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銃弾転生~滅びの都市の大魔導師~  作者: 泰山
七発目の魔弾のものがたり
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ep1 人は過ちを繰り返す

挿絵(By みてみん)

「人は過ちを繰り返す」


 薄暗い一室で無精髭の目立つ顎に手をやりながら黒コートの男が呟く。


 彼の名はタイガ・フレイクというらしい。

 ここに来る途中、同僚らしき男がそう呼んでいるのを聞いた。

 その手には黒光りする魔銃が握られている。


 魔銃――大昔、この世界に訪れた転移者が持ち込んだ武器リボルバーを元に作られたありふれた魔導具。

 それは攻撃魔術を使えない者たちにも強大な火力を与え、金属の盾や鎧、その他様々な武具を過去の産物へ変えた。


 そして、今の『俺』の居場所でもある。

『俺』はタイガの手に握られた魔銃……その弾倉に込められた七つの弾のうちのどれか一つらしい。

 位置から察するにたぶん発射順は一番最後。


 もちろん別に好きでこんな境遇に甘んじているわけではない。

 誰が使い捨ての鉄砲玉になどなりたいものか。

 つい先日まで俺は警備局に属する魔導捜査官だったはずなのだ。

 得意な魔術分野は【情報系】。

 世間一般で【鑑定】や【探知】と呼ばれているような術を寄せ集めた系統だ。


 目を閉じれば思い出す。

 数百年前、異世界にある国"日本"からやってきた多数の転移者が叡智を出し合って築き上げてきた魔法科学都市フューザン。

 この街の秩序を守るために俺は捜査官として犯罪者どもと戦ってきた。


 そう、それは"あの日"だって変わらなかった。

 研究所から危険な魔術のデータを盗んだ犯人が人質を取ってレストランに立てこもる事件が発生。

 それを解決するために出動した俺たち。

 だが、隊長が入口のバリケードを壊すべく魔術を発動したとき――取り返しのつかないことが起きたのだ。


 10メートル先を狙って投げつけたはずの隊長の【爆裂火球(ファイアボール) 】はすぐ目の前で俺達全員を巻き込んで炸裂。

 炎にまかれ遠のく意識、苦しくなる呼吸……。

 そして気づいたらこんな体になって――そして、今この場に居る。


 この体でも魔法力の消費の軽い魔術を幾つか使えたことだけは救いだろうか。

 とりあえず自分自身の状態を確認する事といくらかの暇つぶしはできた。

 捜査官としての訓練で【無詠唱】の技能を鍛えておいたのも良かったのかもしれない。


 ……話がそれてしまった。

 そんな『俺』を含めた七発の魔弾が込められたタイガの銃口は、部屋の隅で寄り添うように座り込んでいた8人の少女たちのほうへと向けられている。


 全員、美少女といっても良い娘達ばかりだ。

 それぞれの顔に浮かんでいる恐怖の表情がなければ、もっと素敵だと思う。


 全員がまるで誰かに決められたかのように露出度の高い拘束衣を着用している。

 まるで着用者を辱めるかのようにデザインされて……あれでは裸のほうがまだましかもしれない。


 何人かはその腕に、あるいはむき出しの太腿に紋様が刻まれている。

 恐らく全員が体のどこかに同じものを刻まれているのだろう。

 時間をかけてじっくり見なければ詳しいことは分からないがそれは恐らく何かの【隷属紋(れいぞくもん) 】――特定の行動を制約し、ペナルティを与えるタイプの魔法の紋様だと推測できる。


 ここに来る最中、タイガ達が話していたことと合わせて考えると、少女たちは逃亡奴隷。

 そしてタイガはそれを管理する側の人間といったところか。


 奴隷……。

 そう、数百年前、この地を訪れ、支配した転移者によって禁じられた恥ずべき野蛮な悪習。

 そのさい【隷属紋】を奴隷に植え付ける術も一部の例外を除き、一度はすべて封印されたはずだった。


(……また地球人に笑われたいのか!)


 いつの間にか蛮族に先祖返りしていたタイガにイラつく心を押さえ込むように一人叫ぶ。

 そんな俺の心の声も知らず。


「それを繰り返さないためにはどうすればいいか分かるか?」


 その言葉とともに銃弾が放たれる。

 部屋のすみで震えていた少女達のうち、一番年長と思われる二十歳前ぐらいの女性がとっさに両手を広げて他の少女たちの前に立ちふさがり……。


「おねがいっ!」


 ぷしゅん、と肉を割く音とともに下腹部に着弾。

 直後――激しい音を立ててその被弾箇所に浮かぶ【旋風(ゲイル) 】の魔法陣。

 続けて傷口から鮮血の帯を激しく噴出する!!


