83.終わり良ければ総て良し
わたしと雷覇は夜の街へと繰り出した。久しぶりに2人で過ごす時間だ。
さっきからニコニコしながら、わたしの横に座っている雷覇。
ものすごく上機嫌だわ・・・。まぁ・・・。一ヶ月ぶりだものね!
今は2人で演劇鑑賞をしている。もちろんVIP席で!だ。
ドーム型の建物で、真ん中に舞台があり、ぐるりとそれを囲むように座席が配置されている。
わたしと雷覇はちょうど真ん中の上の方で見ていた。
荘厳な音楽と、綺羅びやかに着飾った俳優達が次々に出てくる。演目は悲恋だった。
椅子が凄くふかふかしているので座り心地がいい。
椅子の横にはサイドテーブルが置かれていて、飲み物と軽食が乗っている。
横の席は、壁になっているから誰が座っているかはお互いが見えない。
完全なる個室だった。雷覇は有名人だし、王族が見に来てるってなったら
凄い騒ぎになりそうだもね!大人しく演劇を見ていよう。
「どうだ?怜琳。楽しいか?」
「ええ!とっても。初めて見るけど演劇って素敵ね~」
「この話は、夏陽国で結構、有名なんだ」
「そうなのね!どんなお話なの?」
「ある1人の青年が身分の高い女性と恋をするんだ。青年は無名の画家で収入が少なく、2人は結婚できなかった。女性は親が決めた相手と結婚してその後病気でなくなるんだ」
「まぁ・・・。可哀想に・・・」
「それを聞いた青年は人生に絶望するんだ。女性を失った悲しみを全て絵に注ぐ。その絵があまりにも素晴らしい出来あがりで、一気に有名になるんだ」
「悲しいわね・・・。もっと早く有名になっていたら結婚出来たかも知れないのに・・・」
雷覇が肩を抱き寄せて体を自分の方へ引き寄せる。
「そうだな・・・。でも、女性が死ななければ青年は画家としての才能を開花させることは出来なかっただろう。人は絶望して初めて人生を変えようと活路を見出す。そんな話だ」
「絶望して・・・活路を見出す・・・最後は素敵な終わり方ね!」
なんとなく自分自身と重ねて考えてしまった。わたしも炎覇を失い絶望し
その4年後、雷覇と再会して今がある。先の事ってどうなるか分からないんだわ。
今もこうして雷覇と二人で出かける事になるなんてあの時は想像もしなかった。
「そうだな。怜彬、飲み物はいらないか?」
そう言ってグラスに入ってる飲み物を渡してくれる。
わたしは雷覇からグラスを受け取った。
「ありがとう。・・・・・あの雷覇・・・・」
「なんだ?お水じゃない方がいいか?」
「違うの・・・。あのね・・・・わたし・・・・」
「どうしたんだ?何か心配事か?」
不安そうにわたしの顔を覗き込む雷覇。
ちがうのー!そうじゃなくって・・・・。好きって言いたいだけなの!
グラスを持つ手が震える。わたしは一気に水を飲みほして話すと決めた!
「わたしね!雷覇の事が・・・・」
バーン!!!
言おうとした途端、舞台から凄い音量の音楽が流れた。
どうやら青年の好きな女性が亡くなった場面になったところだった。
「すまない!怜彬、なんて言ったんだ?」
「あー。えーと。違う飲み物が飲みたいなって・・・・」
「そうか。じゃあ果実酒を頼もう!」
雷覇が従業員を呼んで注文し始める。
ああ!もうー!!!タイミング悪すぎ!!やっと言おうと決心したのに・・・。
自分の運の無さを呪った。告白のタイミングで音楽が流れるなんて!!
はぁ・・・。一気に気がそがれてしまった・・・。今日はもういいや。
緊張が高かった分、落ち込む落差がすごい。急に体がだるく感じてくる。
ムツリの時といい、今といい、どうも告白する時期が悪いのかなかななか上手くいかない。
難しいわ・・・。さらっと言ってしまいたい!皆どうしてるのかしら?
