シンゴリラ
<世界迷惑劇場>
昔々、シンゴリラという、毛並み美しく筋骨隆々、心の優しい娘がいました。
あまりにたくましいので『背銀毛』という二つ名でも呼ばれます。
本当は貴族の娘なのですが、意地悪な継母とその連れ子の二人の義理の姉に美しさを妬まれていました。
ある日、街の闇市に流れていた魔法のバナナを食べさせられ、こんな姿へと変えられてしまったのです。
ゴリラの姿になると、彼女はオスでした。
そして普段はまるで召使いのように扱われていました。
「シンゴリラ、まだ掃除も終わっていないの?」
「ウホッ?」
姿が変わったことで、彼女はしゃべるのを諦めていました。
しかし、有り余るパゥワーにより、やるべきコトは全てそつなくこなしていったのです。
「ま、まあっ、ガラス窓だけでなく、床も壁も、石畳までピカピカに!」
「ウホホホホ…… ウホホッ」
「ふ、ふんっ、生意気ねっ、次は料理よっ」
その日の昼食は、一流シェフも舌を巻くご馳走でした。
繊細な味付けのポタージュ、みずみずしいサラダ、しっとりとしたローストビーフ。
トロトロのオムレツ、フワフワのパン、熱々のクリーシチューに使われた鶏肉は柔らかくジューシー。
食後のコーヒーに至るまで、完璧なおもてなしだ。
「ウホッ…… ウホウホ」
「とってもおいしかった」
「か、母様っ、このゴリラ、見事に家事をこなしてますわっ」
「いいでしょう。今後もしっかりと私たちに尽くすのですよ」
継母はそう言って、シンゴリラのゴリゴリな家事スキルを認め、彼女の服装もメイド服へと変わりました。
メイド服 in ゴリラ。
とてもアビスな光景でした。
しばらくしたある日のこと。
この国の王子が舞踏会を催すことになり、継母と二人の義理の姉は着飾って出かけました。
シンゴリラも昔ならば行きたかったのでしょうが、今の姿となってからはもちろん連れて行ってもらえませんし、本人も舞踏会は無理だとわかっていました。
だってゴリラですし。
しかし、自分の部屋で一人になると、悲しくなったシンゴリラは泣き出してしまいました。
「ウホウホ、ウホ、ウホウゥホ……」
ずっとしゃべっていなかったせいで人間の言葉を忘れていたのです。
どうやら『乙女の憧れ』は失くしていなかったらしく、ドレスアップをしたいがために、今の姿を呪っていたのでした。
すると、シンゴリラの二つ名『背銀毛』の名付け親である魔女が現れ、こう言いました。
「あなたには圧倒的なパゥワーがあるのに、まだ乙女の心が残っているのね…… 仕方ない。一時だけ元の姿に戻れる魔法を掛けましょう。もしも舞踏会で王子様の心に触れられなかったなら、もう乙女の心は諦めて、素敵でムキムキなイケゴリラになってください」
どうやらこの魔女もいくらか歪んでいるようです。
彼女は魔法の杖を振りかざし、シンゴリラの額に触れました。
「呪いよ退け。今ここにまことの姿を思い出せ…… ついでだわ。華やかなるを絹糸に、閑なるを宝石に。このドレスを纏って行くといいでしょう」
杖から魔法がひらめき、舞踏会へ行けるように素敵な支度を整えてくれました。
白く美しいドレス、青く光るネックレス、傷のあったかぼちゃからは豪華な馬車。
シンゴリラから屑野菜を貰っていたロバは、見事な白馬へと変身しました。
そして、燦然ときらめくガラスの靴…… 片足2kg。
しかし今や半分ゴリラの彼女には、多少のウェイトトレーニング程度にしか感じません。
サービス満点の魔女は、最後に注意を与えました。
「いいですか? 零時を過ぎれば馬車もドレスも元の粗末な姿に戻ってしまいます。必ず零時までにはお城の舞踏会場を出るようになさい。でないと素敵でムキムキなメイドゴリラに戻って、捕獲されてしまいますからね?」
「ウホッ、ウォホホホ、ホッホホホホハホ」
《ドコドコドコドコドコドコ……》
