85.荒ぶる銀獅子
「二人で何をしてるんだと聞いている・・・」
「雷覇!ちがうの!これは・・・」
「怜彬は黙ってろ!!」
雷覇が激しく怒ってる・・・。こんなに怒りをあらわにした彼は見たことがない。
どうしよう・・・。そう考えているうちに雷覇に腕を引っ張られて
黒綾殿から引き離されてしまった。
「黒綾殿・・・。自分が何をしているのか分かってるのか?」
「はい。分かってます」
雷覇を真っ直ぐ見つめる黒綾殿。周りの空気がピリピリしている。
わたしは黒綾殿が殺されたらどうしよう。と冷や冷やしていた。
それだけ雷覇の発する空気が鋭く、全身が凍り付くように感じたからだ。
二人はしばらく睨みあったまま、動かない。
「だったら、後で話がある。ここで待ってろ」
「わかりました・・・・」
そう言って雷覇はその場を立ち去ろうとする。
わたしは雷覇に腕を掴まれているから彼と一緒に行くしかない。
どうしよう・・・。
「雷覇!ちょっと待って!」
「・・・・」
彼は何も言わずにずんずん前へ進んでいく。わたしの声が届いていないようだった。
彼につかまれた腕が痛い・・・。すごい力で握られていた。
どうやら雷覇はわたしの部屋向かっているようだった。
「雷覇!お願い話を聞いて!」
だめだわ・・・。ぜんぜん話を聞いてくれない!
雷覇が部屋の扉を開けてわたしをベットへ押し倒す。
「きゃっ・・・」
「怜彬はしばらくここにいろ。俺がいいというまで出てくるな」
冷ややかな声でそれだけ告げると彼は扉を閉めて出て行ってしまった。
ガチャリと固い金属音がする。どうやら外側から鍵を掛けられたらしかった。
「雷覇!!雷覇!!お願い開けて!!」
わたしはすぐに起き上がって扉を叩いて叫んだ。
でも声がしない。きっと黒綾殿の所へ行ったんだわ!
大変!早く止めないと、・・・・。
「お願い!!誰か開けて!!だれか!」
どうしよう・・・。どうしよう・・・。とにかく外へ出なきゃ!!
わたしは部屋を見渡した。するとテラスに目がいった。
もしかしたら隣の部屋に行けば出れるかもしれない!!
わたしは急いでテラスの外へ出た。すこし距離はあるが飛び移れば
隣の部屋に行けそうだった。迷っている暇はない。
わたしは思いっきり足元の布をまくしたてて、手すりにつかまってよじ登る。
「うう。高い・・・!!怖い!」
下を見るのが恐ろしかった。足元に冷たい風が吹き抜けていく。
でも・・・。急がないと!!わたしは思いっきり飛び移った。
ドサッ!!
「きゃっ・・・・」
不格好だがなんとか隣のテラスに飛び移ることが出来た。ううう。足捻ったかも。痛い。
わたしは無我夢中で部屋に入って、扉の外に出た。
右足は痛いが、全速力で庭園まで向かった。
わたしが、庭園に着くと黒綾殿が雷覇に殴られた後だった。
黒綾殿の左頬が腫れて口から血が出ていた。
地面に転がる黒綾殿を雷覇が見下ろしていた。
「怜彬は俺の婚約者だ。なぜあんなことをした!」
「僕のきもちを・・・伝えたかったから・・・です」
「雷覇!黒綾殿!」
わたしは足を引きずって二人の間に割って入った。
「二人ともやめて!」
「どけ!怜彬。俺の話はまだ終わっていない」
雷覇は完全に頭に血が上ている様子だった。
だめだ!わたしでは止められない。誰か助けを呼ばなきゃ!
わたしは急いで駆け出した。
「だれか!!おねがい・・・!!」
全速力で走ってきたから息が上がってしまった。胸が痛い。苦しい。
「お姫様!こんなとこでどうしたんだ?」
声のする方を見ると通りすがりのサイガが立っていた。
わたしは、最後の力を振り絞って彼に向かって駆け出す。
「お願い!!雷覇を止めて!黒綾殿を殺しちゃう!!」
「おい!落ち着け!何がどうだって?」
「庭園へ!・・・。おねがい。止めて・・・」
「わかった!庭園へ行けばいいんだな!!」
わたしはコクンと頷いた。
サイガは振り返って凄いスピードで走って行った。よかった・・・。
わたしは急に気が抜けてその場にへたり込んでしまった。
「お嬢様!!どうされたんですか?」
「リンリン・・・」
真っ青な顔をしたリンリンが近寄ってくる。
わたしは、リンリンにしがみついて話をした。
「リンリン・・・。お願いわたしを・・・庭園へ連れてって」
「わかりました。私に捕まってください」
わたしの切羽詰まっている様子を察したのか、リンリンが肩を貸してくれる。
わたしは右足を庇いながら歩いて庭園へ向かった。
お願い・・・。間に合って・・。
わたしが、庭園へ戻ると雷覇はサイガとムツリに取り押さえられていた。
黒綾殿は無事だった。頬は腫れているけどそれ以上の傷はない。
・・・。良かった・・・。
「雷覇!落ち着け!」
「離せ!サイガ!」
「雷覇様。じっとしてください!」
大の男二人で抑えても、勢いの止まりそうにない雷覇。
それだけ、彼の怒りは凄まじい。本当に虎のごとくすべてをなぎ倒しそうな形相だった。
「何してるんだ!お前たち!!」
誰かが呼びに行ったのか、水覇殿が駆け寄ってきた。