「けほっ、おねが……ほかのこ……けでも……」


 大きく急所を外したせいだろうか、即死することはできなかったのだろう。

 そんな彼女が吐血と、そして最期の気力と共に絞り出した懇願の声にタイガは何も応えない。

 ただ……。


「失敗する機会など二度と与えないよう、終わらせてしまえばいい

 すごくシンプルな話だろう?」

「うえぇ――ぐえ……――っ!」


 引き続き螺旋を描きながら臓器をえぐり、血液をかきだし続ける風素の威力にじたばたともがき、床を叩き続ける女性。

 その目に強く浮かんでいるのは飛び出さなければよかった、という後悔の念。

 だが、そんな彼女を気にも留めずタイガは懐から細長い何かを取り出し地面に投げ捨てた。


「最後のチャンスをくれてやる

 あんな風になりたくなければ、分かるな?」


 灰色の床の上に転がっているのは一本の鋭いナイフ。

 殺し合え、もしくは自害しろ――ということか。


「それとも、そんなことすら出来んのか。」


 すぐ目の前に倒れている女性を乱暴に蹴飛ばすと銃口を無言で少女達の居るほうに向け、今度は二度発砲した。

 まるで俺が手伝ってやると言わんばかりに。


 次の犠牲者は仲間に押し出され、タイガの前へと突き飛ばされた幼い顔の少女だ。

 小さな体の二箇所――右肩と左脇腹に弾を受けて倒れ込む。

 地面にうずくまった栗毛の少女の体に先ほど見たのと同じかたちの青い魔法陣が展開。

 赤い血を勢い良く撒き散らしながらのたうち回り、そしてあまりの苦痛に目を見開いたまま動かなくなった。


「一発はムダになったか。」


 タイガの口調から察するにどうやら俺たちは少々値が張る魔弾らしい。

 ひょっとしたら、彼が自害を勧めたのも弾代を節約したかったからかもしれない。

 だが、そんなことを知ったところで何の慰めにもなりはしない。


 ふと生き残った女奴隷たちのほうを見る。

 仲間の死に、ほぼ全員がおびえの表情を見せていた。

 無理もないだろう……立て続けに二人も惨殺されたのだ。

 だが、その中から一人。


「いいよ」


 特に赤みの強いロングヘアの少女が何かを決意したかのようにゆっくりと立ち上がる。


「アヤネちゃん!」

「アヤネ!?」

「大丈夫……怖くないよ」


 他の少女に言い聞かせるようにそう言いながらアヤネと呼ばれた少女は床のナイフを手に取った。


「どうせ助けてくれないんだよね?」


 タイガは何も答えない、たぶんこれが答え。


「そう」


 ふぅ、とため息をつくアヤネ。

 彼女からはどことなく他の少女たちとはまた違う気品のようなものが感じられた。


「だったら、仕方がないよ」


 目を閉じ、両手でナイフを握りしめ、自らの白い喉へとゆっくり近づけてゆく。

 まるで祈りを捧げるかのように。

 そんなアヤネをふぅんと無精髭を撫でながら見つめるタイガ。


「お前たちもよく見ておけ、せいぜい手本にするんだな」

「ううん、みんな、見ないで……お願い」


 二人が言葉を交わして幾らかの時が経ち、なかなかその刃を喉のほうに進めないアヤネにタイガが苛立ちを見せ始めた頃──。


 唐突に少女はナイフから離した左手を自らの鼓動を確認するように胸に当てる。

 あれは駆け出し魔術師がよくやる発動準備動作……?


「光よ!」


 その声と共に彼女の周囲に炎素(えんそ)を中心にした属性元素が収束し……


「みんな、逃げて!!今のうちに」


 次の瞬間、彼女の周りを彩るように炸裂した色とりどりのまばゆい【華炎舞(ダンシングフレア)

 その火花がアヤネの自害をすぐ近くで注視していた刺客の視覚を激しく焼き、その爆音が聴覚を強く痛めつける!


挿絵(By みてみん)

お読みいただきありがとうございます。

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