【番外】黒綾《こくりょう》の憂鬱
久しぶりの番外です!黒綾です!!(^^♪
黒綾目線
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僕はさっきからドキドキして、なかなか寝付けずにいた。
明日・・・。怜彬殿と一緒に街へ行ける・・・。しかも二人で!
リョクチャ事業が思いのほか順調に進んだため1日だけ自由に動ける時間ができた。
怜彬殿は、僕が秋唐国に来たことがない事を
覚えていてくれて、一緒に街を回らないかと誘ってくれた!
ああ!どうしよう!緊張する・・・。何を話そう・・・。何を聞こう・・・。
そんな事を考えながら、怜彬殿の眩しい笑顔を思い浮かべる。
やっぱり好きだと思った。彼女が愛おしいくてたまらない。
僕に笑いかけてくれるたび、嬉しくなる半面泣きたくなる。
彼女が気さくに話してくれるのは僕の事を弟と思っているからだ・・・。
「はぁ・・・。眠れない・・・」
ベットから起き上がって部屋のテラスに出た。夜風が気持ちよかった。
怜彬殿に助けられて、夏陽国へ行き毎日顔を合わせるようになった。
彼女が僕の能力を認めてくれたからだ。
とても嬉しかった。怜彬殿には情けないところも見られているけど
変わらない態度で接してくれている。
馬車でも沢山話をした。怜秋殿をとても大切にしている事がわかった。
小さい頃に相次いで両親を亡くし、信頼していた兄も失った怜彬殿。
家族と呼べるのは怜秋殿しかいない・・・。
10歳も年が離れているせいか母親のようにふるまってしまうと苦笑いしていた。
怜秋殿も話してみるととてもあっさりしていて話しやすかった。
おまけに頭が凄く良かった。一度話したことを正確に理解し的確な質問をしてくる。
12歳で国王という立場に立てるだけはあると思った。
そんな彼も怜彬殿をとても大切にしていた。いい姉弟だなと思った。
「ふぅ・・・。とにかく明日はいつも通り笑顔でいよう!」
僕はそう決めて眠りについた。
翌朝、玄関で待っていると質素な格好をした怜彬殿が降りてきた。
綺麗だ・・・。
階段を一段、一段降りてくる彼女を見るたびにどんどん心臓の鼓動が早くなる。
質素な服装をしているせいか余計に、怜彬殿が綺麗だという事がよく分かる。
何も飾らなくても持っている輝きは消せないんだ・・・。
僕は思わず見とれた。
「黒綾殿!お待たせ!」
僕はなるべく平静を装って返事をした。
「怜彬殿!今日は宜しくお願いします」
2人で馬車へ乗り込んだ。今日も怜彬殿はいい香りだった。
前に嗅いだ匂いと違うな・・・。ぼんやりそんなことを思った。
「今日はね、秋唐国の名産品を見て回ってお昼を食べようと思うの」
「いいですね!たしか宝石が凄くたくさん取れることで有名ですよね!」
「そうよ!沢山の宝石があるからとてもおもしろいと思うわ!」
「楽しみですね!」
ニコニコ楽しそうに話す怜彬殿。
今この瞬間だけは彼女は僕の為に笑って話してくれている・・・。
そう考えるとぎゅっと胸を締め付けられるような気がした。
最初にいったお店は大きな宝石店だった。商品を一つ一つ丁寧に
怜彬殿が説明してくれる。
前々から思っていたけど怜彬殿は距離が近い・・・。
凄く困る・・。抱きしめたい衝動を抑えるのに必死だ。
それにいい香りするし・・。笑顔が可愛くて仕方ない。
ふと目の前にある宝石に目が留まった。そんな派手な輝きはないが綺麗な宝石だった。
「これは何という宝石ですか?」
僕は薄い桃色の宝石を指さして聞いてきた。
「それはローズクオーツという宝石よ、愛を表す宝石ともいわれているの」
愛を表す宝石・・・。好きだと伝える宝石・・・。
「へぇ・・・。そうなんですか!澄んだ色でとっても綺麗です」
「ふふふ。このお店は宝石を買ったら好きなデザインに加工してもらえるわよ」
「じゃあ、ペンダントとかブレスレットとかできますか?」
怜彬殿にあげたら喜んでくれるだろうか?