「怜彬、ここの果実酒は美味しいぞ!」
雷覇が赤色の綺麗なお酒を手渡してくれる。
「・・・・。ありがとう・・・・」
「この酒は気に入らなかったか?」
「ううん!違うの!女性が亡くなって悲しくなっただけ!」
「そうか。怜彬は優しいものな!」
お酒を飲みながら演劇を見る。これは・・・。ちゃんと計画しないと無理だわ!
わたしは今までの反省を踏まえて咄嗟に言うのではなく、ちゃんと二人きりになる
機会を作ろうと思った。リンリンにお願いすればだれにも邪魔されずに二人になれる。
うん!!そうしよう!帰ったらリンリンに相談しよう!
わたしは、またお酒をグイっと飲みほした。とっても甘くてまろやかな味がして美味しかった。
演劇を見終わったわたし達は少しだけ、街をゆっくり歩いた。
夜の街も電気が通っているからとても明るい。
秋唐国にはない技術だから凄いと感心した。
今も街中は人が溢れている。明るいと皆、夜でもお家には帰らないのね~。
秋唐国は夜になると大体の人は
家に帰って家族と過ごすことが一般的だった。
「ねぇ聞いた!雷覇様、近々ご結婚されるんですって!」
んん?横をあるく女性二人組の話している内容が気になって耳を傾けてしまった。
「そうなの?そんな事どうしてわかるのよ?」
「あら?知らないの。今日新しく発売した小説に書いてあったわ!!」
「まぁ!あの小説に!大変!!わたしまだ買ってないわ!!」
えええ!!もう販売されてるの?今日決まったことよね?
・・・・。凄い。王国からの指示とはいえ、そんなにすぐに小説になるなんて・・・。
うーん。これは早く怜秋に伝えないと、誤解を招きそう!
すぐに手紙を書いて密偵網で届けてもらおう!
「怜彬、また二人で出かけような!」
ニコニコしながら雷覇が話しかけてくる。
よっぽど今日は楽しかったのね~。
まぁ、前まで怪我してたからお城の中でしか動けなかったもんね!
「そうね!また二人で出かけましょう」
その後もしばらく二人で街を見て回ってからお城に戻った。
とっても楽しい時間だった。告白できなかったのは残念だけど・・・。
それも作戦を練って挑めば大丈夫ね!!うん。うん。
次の日の朝。意外な人からお誘いを受ける。
「えッ?わたしに?」
「はい。何度もお断りしたのですが、どうしても怜彬様と最後にお話ししたいと・・・」
ムツリが気まずそうに報告してきた理由は珀樹殿が
わたしと話がしたいと言っているからだった。
「いいわよ。それじゃあ、わたしの庭園へきてくれるように伝えて」
「いいんですか?」
「ええ。わたしも話してみたいと思っていたし、ちゃんと諦めてくれたか気になってたの」
「かしこまりました。庭園へ向かうように伝えます」
一礼してムツリが部屋から出て行った。
「お嬢様・・・。大丈夫ですか?珀樹様とお会いして」
「多分、大丈夫よ!悪い人じゃないと思うの」
「ですが・・・」
「何かあればリンリンを呼ぶわ!ね?」
「・・・。かしこまりました。くれぐれもお気をつけ下さいね」
「ええ。分かっているわ」
リンリンに念を押される形で庭園へ向かった。彼女と二人で話したいので
リンリンには少し離れて見てもらうことにした。
庭園で待っていると珀樹殿がやってきた。
あまり眠れていないのか、顔色が少し悪かった。
「怜彬様・・・。お呼びたてして申し訳ございません・・・」
「いいのよ。気にしないで!お話しするのは初めてですね」
「はい・・・。珀樹と申します」
「わたしは秋唐国の第一王女、怜彬です。どうしてわたしと話を?」
わたしはゆっくりと歩き出した。花や草木を見れば珀樹殿も
緊張しないで話せるかもしれないと思ったからだった。
「その・・・。雷覇様が愛している女性がどんな人なのかしりたくて・・・。差し出がましいとは思ったのですが、諦めきれなくて」
おおー。やっぱり・・・。諦めてなかったー!!
よかった!ちゃんと話をしようとして!!ナイスわたし!
