どういう振る舞いをしたらいいのか。

 もしも返事を決めかねている最中であれば、変に迫っては逆に気を害してしまうに違いない。しかしあの案件に全く触れないというのも失礼な気がして、モーリスは頭を抱えた。


「う〜、どうしましょう」


「どうしましょうと僕に聞かれても困る。大体なんで恋のお悩み相談を僕が引き受けなくちゃならないんだ」


「嫌ですか?」


 モーリスが首を傾げると、エンドピオはぷいと顔を逸らしてしまった。

 今までこんなことはなかったのに、やはり嫌なのだろうか。しかし相談できる相手がエンドピオしかいないモーリスにとって、彼を失うのは非常に怖いことだった。

 うっかり暴走してしまい、セミス嬢に嫌われては困るからである。だからいちいちエンドピオの判断を仰ぐのだ。


「まあ夜会に出ないという無礼はできないわけだし。挨拶して、後は遠くから様子見をしているといいと思う」


「本当ですか。では、そうします」


 モーリスはエンドピオが言うなら間違いないだろうと思い、首肯する。

 そして彼女は、夜会にはとっておきのドレスを着ていくことに決めた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 公爵家で開かれた夜会にて。

 集まった人々の中にセミス公爵令嬢の姿を見て、モーリスは目を瞠る。


 やはりセミス嬢はとても美しかった。

 花のような美貌。一眼見るだけで心を奪われてしまう。


「――ご機嫌よう」


 そんな彼女が、モーリスへ話しかけてきた。

 しかしその様子はどこかぎこちなく見える。それはただ単にモーリスの気のせいかも知れなかったが、やはり夜会の話題に触れなかったので、やはり嫌われたのではないかだなんて思ってしまう。


 モーリスは精一杯の笑顔を返したつもりだが、うまく笑えていたか自信がなかった。


 セミス嬢は手紙を読んだのだろうか。

 公爵令嬢は暇ではない。それでも、侯爵家の娘であるモーリスの手紙を読んでいないとは思えなかった。


 それから夜会は表面上穏やかに進んだが、モーリスは気まずくて仕方がなかった。

 セミス嬢も同じなのかしてモーリスと目を合わそうとしない。エンドピオがモーリスに何やら話しかけているが、モーリスは聞いていなかった。


「ああ……、セミス嬢。あなたはわたくしのことを認めてはくださらないのですか」


 わたくし、こんなにもあなたのことをお慕いいたしておりますのに。


 しかしそんな言葉を直接セミス公爵令嬢にぶつけられるはずもなく、静かに夜会が幕を閉じる。

 結局、この夜会ではあの挨拶以外にセミス嬢と言葉を交わすことはなかった。


 モーリスはひどく落胆してしまい、翌日一日中寝込んでしまったのだった。

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