3.設定:病弱お嬢様(?)
新たな覚悟を決め眠りについた私だったが、次の目覚めも初めと同じくらい最悪だった。
あ、別にまた世界飛んだとかじゃないよ?
まあ今の段階で生まれ変わっても、この世界自体にそんな馴染んでないけどね。てかこんな話する私我ながら人間超えてる。
私に降りかかって来たのは、もっとフィジカルな問題だった。
そう、次に目覚めたのは、恐らく同じ日の夜。
部屋には朝に会った人も含めたくさんの人がいて、もしかしなくても私がまた目覚めるのをずっと待っていたようだった。
私が目を覚ますと、すぐ横にいたあの美男美女を中心に、わっと歓声が上がった。一気に嬉しそうに緩んだ空気が部屋中に漏れ、心があったかくなる。
…だけでなく、なんだか身体も熱かった。心なしかどんどん怠くなってきて…。
——そこからが辛い日々の始まりだった。
ありえないスパンでぶり返す高熱。熱があろうと無かろうと、眠すぎて推定1日22時間睡眠。そして、伸びでもしたらどっかの関節が外れそうなくらいの関節痛。
ずっと丸まって寝てたから、苦しんでる事除けば、やってることはほぼコアラだった。
全く、思いっきり出鼻を挫かれたのである。
それでも最初の方は、楽観的だったの。
(これはもしや、ショックで寝込む的な?前世じゃこんな経験なかったけど、やっぱ転生なんかして家族と離れ離れになったらそりゃショックで熱も出るよね…。
恋したことない寂しい前世だったけど、失恋とかしてもやっぱり寝込むのかな??今までそんなのファンタジーだと思ってたけど、経験するとはね。いや、この世界がファンタジーみたいなもんか。)
長いから割愛するが、熱で頭も回らないから、こんな支離滅裂でアホなことを考えていた。
その内治るでしょ、ってね。
…んだけど、そう思っていられたのも1週間。
寝ても覚めても快くならず。これは病は気からレベルじゃないただの重症だった。
そんな感じで散々な目に会ったけど、それでもギリギリ悪くないこともあったの。
まず、夢見が悪くなかった事。
一回死んだばっかりだし、てっきり死ぬ時のフラッシュバックでも見るかと思ったけど、頭に流れるのは前世の思い出総集編。最初に目覚めた時に頭に残ってることを確認した、あの記憶たちだ。
ちなみに、その時カケラも覚えてないと不思議に思った記憶たちは、未だ全く出てこない。死んだ時の記憶もどうやらそのうちの一つらしかった。
それにね、寝てても時々、頭の中に周りの景色や音が、頭に直接見えるように感じることがあったの。
まあ、そんな時は大体熱が高くて朦朧としてたから、幻想だったのかもしれないし、記憶にもあまり残ってないんだけどね。これもなんだか不思議。
男の人や女の人がベッドの横でこちらを見守っていたり、時には刺繍したり本を読んでいたり。
他にも老若男女たくさんの人たちの姿が、様々な場所を背景に投影された。
どこかのお屋敷で、女性がメイド服を着て掃除している姿。
どこかの街の一角で、新聞を配り歩いている男の子。
どこかのお城のように煌びやかな場所で、深刻そうな顔をした壮年の男性が話し合っている様子。
時には人もいない、どこかの開けたお花畑を見ることもあった。
目を閉じているのに本当に実在する景色が見えていると考えるほど、私は子供ではない。それでも、私が見た景色はどれも立体的で色も鮮やか、とても色の後付けされた夢ではないように思えて仕方がなかった。
そして、この世界にやってきて寂しい気持ちはまだ変わらないけれど、私の頭の中の景色ではいつも誰かはそばにいてくれて、なんだか嬉しかった。
次に、ご飯が美味しかった事。
これは最高だった。シチュエーションは別として。
こちらにはあまり、離乳食とかの概念はないっぽい。食材は、親の仇かってくらい細かくみじん切りにされてたけど味付けはそんなに薄くないし。
赤ちゃんの身体的に大丈夫かはよくわからないが、取り敢えず″私”は満足した。
そして最後に、おむつ。もちろん日本に普及してるようなやつじゃなく布おむつね。
何だか気が触れたんじゃないかって心配する声が聞こえた気もするが、こちとら真剣も真剣だ。
だって、関節痛くて立てないもん。いくらぼやっと目が覚めてもトイレ行けないし。だからといっておねしょは、周りが許しても享年18歳の私の精神が死ぬ。おむつなら人に迷惑がかからない分マシだし、これくらいならまだ吹っ切れる。もうこれで老後での葛藤もないわ。
こんな状態じゃ、そこまで生きれるかも怪しいけど。これブラックジョークね。笑うところだから。
こうして結構人間的にやばめなことまで考えるようになった頃、少しずつ体調は上向き始めた。
正直、生まれ変わって早々2度目の死を覚悟していた。というか普通に死んでいてもおかしくなかったもん。
それでも、そんな終わりがないかと思っていた日々も落ち着いていき、やっと完全に回復した。
最初に目覚めてから、3ヶ月後のことだった。