86.怜彬甘えん坊になる
「怜彬。今日も部屋で休んでいてくれ」
心配そうに頬を撫でながら、雷覇がそう告げてきた。
「でも・・・。もう1週間も部屋から出てないのよ?ちょっとくらい外に出てもいいでしょう?」
「だめだ。なにかあっては遅いんだ。お願いだからじっとしていてくれ」
雷覇が激怒りになって黒綾殿を殴ってしまってから1週間。
毎日こんな調子だった。わたしはほぼベットの上での生活をしている。
あの後、雷覇と黒綾殿は話し合いをして、和解したようだった。
わたしはまだ、黒綾殿と話せていない。凄く気になるけど
雷覇が外に出してくれないし、誰とも会わせようとしないのだ。
今となってはものすごい過保護になってしまった。
「どうしてもだめ?」
「だめだ。怪我が治るまでは安静にと先生には言われただろう?」
「・・・・。せめてお庭だけでも見たいの。ちょっとだけでもだめ?」
「う・・・。いくら怜彬の頼みでも、だめだ」
「雷覇が一緒でも?雷覇が連れて行ってくれれば問題ないでしょ?」
もういい加減外の空気を吸って、リフレッシュしたかった。
毎日食べては寝ての日々・・・。本も読みつくしてやることがない。
究極に暇だった。足は相変わらず痛いけど、薬を飲めば少しマシになる。
とにかくじっとしているのがつらかった。
「いや・・・。でもだな・・・」
お?あと一押しじゃない?雷覇がぐらいついているように見える!
「ね?お願い!雷覇が抱っこして連れて行って!」
わたしは万歳のポーズをしてお願いした。
「わかった!今すぐいこう!」
「やった~。ありがとう!雷覇」
甘えてるみたいで恥ずかしいけど、これで外に出れる!!やたー!!
雷覇が一緒なら心配ないよね!わたしは雷覇の首に抱き着いた。
広くてしっかりしている肩幅。厚い筋肉に覆われてるだろう胸板。
彼に抱きかかえられるのは安定感と安心感が凄かった。
わたしは雷覇に横抱きに抱えられて、庭園へ連れて行ってもらった。
久しぶりの外の空気だ。ああ・・・。気持ちいい!!
天気も良くて、日差しが心地良い。わたしはお庭の空気を思いっきり吸った。
「大丈夫か。怜彬。痛くはないか?」
「大丈夫よ。あっ!あっちの木の下へ行ってくれる?」
「わかった」
雷覇へ大きな樹の下へ連れて行ってもらう。
ちょうど木陰になっていて、のんびりするにはちょうどいい。
ここでちょっとひなぼっこしようと思っていた。
そっと、芝生の上へ降ろされる。フワフワして気持ちよかった。
「雷覇はどう?外はきもちいでしょう?」
「そうだな・・・。風が心地良いよ」
「でしょ?ここでお菓子を食べたらもっと素敵だと思わない?」
「よし!すぐに持ってこさせよう!」
「わーい!ありがとう!雷覇」
ちょろい!ふふふ。雷覇は傍にいたリンリンに指示を出していた。
こうして甘えると、色々やってくれるのか~。よしよし。
どっちみち何もさせてもらえないんだもん。今は思いっ気入り雷覇に甘えよう!!
「怜彬。どのお菓子がいいんだ?」
「うーんとね、その丸いの!」
「これだな!はい」
「雷覇が食べさせて。あーん」
わたしは雛鳥みたいに口を開けた。
「えっ・・・!いいのか?」
コクコクと首を縦に振って頷く。雷覇が丸いクッキーを口に入れてくれる。
美味しい~!!サクサクしてほろ苦くて!幸せ~。
やっぱりこういう時こそ甘いものよね!!モグモグ。
「美味しい!」
「珍しいな・・・。怜彬が食べさせて欲しいなんて」
「だって、雷覇が怪我をしてる時はずっとわたしが食べさせてたじゃない。たまには逆になってもいいでしょ?」
「それもそうだな・・・。怪我している間は俺が怜彬のお世話しよう!」
「うん!よろしくね!」
ニコニコしながら、またお菓子を口に運んでくれる雷覇。
あの日以来、雷覇は全く私に触れようとして来なくなった。
寝るときは一緒だけど、まるで腫れ物に触るみたいによそよそしい・・・。
もしかしたら、自分の怖い所をわたしに見せたのを気にしているかもしれないと
わたしは感じていた。だから、ちょっとでも自然に触れあえるようにしたかった。
それにしても!普段から人のお世話ばっかりしてるけど、お世話されるのって心地良いわね!!
癖になりそうだわ・・・。わたしに付きっきりになっていれば雷覇もそのうち
罪悪感も消えるだろう。元々、甘々フェロモン攻撃する人だしね~。
「あー!美味しかったぁ。お外で食べると美味しく感じるわ」
「そうだな。怜彬が喜んでくれてよかった。また明日もここに来よう!」
「いいの?」
「ああ。スケジュール調整して時間を作るよ」
「嬉しい!雷覇!ありがとう!」
やった~!お庭のお散歩ゲットだぜ!!
これで明日から少しは退屈せずに済みそう・・・。
「そうだ!雷覇に相談があったんだけど・・・」
「なんだ?怜彬」
「炎覇が建ててくれた別邸があるでしょう?あそこを今後も使えないかなと思って!」
「あそこか・・・。俺は別に構わないが、怜彬はいいのか?」
「うん!平気よ。せっかく炎覇が作ってくれたんだもの、あそこでゆっくり過ごしたいわ」
「よし!じゃあ、怪我が治るまであそこで過ごそう!」
「うん!」
よし!これで二人きりになりやすくなるぞ~!!作戦成功ね!
