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プロローグ-1

俺の名前はジェフリー=レフトラック。


今は日本に居るけど、一応、フィンランド人だ。一応な。


先日、東京のとある高校に入ったばかりで、4月2日生まれの16歳。


誕生日が過ぎて早々に中型バイクの免許も取った。まだ車種は決めてないけど、早く買いたいとは思っている。


事情があって、6歳になってすぐにフィンランドの第2都市・ロバニエミ(日本ではサンタクロースがいる街として有名)から両親と一緒に、日本に移住して来た。


移住後はずっと、曾祖父の弟・神崎六蔵(かんざきろくぞう)が神主を務めている、東京・新橋に程近い、とある小さな神社に住んでいる。いわゆる居候というやつだ。


こんな如何にも西洋人みたいな名前だから、金髪碧眼の白人と思われるだろうが、見た目は黒髪黒目の完全な日本人。おまけに肌の色まで、完全な黄色人種。


なので、パッと見で俺の事をフィンランド人だと思う奴は、多分、俺を含めて誰も居ない。


最初に「一応」と言ったのは、そこが原因。


フィンランドに今も住んでいる曾祖父の神崎護(かんざきまもる)や、俺を産んですぐに亡くなった実の母親・美嘉琉(みかる)=レフトラック(旧姓・福間美嘉琉)が日本人で、写真で見る限り女優の新垣結衣さんに似ていたようなので、多分その影響なのだろうけど……。


それにしても、なぜ日系人でもないフィンランド人の祖父のミハエル=レフトラックや、うちの親父のレイチェル=レフトラックまで、黒髪黒目の日本人ヅラなんだろうか……そこは本当に謎だ。


曾祖母はフィンランド人で、祖母は父方も母方も日本人。何故だか、レフトラック一族はフィンランド人の相方が日本人になるケースが多い。


ちなみに、今のお袋・ラウラ=レフトラックは、フィンランド人。


生粋のフィンランド人だそうだが、栗色の髪と瞳で、日本人顔の俺や親父と並んでも全く違和感は無い。


北海道や東北地方の出身者にも色白な女性は多いが、お袋もそんな感じなので、黙って座っていれば日本人の中に紛れていても気付く人は少ないかも知れない。


今の俺の両親は、世間的にはごく普通のフィンランド人同士なのだが、フィンランド人と日本人の組み合わせが殆どのレフトラック一族の中では、まるで国際結婚以上の例外に見える。


お袋の全体的な雰囲気は、見た目も話し方等の雰囲気も、女優の牧瀬里穂さんに似ているとよく言われるようだ。


身内の贔屓目を差し引いても、母親として友達に自慢出来るレベルの美人だと思う。


同じクラスになった女子の友達からも「うちもあんな母親なら皆に自慢出来るのに」とたまに言われるところを見ると、医師としても女性としても、結構評価は高いようだ。


お袋は、いわゆるスーパードクターと言われるレベルの凄腕外科医らしい。専門は小児外科と言ってたけど、内容によっては大人も時々切る事があるとの事。瀕死の重傷者が搬送されて来たら、救急救命に入る事もザラにある。


お袋いわく、小さい的を正確に切れる小児外科医は、大人の心臓や脳血管でも余裕で切れるそうな。


小さい頃から、わりと親の仕事に興味があった俺は、たまにお袋が執刀した手術(オペ)のDVDを見ては質問攻めしてた。


[結果]に至るには、必ず根本(こんぽん)に[きっかけ]があり、そこに至るまでに必ず省みるべき[原因]と[経緯]が存在する。


病気の原因究明とか、症状が良くなったり悪化していく経緯を知る事が、どことなく趣味の鉄道模型の取扱いに似ていると感じていて、何となく医療の知識を知ることが好きだった。


鉄道模型を幼少期から作ってると、下手な模型が出来るのは途中での手抜きや不注意が積み重なった結果だと嫌でも理解させられる。


それに、鉄道模型ってメンテナンスが行き届いているといつまでも綺麗だし、手入れをサボると、すぐにギアに埃が入って異音がしたり、走行用電源となる線路が汚れて動きのギクシャクやライトのちらつき等の原因になって、イライラさせられるような劣化が起きてしまうのだ。


これって、人間の体と同じじゃないだろうか?運動をサボるとすぐに肥満になるし、頑張ってライザップに通ったら結果にコミットするだろ?