シンゴリラは、きっとご注意を守ります、と約束の『ドラミング』をして、大喜びで舞踏会へ出かけました。
人の姿を取り戻しても、人の言葉は忘れていたのです。
さて、魔法の馬車で舞踏会に着いた美しい姿のシンゴリラ。
たちまち注目の的となりました。
王子様もシンゴリラに魅了され、踊りに誘って愛の言葉をささやきます。
しかし人の言葉を忘れた彼女は答えられません。
「無口なヒトだ…… 可愛らしい」
「……ゥポッ……」
ついでに継母と義理の姉たちはなびかない王子の態度に苛立ち、シンゴリラと知らずに悔しがりました。
そうして夢のような時間を過ごしているうちに、彼女は時の経つのを忘れてしまいます。
気がつくと、時計が23時の終わりを指し示していました。
腕が、身体が、どんどん筋肉質になっていきます。
ライザッ◯もビックリの結果にコミット。
魔女との約束を思い出したシンゴリラは駆け出しました。
さっきまでガラスの靴の重さに少々もつれていた足取りは今や快速、だがシンゴリラがどこの誰だか聞けていなかった王子は引き留めようと叫びます。
「待って、あなたのお名前だけでも!」
しかし、シンゴリラは四足歩行であっという間に駆け抜けてしまいました。
後には、彼女が履いていた美しいガラスの靴が片一方だけ取り残されていました。
「奥ゆかしいのに、健康的…… 素敵だ」
この王子もやはりズレているようですが、何とかして彼女を見つけようと必死になってしまいます。
舞踏会に現れた謎の女性を探し出そうと、国中に『おふれ』を出しました。
残されていたガラスの靴がぴったり似合う、履いて素敵なステップで踊れる女性を自分の妻に、未来の妃にするというのです。
舞踏会に参加していなかった身分の高い女性から次々にガラスの靴を履き、試してみましたが、履いたまま踊れるような剛の者などおりません。
ガラスの靴を履きこなせる女性は誰もいませんでした。
そして参加者として名前が上がっていたために後回しだったシンゴリラの義理の姉たちの番になりました。
何とかしてガラスの靴を履き踊ろうとしましたが、無駄無駄無駄ァでした。
それを横目で見ていたシンゴリラを、ロバが押して使者たちの前へと進ませたのです。
痩せこけたロバの全力サポートでした。
国の使いは、疲れはてていてもう誰でもよかったのです。
「そこのメイドさん? も、どうか試していただけませんか」
と、顔も見ず、彼女(?)に言いました。
義理の姉たちは、召使い風情に何を言うの、やめてよねと大笑いしましたが、一応王子の命令は『この国のすべての娘に試させる』というものでしたので、お使いはシンゴリラにも履かせてみました。
するとガラスの靴はまるであつらえたようにぴったり。
魔女特製ですので当然です。
シンゴリラはもう片一方をポケットから取り出して履きました。
その事実に喜んだお使いは顔を見てビックリ…… ゴリラじゃん。
しかし真面目な使者たちはこの方こそ王子様の探しておられた女性だ、と心なくも言い、とりあえずはシンゴリラをお城へと連れていきました。
でも王子に怒られるだろうなぁと覚悟して行くも、王子は素直に喜び、数日後にはシンゴリラと結婚式をあげました。
愛に種族も性別も関係ない主義だったのです。
心優しいシンゴリラは、今までの意地悪を詫びた継母や義理の姉たちを許し、魔法のバナナを食べ放題の檻に閉じ込めた後に森へと放してあげました。
「ウホホッホホハホホッ」
《ドコドコドコドコドコドコ……》
「「「ウホホハホホホハホ」」」
《ドコドコドコドコドコドコドコドコ……》
その森には、シンゴリラが訪れる度に継母も義理の姉二人も喜んで、ドラミングを返してきた、ということです。
めでたしめでたくもなし。
チ□ちゃんに叱られそうですが、まぁこの話はこんなで終わります。
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