「珀樹殿は以前から雷覇の事を好きだんですね」
「はい・・・。10年も前から知っていて密かに思っておりました・・・」
「10年も・・・。雷覇のどこが好きなの?」
「初めて会ったときとても綺麗な瞳でした・・・。真っ直ぐな性格で・・・。そこに惹かれたのだと思います」
「そう・・・。人を好きになるのって楽しいけど、苦しくもあるものね」
「怜彬様・・・」
「わたしはね・・・。すごく大好きだった人が病気で亡くなってずっと苦しかったの。でも雷覇と会って一緒にいるうちにだんだん過去を受け止めることが出来たの」
「そうっだのですね・・・」
わたしは小さな白い花が沢山咲いている場所で立ち止まって話をつづけた。
珀樹殿は、本当にわたしと話したいだけのようだった。
わたしの言葉にきちんと耳を傾けてくれているのがわかる。
「だからね・・・。彼と出会えてよかったと思ってるの。前へ進みだしてからいい事がたくさんあったから」
「・・・・」
「わたし、お花や草木が大好きなんです!見てて心が和むでしょう?」
「え・・・?おはな・・ですか?」
「そう!この白いお花とってもかわいくて綺麗でしょう?」
「・・・・。そうですね・・・気が付きませんでした・・・」
びっくりしたようにわたしの足元で咲いている花を見る珀樹殿。
1つの事にとらわれていると周りが見えなくなる・・・。私も経験がある。
珀樹殿にはもっと前を見てほしいと思った。
「ふふふ。気にも留めなければわからないわよね。でも、ちゃんと周りをみれば沢山の花や草木があるでしょう?太陽の光をいっぱい浴びてきれいでしょう?」
「・・・・。ほんと・・・ですね・・・」
珀樹殿が俯いて泣いてしまった。きっと雷覇の事を考えているのね。
でも・・・。ごめんなさい。雷覇は譲ってあげれない。
わたしも彼が好きだから・・・。わたしはそっと心の中で思った。
「そういえば、珀樹殿のお家の技術ってどんなものなの?わたし知らなくって」
「ぐす・・・。ええと・・・電気を沢山一度の場所に運んだり・・・早く送ったりする技術です」
「凄いわね!!そんな事ができるの?」
「はい・・・。施設やそれを管理するものがいればどこでもできます・・・」
「まぁ!!素敵だわ。わたしの国でもできないかしら?」
「へっ・・・?」
わたしはピンっと閃いてしまった!そうよ!珀樹殿の技術をうちへ
持ってくれば、たとへ婚約を結べなくても、珀樹殿は責められないのではないかしら?
しかも!!秋唐国にも、電気を使えるようになったら
もっと便利になると思うし!最高の形じゃない?
「秋唐国はまだ火の明かりしかないの!でも冬羽国の進んだ技術を教えて貰えるなら、とってもみんなの為になると思うの!どうかしら?」
「いいんですか?・・・わたくは雷覇様の婚約者になろうとしたのですよ・・・?」
「関係ないわ!でもあえて言うなら、なろうとしてくれたからこうして出会えたわ!!」
珀樹殿はますます、泣いてしまってポロポロ涙を流してる。
ああ!どうしよう!わたしが泣かしてしまったみたいになってる!!
わたしは珀樹にハンカチを渡した。
「怜彬様・・・。ありがとうございます。謹んでお受けいたします」
涙を拭いて、珀樹殿が一礼した。
「本当!?ありがとう!珀樹殿!これからよろしくね!!」
「はい!必ずや・・・ご期待に添えてみせます」
目は真っ赤になっていたが、珀樹殿はもう泣いていなかった。
どこかスッキリした表情だった。色々話をしたが、珀樹殿は本当に
技術について精通していて、沢山の情報を教えてくれた。
家の為に凄く努力した人だと感じた。やっぱりお話しができて良かったわ!!
最後、別れ際に雷覇様の事はきっぱり諦めますと言ってくれた。
わたしが夏陽国に滞在している間に、改めてわたしを訪ねてくれることになった。
今度会えるのが楽しみだ!!
冬羽国へ帰る彼女を見送った。最後は笑って手を振ってくれていた。
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