そんな所が両者の共通点のような気がして、医療の知識を理解するのって、結構好きだったんだ。


だから、それがよく分かる[はた◯く細胞]という漫画は本当によく出来ていると思っていて、愛読している。健康に気を遣わないと体ってこうなるのか~……と思わせてくれる。人間の体とか病気の事をあんなに上手く擬人化出来る発想力は、本当に凄いと思う。


けど、お袋への質問攻めの度が過ぎたらしく、ある時「まず自分で勉強してどうしても解らなければ質問しなさい」と、お袋の医学生時代の教科書から最新の医療論文のコピーまで、研修医でも手に余りそうな難解な内容の資料を、ひとまとめでどっさり渡された。


その量、なんと京間8畳と広い筈の俺の部屋と、同じ広さの空き部屋だった他の2部屋を占領してしまう程。


客間に来客を通せなくなってしまったために、さすがに小さな託児所が出来そうな大きさのプレハブ倉庫を2つ境内に新築してそれらを移動させる事になったが、とりあえず仕分けが終わるまで、3部屋が2ヶ月程使用不能になる程の物量。


推理小説大好きな俺も、さすがに最初は呆然とした。


おまけに…


……フィンランド語とスウェーデン語とデンマーク語と英語とドイツ語とオランダ語とフランス語とスペイン語と日本語が混ざってるんだけど……。なんか、よくわからんがロシア語とかアラビア語っぽいのも部分的に混ざってるぞ……。


お袋さんよ、年齢一桁の子供にこれを読ませるか……?


と最初は思ったんだけど、俺には意外と、辞書を引きながらであれば言葉を理解しながら読める読解力はあったらしい。


というのも、分厚い時刻表を見ながら西村京太郎のトラベルミステリーを読んだり、医学生用の電子辞書を見ながら医療漫画を読むのは好きなので、日常的にそういった読み方をしていたからなのだと思う。


それにしても……


うちの家族はフィンランド人だから、地続きの隣国であるスウェーデン語やデンマーク語を知っていても、まあ疑問はない。


英語はアメリカで最新医療を学ぶには必須だし、GEと日本企業の合弁会社が有った筈だから、まあ解る。


ドイツ語はシーメンス、オランダ語はフィリップス、日本語も島津や日立・東芝・富士フィルム等の診断器メーカーの母国語だから、まあ解るとして……。


スペイン語やフランス語やロシア語が母国語となる医療機器メーカーを俺は知らない。単に言葉の通じる国が多いから、という事だろうか?フランスのアルストームとかルノーで、医療機器って作っているんだろうか……?ちょっと謎だ。


それぞれの言葉の辞書と、検索サイトの翻訳機能と、資料一式に入っていた医学生用の電子辞書や分厚い医療辞書を駆使して翻訳していくと、大まかな概要は理解出来るようになっていった。


それでも、ある時、ポケトークという翻訳機がテレビで紹介されて、即購入してしまった。部分的にぎこちない時は有るけど、声の発音だけでなく、印刷された文字をカメラで読み取って翻訳するという超スグレモノで、大体医学用語でも7~8割くらいはそのままで理解出来る精度で、ものすごく愛用するようになった。


まさかドラえ○んの翻訳コンニャクの現実版が実用化される日が、本当に来るとは思わなかったよ。いやぁ、日本人って本当にクレイジーだよな。そのうち自衛隊にZガ◯ダムやメサイアバ◯キリーが本当に配備されそうで、最近ちょっと怖い。


専門用語でどうしても分からないと一旦放置していても、たまに日本の医療漫画や小説、ドラマ等で詳しい用語解説などの情報が出たときに「この前わからなかったのはコレか!!」と思ったりするわけだ。


日本の医療系の作品は、漫画もドラマも監修がちゃんとしているから、結構実際の症例と照らし合わせてもきちんと理解できる。


海外でも日本の作品が人気が高いのは、こういう部分も理由の一つなのだろう。英語の翻訳にはアメリカのドラマ[ER-救急救命室-]も、俺はかなり参考にしているけどね。


その後、数年掛かりで過呼吸や対人恐怖症が治って外出が出来るようになってから、俺ともお袋とも仲の良い病院の同僚の医者数人に、DVDとか多国語翻訳の話をしてたんだけど、誰と話しても「あの人の手術(オペ)は人間業じゃない」とみんな口を揃えて言う事が多い。


「医者って皆があのレベルじゃないの?」としれっと尋ねたら、「無理!」「出来るか!!」「あんな化け物を基準にされたら、この世で医者が出来るのは両手で足りる人数しか居なくなる!!!」と、複数の医者に結構本気で怒られた。


