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2.くしゃみ

ちょっと長めです

何も分かっていない赤子がとある一室でふんすと張り切っていると、徐々に人が起き出す気配がしてきた。

この内装から想定するに明らかに日本人(的人種)じゃないだろう。言葉は分かるんだろうか。そう未知の人々の想像にそわそわしていると、とうとうこの部屋にも足音が近づいてきた。


やばい、もしかしなくても、この世界での初めての出会いだよね?

こちとらコミュ障なんだが!

え、しかも赤ちゃんなんて演じ方わかんないよ!

一応中身成人だもん!コミュ障だけど!!

どーしろってのよー!


そんな緊張と焦りが最高潮に達した時。


「っうえぇっくしゅい!!」


やべ。


もちろん、さっきとは違う意味で。

やっちまった。くしゃみしてしまった。よりによってオヤジ的な感じの。心なしか、邸中に響いていた気がしなくもない。生活音が聞こえてきたとはいえ、朝が早いからか騒がしいわけでもないし。


あー、声こそ低くないけれど、これは完全に迫力があったよ、我ながら。

赤ちゃんは身体の発達的に可愛い声しか出ないんだと思ってたけど、そうじゃなかったらしい。予期しない新しい学びに、少々遠い目で虚空を見つめる。


そして最悪なことに、やはりどこかの足音もこの声を聞きつけてしまったようだ。走ってくる。怖いて。

残念ながら、邸中に響いていた気がしたのは気のせいじゃなかったみたいだ。


いや、ワンチャン私じゃないって誤魔化せるんじゃない?とすかさず目を閉じ、寝たふりをする。そう身構えながら耳を澄ませていると部屋のドアがバタンッと開いた。


それは思ったより勢いが強く、私は驚いて思わず目を見開いてしまった。しまった、っと思いつつも反射で音の方向に目をやると、やってきた人影も目を丸くしてドア際で立ち尽くしている。そして、互いに見つめあったまま、時が止まる。

え、なに、親父的とはいえ私がたった一回しただけのくしゃみに、そんなに驚かれても…。

中身が転生してきた私だってこともバレてないんだし。


そして、こちらも違う驚きで体が動かないとはいえ、人と目を合わせるのは私の苦手分野だ。

ええ、緊張するって…って、そんなこと思ってたら喉に入れてた力が抜けて…!!


「っえぇっくしゅ!」


あぁ、終わりました。

目の前でオヤジくしゃみをするという、もう逃れようのないシチュエーション。

今世最初の出会いが、すでに黒歴史になってしまったぜ。もうこの子への印象回復は望めまい。

ここまできたらやけ酒でもしてやろうか。前世を含めても飲める年齢じゃないが。


「お、お嬢様…」


メイド服を着ている上にこの口調。どうやら、面倒を見てくれる侍女さんのようだ。

そんな、長い間お世話になりそうな人だなんて…いや、この屋敷に住んでる時点でみんな一緒か。


「お嬢様っ…??」


やめて、くしゃみにそんなにびっくりしないでよぉ…。

この空間にいるのが辛い。

穴があったら是非とも埋まりたいです。


とはいえさっきのくしゃみで余計な力が抜けたのか、私は思わず彼女の瞳に目が惹きつけられた。

とても美しい紅茶色で、透き通るように光を称えた虹彩は、彼女の利発さを感じさせる。


そううっとりしながら、彼女を見つめ返していると、みるみるうちにその瞳はまんまるに見開かれた。


「っっ、えええええぇぇっっ!?!?」


え、もしかしなくても、まだくしゃみの衝撃が抜け切ってない?それとも私の顔なんか変?

まさかね!!いくらなんでも女子(レディ)の顔にそんなに驚くなんて、流石にダメよ?でも、くしゃみに驚き続けている説も到底信じられない。

こっちは呑気に瞳が素敵、なんて思ってたのになぁ。


あまりの驚きように、開き直ってちょっと拗ねる。

が、侍女はそんなこと気づかないのかどうでもいいのか、たっぷり10秒は固まり、どこかへ走り去っていった。そんな彼女を、私はもう呆気に取られながら見送るしかなかった。私は化け物か何かか。


しばらくしたら戻ってくるかもと思って少し耳をそばだてていると、今度は何故かさっき以上に賑やかになってきた。

みんな活動し始めたのかな?


…いや、なんというか、騒がしい。しかもどんどんうるさくなってきたぞ。

これは気のせいじゃなく、私の方に近づいてくきてるのでは。もぅ、さっきから一体なんなんだ。


何人かの大人が、大声で喋りたいのを必死に抑えている、と言った様子で、凄い勢いで言葉を交わしている。

「…うそだろう…?!」

「いえ、確かです…!」

といった感じで。

何かあったのかな。

足音から推測するに私の方へ来てるっぽいけど…え、もしかしてそんなにあのくしゃみまずかったですか?!