お部屋の中はリンリンがすでにやってくれいている。
実はいつでも使用できると教えて貰っていたけど、雷覇が部屋から出してくれないから
伝えるのをやめていた。やっぱり、お願いするタイミングって大切よね~。
わたしは、まだ告白できていない。今言っても、なんだか変な感じになりそうだったし。
別邸で二人で過ごす時間を増やせば、告白するチャンスも増えるはずだ!
・・・・。と思っていたのだけど。現実はそう甘くはなった。
次の日から、わたしが怪我をしたと聞いた人達が、連日お見舞いに来るようになった。
まず1日目は調香師の、リヨウとスバル。それに珀樹殿だった。
「怜彬様!!怪我されたんですって?大丈夫ですか?」
心配そうにベットの横へ歩いてくるリヨウ。
「怜彬様。怪我が早く良くなる香水ですよ!リラックス効果もあるのでぜひ使って下さい!」
そう言って、かわいいガラスの器に入った香水をくれるスバル。
「怜彬様・・・。お怪我は大丈夫なのですか?」
オロオロしながら心配してくれる珀樹殿。とってもかわいらしかった。
彼女はかわいいぬいぐるみをお見舞いに持ってきてくれた。
意外なチョイスだわ・・・。もしかしたら乙女チックなのかも!
「みんなありがとう!骨は折れていないから、安静にしていれば大丈夫よ」
それから女性4人でたくさんおしゃべりをした。やっぱり女同士だと楽しい。
雷覇といる時でも楽しいけど、話せないこともあるもんね!
「それにしても、雷覇様の溺愛っぷりには驚きましたよ~」
感心したようすで話すリヨウ。
「ほんとほんと!毎日かいがいしく怜彬様のお世話をしてるって噂よ」
ニコニコしながら話すスバル。きっとムツリから聞いたんだろうな~。
「まぁ・・・。ほほえましい事ですわね・・・」
珀樹殿は、リヨウとスバルとは技術的なところで話が合うようで
三人で時々盛り上がって難しい話をしていた。
みんな笑顔で楽しそう!!珀樹殿も大人しいけど無口ではない。
おそらく立場上控え目になっていただけだろう。今はとても生き生きと話をしている。
「ふふふ。嬉しいわ!わたし女友達って今までいなかったの!」
わたしがそう告げると、三人がこちらを見て固まってしまった。
そして物凄い勢いでこちらに近づいてきた。
「怜彬様、わたくしでよければまたお見舞いに来ます!!」
「私達もまた香水を作って遊びに来るね!!」
「う・・・。うん!ありがとうみんな。とっても嬉しいわ・・・」
どうしたんだろ?急に・・・。でも、自分を気にかけてくれる人がいるって嬉しいわね。
そしてまた次の日。
今度は、虹珠殿と虹禀殿。そして夏緋殿の三人が
お見舞いに来てくれた。相変わらず凄いオーラと色気の二人・・・。
そしてひっそりと存在している、夏緋殿。相変わらず濃厚な人達だ。
「怜彬殿!怪我をしたと聞いたぞ!大丈夫か?」
「はい!順調に回復しております虹珠殿」
「もう~。女の子なんだから無理しちゃだめよ?」
「ありがとうございます!虹禀殿」
「これ・・・。三人からのお見舞いの品よ・・・」
手渡されたのは、綺麗な花をかたどったガラス製の置物だった。
もの凄く高価な品って感じだわ!!壊さないように気を付けなくっちゃ。
「叔母上様。来るなら来ると事前に連絡をしてください!出迎える方も大変なんです」
若干、不機嫌になりながら話す雷覇。
本当に突然、何の前触れもなくこの三人の叔母上様達は訪れた。
相変わらずの破天荒っぷりだった。
「甥の嫁を訪ねるのになぜ、事前に許可がいる?私達と怜彬殿は、濃厚な時間を過ごした間柄だぞ?」
「普通に温泉旅行へ行っていただけでしょう!」
「雷ちゃんは相変わらず心が狭いんだから~。そのうち怜彬ちゃんに愛想つかされるわよ?」
「虹禀殿は黙っていてください!」
ああ!三人と雷覇で揉めだしてしまった。本気の喧嘩ではないだろうけど
わたしはオロオロしてしまう・・・。
「大丈夫よ・・・。怜彬殿。じゃれ合ってるだけですから・・・」
「はぁ・・・」
また!夏緋殿に心を読まれた!!この人は超能力者なのかしら?
見えてないものも見えていそうだわ!!
「どうせ、この怪我も雷坊が原因なのだろう?聞かなくても分かるぞ」
「ぐ・・・。それは・・・・」
「お前は相変わらずたるんどるようだな!今日は私が直々に叩き直してやる!表へ出ろ!」
「えっ?俺は別に・・・」
思いっきり雷覇の首根っこを掴んで虹珠殿が部屋を出て行ってしまった・・。
かわいそう・・・。雷覇。当分帰ってこれないわね~。
「姉さんは雷ちゃんを構いたいだけなのよ~。ごめんさないね~。騒がしくて♪」
「いいえ!大丈夫です。毎日退屈だったので嬉しいです」
「いや~ん!相変わらず怜彬ちゃんはかわいいわ~早くうちのお嫁さんになってくれればいいのに~♪」
「そうですね・・・。花嫁姿を見るのが楽しみです・・・」
「・・・。ありがとうございます。努力します・・・」
「うふ♡楽しみにいているわ~」
ううう。ごめんなさい。まだ告白できてないんです!!中々二人きりになれないんです!
その後は、虹珠殿と夏緋殿の三人でお茶しながら楽しく過ごした。
あっという間の1日だった。雷覇はみっちり絞られたらしくげっそりして帰ってきた。
叔母上様の雷覇に対する愛の大きさを感じた日だった。
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