俺はすっかり見慣れているので、お袋が医者の基準になってしまっているが、聞いた話では、お袋に師事したいがために、わざわざ東大を蹴って慈愛医科大学に入ってくる学生も多いらしい。


そう言えば、何年か前に、ノーベル医学賞の候補にお袋の名前が挙がった事があるとか聞いたような気がする。いま思い出したけど、もしかしたら、それが原因なのか。



閑話休題。


俺自身は、フィンランド国籍とは言え、だいぶ日本人の血が濃いらしく、日本人に多いと言われる童顔。


時々「ジャニ◯ズJr.に居そう」と言われる事はあるが、「ずっと芽が出ずにいつまでもバックで踊ってそうな地味子タイプ」とも言われる。褒められてるのか貶されてるのか随分微妙な表現だよな……。


年頃としてはちょっと大人に見られたい、背伸びしたい年代だから、そういう微妙な言われようは、何だかモヤモヤしてしまう気分ではある。まだまだ実年齢より若く見られたいような年頃じゃないしな……。


女子でいうとベリーショートよりわずかに短い位の、短髪の中性的な丸顔丸顔に近い輪郭の童顔だから、黙って座っていたら男だか女だかよく分からないと、しょっちゅう言われる。


さらに、残念ながら身長が157cm台で足踏みしてしまっているので、余計に男っぽく見えないのだ。さすがに体重は筋肉の分だけ女子より若干重めの50kgだが、見た目は小柄な女子と大して変わらない。


この身長のせいなのか、本当はアニオタかつ鉄オタかつ模型オタの陰キャなのに、何故か中学の時から陽キャグループから何かと弄られる役としての地位が定着してしまった。日焼けしなくて色白なのも、華奢な印象を増幅しているようだ。


まあ、弄られるといっても、いじめと言われるような陰湿なものではなくて、せいぜいじゃれあいの範囲で済まされるような、他愛のないもの。


ほとんどの奴が、俺が武術を嗜んでいると知っているから、本気で俺にちょっかいを出してくる奴はいない。


六蔵じいちゃんの嫁・神崎春江(かんざきはるえ)ばあちゃんの実家・奥菜(おきな)家も神社だが、そちらは広くて空手道場が併設されており、俺はそこの門下生。


奥菜家の空手道場は、同じ建物に柔道や剣道の教室もあり、さらに別の場所にある系列の教室で弓道や薙刀、合気道等の道場を複数経営している。


これらの道場に俺が頻繁に出入りしていて、競技毎に何処かしらで俺と手合わせした事がある奴があちこちに居るので、喧嘩では簡単に勝てない奴だと割と広い範囲で認識されている。


そう言えば、つい最近、高校に入る前の12月だったと思うが、うちの神社周辺を地上げ屋のチンピラがうろついてたのを、ちょっとボコった。


その時に聞き出した話では、新橋駅西口の再開発事業計画が持ち上がっているために、あぶく銭を得ようと目論んだヤクザや半グレ集団が複数動いていて、地上げのために水面下で火花を散らしているとのことだった。


俺が見つけた連中は、あろうことかうちの神社に放火しようと企み、その現場を押さえたのだ。この時は、垣根がほんの少しだけ燃えた。


ボヤのレベルで済んだ被害だったが、これが俺の逆鱗に触れることになったのだ。麻耶との思い出が詰まったこの場所を、こんなクズ共に明け渡すなど、冗談じゃない。


結果、俺は学校に行けない間に磨いていた様々なスキルを発揮し、合法非合法を問わずあらゆる手段を使って、チンピラが所属していたヤクザ組織を徹底的に潰した。その辺りの詳細は、改めて話す機会を作る事になるだろう。


そしたら、話に超巨大な尾ひれが付いてしまって、今や俺は、裏社会でラスボスさながらの死神(キングボンビー)扱いになり、最近ではチンピラどころか関東一円を牛耳るような大手のヤクザや半グレ集団にまで避けられるようになった。


挙げ句の果てに、「黒い死神」などという非常に痛い二つ名を付けられたらしく、今では見た目いかにもヤンキーっぽい連中が俺の顔を見る度に、その単語をボソッと呟いて逃げていく。


多分、殴り込み(カチコミ)をかける時に、ほとんどのケースで中学の時の制服だった黒い学ランや濃紺のジャージを着ていたので、俺の顔と黒い服の組み合わせが脳裏に焼き付いてしまっているのだろう。


まあ、結果として俺の周囲が平和で静かになったから、とりあえず良しとしている。


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