良かった・・・。彼が来たなら安心だ。
わたしはリンリンに寄りかかりながらその場でしゃがみ込んでしまった。
「黒綾殿が、怜彬に触れた・・・」
「黒綾殿が?本当なのか?」
「はい・・・。好きだと伝えて抱きしめました・・・」
「なんてことを・・・。とにかくここじゃ話ができない。ひとまず執務室へ行こう」
そう言って、水覇殿が黒綾殿を連れて行く。
でも、雷覇はまだ気が立っている状態だった。
「雷覇!いい加減にしろ!お姫様、怪我してるんだぞ!!」
大きな声でサイガが怒鳴る。その場は一瞬しんと静まり返った。
「怜彬・・・が・・・?」
「雷覇・・・」
不意にわたしの事を思い出したのか、雷覇がこちらを振り返る。
すごい心配そうな顔でこちらに駆け寄ってきた。
「怜彬!なんでここに・・・どこを怪我したんだ?」
「大したことないわ。ちょっと足を捻ったの」
「・・・。なんて無茶を・・・」
そう言って雷覇に抱きかかえられる。
わたしは、彼の首に抱き着いた。良かった・・・。いつもの雷覇だわ・・・。
ホッとして泣いてしまった。
「ぐす・・・。良かった・・・雷覇が・・・元に・・・戻って」
「すまない。怜彬・・・。怖い思いをさせた」
雷覇もぎゅっと背中を抱きしめる。初めて銀獅子の怖さを知った。
わたしが迂闊だった。黒綾殿に抱きしめられた後すぐに離れればよかった。
きっと戦場ではもっと凄い気迫で戦っていたのだろう。
国を守るために・・・。だとしても、わたしの好きな人が大切な人を傷つけるのは
見たくなかった。
「かなり無茶をされてますね・・・。1か月間は安静にしてください」
すぐに医務室に連れて行かれて、雷覇の主治医の先生に見てもらった。
足を捻った上に思いっきり走ったのが悪かった。右足首が青紫色に腫れている。
今もズキンズキンと痛い・・・。うー。ほんとに・・・痛い・・・。
「怜彬。大丈夫か?」
「大丈夫よ・・・。骨が折れてなくて・・・良かったわ」
「ほんとうに・・・無茶しないでくれ」
「ごめんさない。でも・・・。雷覇を止めないとと思って必死だったの・・・」
「怜彬・・・。俺のせいで・・・すまない」
雷覇にぎゅっと抱きしめられる。
今度はわたしが怪我をしちゃった・・・。黒綾殿は大丈夫かしら?
怒り狂った雷覇に殴られたのだ相当、酷い怪我に違いない。
「怜彬・・・。黒綾殿の事が好きなのか?」
「えっ?」
わたしを抱きしめる腕に力がこもる。雷覇の顔は見えないが
落ち込んでいる事には違いない。うーん。絶対に勘違いしてるよね?
「黒綾殿は弟みたいに思ってるだけよ」
「・・・。そうか・・・」
「ごめんなさい。わたしに自覚が足りなかったの・・・」
「俺も甘かった・・・。黒綾殿があんな事するとは思ってなかった」
「でも、どうしてもわたしに伝えたかったんだって。それで気持ちに区切りをつけたいって・・・」
「だとしても、抱きしめる必要があるのか?」
「理性じゃどうにもならないこともあるわ・・・多分だけど。雷覇もそうでしょう?」
「それも・・・。そうだな・・・・」
手の力を緩めて、雷覇が体を離す。ちょと落ち着いてきたみたい。
目つきがさっきより険しくない。
「だから、黒綾殿を許してあげて」
「怜琳・・・」
「雷覇も知ってるでしょ?黒綾殿が凄く素直で良い子なのを!」
「そうだな・・・・。今でも仕事を頑張ってくれているしな」
「わたしは嫌よ、雷覇も大切だし、黒綾殿も弟のように大事だもん。そんな2人が傷つけ合うの・・・みたく・・・ない」
話してて、また悲しくなって涙が出てきた。わたしがいけなかったんだろうか?
雷覇に対しても、黒綾殿に対しても接し方が間違ってたの?
やっと・・・できた、素敵な人達なのに・・・。
こんな形で失いたくなかった。最近では二人共息もあってきて、家族みたいで楽しかった。
「怜琳。悲しませてすまない・・・泣かないでくれ」
「だって・・・悲しいもの・・・二人共傷ついて・・・」
「ちゃんと黒綾殿と話をする。仲直りするよ・・・」
「ほんとう?追い出したりしない・・・?」
「しない。約束する」
「ううう。雷覇・・・ありがとう」
わたしはまた雷覇に抱きついた。すぐには無理でも前みたいに仲良くしてほしい。
そう思うのはわたしの、我儘なのかしら・・・?
「怜琳も約束してくれ・・・。もう怪我するような事はしないって」
「うん。約束する・・・」
雷覇が頭を優しく撫でてくれる。ぐす・・・。良かった・・・。
わたしも、ちゃんと黒綾殿と話をしないと。
まだ彼にきちんと伝えていなかった。せっかく勇気を出して告白してくれたのだ。
こちらもそれ相応の態度で示さいないと失礼だ。
わたしは落ち着いたら、黒綾殿と会って話をしようと思った。
最後までお読み頂きありがとうございます!
(*^^*)
ブックマークしてくださった方も
ありがとうございます\(^o^)/
少しでもいいなと思ったら下の☆にポチり
お願いいたします!!
感想・ご意見お待ちしておりますm(_ _)m