あ、実は私が、この世界で初めてくしゃみをしちゃった可能性…流石にないわ。

でも、さっきメイドさん(?)の前でしたことって、くしゃみくらいよねぇ?


こちらもまたまた一人でアワアワしているうちに、ドアが開いてやはり大人たちが入ってくる。

反射的にそちらを見てしまう。

すると、そこには2、30代の美形男女を先頭に、先程の赤髪さん含めた3人の大人がいた。

雰囲気プラス服装的に、前にいる美形男性がこの屋敷の主人だろう。

そして隣が奥様、それ以外が使用人といったところか。

そして、状況的にというかなんというか、私はこの家の娘、所謂お嬢様のようだ。まぁさっき赤髪さんにも、お嬢様って呼ばれてたしな。

何はともあれ、今は全員が私を見つめたまま固まってしまっている。


揃って同じ表情の彼等に、いつもだったら吹き出していたかもしれない。言っちゃなんだけど、みんな阿呆面になってるんだもの。ただ、残念ながら私も同じ表情をしているに違いない。私も彼らに漏れず、驚愕してるから。


日本人じゃないことは流石に察してたけど、信じられないくらいの美形が揃って私のくしゃみ?に驚いているんだもの。転生最初から、情報過多すぎやしないか。せめてもうちょいまともな情報寄越せや。

赤ちゃんだからか口の筋肉が動かしづらいが、私も驚き思わず目をぱちぱちさせる。


そんな私の目をみて、もっと目を丸くする彼等。

やっぱりくしゃみがまずかったのか。それとも本当に一体なんなのか。

そろそろ目が回りそうだから、早くはっきりさせて欲しい。


「本当に…」


お?なんだい?


「本当に目の色が変わったなんて!」


はい?


「しかも笑ってる?!!」


んんんんん!???


想定外っていうか、斜め上っていうか、意味不明っていうかぁ…

ようやっと口を開いたかと思えば、情報過多に拍車をかけてどうするのよ。


えっと、目の色が変わったって、何?

あと普通に笑ってはないです。気のせいです。

単純に困ってるので、なんとかしてください。


「本当に、色が…っ」

「この子は助かるのか…!!」


なぜだか知らないけど、今度はみんな揃って泣きそうなんだが…ってか泣いとるやんけ。

だからっ、なんなのっ?!


どうやら私の瞳の色が変わったらしい。当たり前ながら私は元の色知らないけど。

確かにそりゃ大ごとだわな…うん、大ごと…だけども!ここまで…なのか??


皆さんだって、予想はしてたけど目も髪も鮮やかな色していらっしゃいますし。カラコンくらいの気分…では流石にないだろうけど、もう誰が何色の瞳でもよくない?

まだ発展途上な赤ちゃんの瞳の色が変わったくらいでそんなに大袈裟に騒がなくてもさ。私は何色でもいいし。

薄々黒髪黒眼じゃないだろうとは思ってたから、見た目が変わるってだけで、私的には異世界転生の醍醐味って感じでむしろ楽しみだったし。


誰か、急に読者向けに1から説明する変なやつ、いないかしら。

いないよな、どこぞのRPGじゃあるまいし。


「まさか…お嬢様の廃色の目に…薄紅がさして…」


いたか。そうですね、私がバリバリフラグ立ててましたね。

私のフラグを回収してくれたのが、さっきのメイドさん。

何と彼女、瞳だけじゃなく髪も素敵だ。


胸ほどの長さの、艶やかな赤髪。

その落ち着いた暖かさのある赤は、黒髪にしか馴染みのない私もとても馴染みやすい感じ。

今は一つに纏めて右肩に流していて、それもまた良き。

嗚呼、お嬢様になっても心の中は未だ残念だね。


なんかそんなこと思ってたら細かいことどうでも良くなってきたわ。なんか目の色も、そんな大きく変わったようには到底思えない話の感じだったけど、気にしない。

大事にしてもらえるっぽいし、周りは美形だらけ。眼福を感じながら幸せに生きていけそう。


(私、今度こそ家族孝行して、幸せな人生を生きよう…)


朝早くてもう疲れたのか、中身赤ちゃんだからか、決意を刻んだ私は頭がポーっとしてきて。まだ興奮冷めやらぬ美男美女集団の前を前にして、急激な睡魔と共に夢も見ない眠りに落ちた。

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