表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/17

セクシーなお姉さん

 私は今、ソラの腕に抱えられながら渋谷の空を飛んでいる。


 眼下には、溢れ返る人々の頭で黒くなっている場所と、車とビルから発せられる色とりどりの光の洪水。それはまるで大きな川の様で、私はその大きなうねりに少し恐怖を覚えた。


 ソラは細いのに、両手に私を抱えて肩には重そうな大きいリュックを掛け、目にはほんのり笑みを浮かべている。私はその横顔を見て、こんな状況だというのにドキドキしてしまっていた。さっき初めて会ったばかりの、この年下の可愛い系男子に。


 この子に、契約だか何とか理由は言っていたが、実質はキスをされてしまった。しかも、邪魔さえ入らなければ私は二回目を受け入れようとしていたのだ。……やばくないか? やばいだろう。どうなってんだ、私の貞操観念は。


 それにしても、随分高く飛んだものだ。先程までいた宮下公園ですら、遥か下に見える。


「ソ、ソラ! ソラって空が飛べるの!?」


 コウモリが空を飛ぶのは理解出来るが、吸血鬼の姿のままで空を飛べるなんて聞いたことがない。すると、私の質問にソラがあはは、とあどけない笑いを見せた。


「空は飛べないけど、思い切りジャンプしたんだ」

「ジャ、ジャンプでこんなに!?」

「吸血鬼の能力を使って、俺の周りの重力みたいなの調整出来るんだよ。なかなか便利だぞ」


 確かに便利そうだが、吸血鬼ってそんな仕組みだったのか。所謂(いわゆる)異能力というやつなのだろう。


「なあハル、もう寒くないだろ?」

「あ、そういえば」


 先程までガタガタ震えていたのに、全く寒くなくなっていた。なんでだろう。


「吸血鬼が空中で寒さには震えてたら格好悪いだろ? だから俺達は寒さには強いんだ!」

「はあ」


 よく分からない理論だ。それにそれが私になんで関係あるんだろうか。


「じゃあ暑さには?」

「暑いの嫌い……」


 急に可愛い不貞腐れ顔になった。口を尖らせているそこが、さっき私の口に。……やばい、顔がにやけそうだ。ていうか、キスされたからってチョロすぎやしないか、私。


 私達は、風を受けながら徐々に降りて行く。ソラが目指しているのは、上から見て光のない暗くなっている場所だったようで、降りた所は低めの建物の屋上部分だった。古い建物なのか丸い給水塔があり、縁には転落防止の錆びた金網が張り巡らされている。


「ソラ、一回降ろしてくれる?」

「えー」


 ソラは可愛く口を尖らせながらも、渋々といった体で私を降ろしてくれた。キョロキョロと確認すると、暗がりに下へ続いていると思われるドアを見つけた。


「あそこ、開いてるかな?」


 私が確認の為ドアに近付くと、ソラが後ろからついて来ながら言う。


「別にまた上を行けばいいじゃないか」

「あのねえ、こんな人の多い所でそんな姿を見られたら、大騒ぎになるから!」

「そうかな? 俺、結構自分ちの町では飛んでたけど騒ぎには一度もならなかったぜ」


 私はドアノブに手を触れ、ソラを振り返る。


「さっきは高い所からだったからよかったけど、こんな低い所から飛んだらすぐに見られるから。大人しく地上から行きましょ」

「ちえー。分かったよ。契約者のハルの言うことだからな、聞きまーす」


 ソラが満更でもなさそうな顔で笑ったので、契約者云々の詳しい話は道中ですることにして、私はドアノブを捻ろうとし。


「――え?」


 まだ力を込めていないそれが、勝手に回っていくのに気付いた。


「後ろに下がって」


 ソラが、私の反対の手を掴んで後ろへ引く。外開きのドアが、ギイイ、と軋む音を上げながらゆっくりとこちら側に開いた。え? 何だ? どういうこと?


 私は一瞬何が起こっているのか理解出来ず、ソラが引くままどんどん後ろに下がる。


「あら?」


 と、ドアの向こうから出て来たのは、この汚い屋上には不釣り合いこの上ない、ピンク色の上下のスーツを着たお姉さんだった。夜のお仕事の方なのか、なかなかに派手な化粧に豪華な髪型をしている。


「あれー、君達、こんな所で何してるのお?」


 お姉さんは、私達が女の子同士だと思ったのか、気安く話しかけてきた。


「あ、あの! ごめんなさい! ちょっと間違えて入ってきちゃって!」


 私が慌ててお姉さんに謝ると、お姉さんはつけまつ毛がたっぷり乗った目を細めながら、私とソラを交互に見比べる。


「あーそうなのお? でもおかしいなあ、一階は閉めておいた筈なのにい」

「あ、そのっあははっ! よ、よじ登って!」

「……ふうん?」


 お姉さんの笑顔が、不審げなものに変わっていく。しまった、余計なことを言ってしまっただろうか。ここは素早く撤退した方が絶対よさそうだった。


 私は、作り笑いをしてお姉さんに宣言する。


「あの! 今すぐ出て行きますんで!」


 すると、ソラが私の腕をぐいっと引っ張り、私を背後に匿った。すれ違いざまに見た表情は真剣そのもので、お姉さんとソラの表情の変化に、私は異質なものを感じ取る。


「あれー、坊やこんな所にいたのねえ」


 お姉さんが、ソラを全く愛想の籠もっていない目で見た。坊や? こんな所? 私の理解力が乏しいのだろうか、ちょっと意味が分からなさ過ぎて、私はただポカンとお姉さんを見ることしか出来ずにいた。二人は睨み合ったまま動かない。


「あ、あのー……?」


 すると、ソラがお姉さんから視線を逸らさないまま、言った。


「あいつは人間じゃない」

「え? だってどう見てもセクシーなお姉さんじゃ」


 私が驚いてソラにそう返すと、お姉さんがぷう、と可愛らしく頬を膨らませた。



続きは明日に投稿します!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