ドキドキしながら僕は尋ねた。
「もちろん!あ・・・!前に言っていた好きな女性にあげるの?」
「いっ・・・いえ。あの・・好きでもない男性から宝石とか貰ったら嫌でしょうか?」
ああ!どうしよう!怜彬殿が好きってバレないかな?
一瞬凄く焦ってしまった。
「うーん。わたしの場合はあまり高価なものだと気が引けるかも、お礼とかも気を使うし・・・」
「なるほど。じゃああまり高価じゃないものでブレスレットとかどうですか?」
「ブレスレットなら普段から身に着けられるしいいと思うわ!」
「じゃあ、このローズクオーツをブレスレットにしてもらいます!」
良かった!!怜彬殿は気が付いていなかった。
でも・・・。僕が他に好きな人がいるって思ってるんだなー・・・。
僕なりにこの数か月アピールしてるつもりだったがやっぱり
怜彬殿は気が付いてない・・・。
仕方がない。彼女は雷覇殿が好きなんだ。今はこう着状態だけど。
1か月前、雷覇殿が怜彬殿の姿を見て
我を忘れて口づけした。・・・・しかもみんなの前で。
それに怒った怜彬殿は凄く泣いて傷ついていた。
正直見たくなかった。あんなに泣いて怒っている怜彬殿は初めて見た。
いつも彼女は笑っているから・・・。
でも彼女が怒ったり泣いたりするのは雷覇殿だからだ。
それがとても歯がゆい。もどかしい。すぐ手の届く距離にいるのに届かない・・・。
話を聞けば聞くほど日頃からの二人の関係が良好なことが分かった。
怜彬殿が怒っていたのも口づけされた事ではなく
皆の前でされたことがい嫌だったからだ。
僕の入る隙間はほとんどなかった。でも怜彬殿の傍にいたい。
その想いが強くて離れることもしたくない。複雑な心境だった。
宝石店を見た後は、お昼を食べることになった。怜彬殿が
よく行っているお店に連れて行ってもらった。
店員さんも愛想が良く、料理もとても美味しかった。
「あっさりした味付けが多いわよね。夏陽国の香辛料使ってる料理も美味しいけど、やっぱり自分の国の料理が一番ほっとするわ」
手元にあるスープを飲みながら怜彬殿が話す。
「そうですね。僕も黒秦国の料理が恋しくなる時があります」
「そうでしょうね。黒秦国の料理はどんな料理なの?」
「山菜や、川魚、を使う事が多いですね。味付けは出汁を取っているので奥深くで美味しいですよ」
「それは美味しそうね!また黒秦国へ行けたら食べてみたいわ」
「ぜひ!きっと怜彬殿にも気に入って頂けると思います」
「あっ!黒綾殿、ほっぺに食べ物がついてるわよ」
そう言って怜彬殿の顔が近くなって僕のほっぺの料理を手拭いでふいた。
・・・・っ!!ドキリと心臓が大きく跳ね動く。
「あ・・・。ありがとう・・・ございます」
怜彬殿って時々すごいよなー・・・。
僕の事を好きだって勘違いしそうになって憂鬱になる・・。
きっと弟と思っているからだ・・・。僕を好きなわけじゃない・・・。
心の中で何度も自分に言い聞かせた。その後食べた料理は味がしなかった。
店を出てしばらく二人で歩いていると凄い早さでこちらに迫ってくる馬車が見えた。
「危ない!!」
僕は思わず怜彬殿の腕を引っ張った。
「えっ?」
凄い早さの馬車が通り過ぎて行った。
その勢いで彼女を抱きしめる形になる。またふわっと香る・・・。いい香り。
「ありがとう!黒綾殿、もう少しでぶつかってしまうところだったわ」
「・・・・」
僕は無意識に怜彬殿を抱きしめていた。
怜彬殿が何か言っていたけど聞こえない。
華奢な肩をぎゅっと抱きしめた。
ああ・・・。ずっとこうしていられてたらどんなにいいか・・・。
胸の詰まる思いだった。
「黒綾殿?」
「あ・・・。すみません!」
きょとんとした顔で僕を見上げる怜彬殿。
僕は意識を取り戻して彼女から体を引き離す。
僕は・・・!なんてことを・・・!!
「いいのよ。危ないとこをありがとう」
そう言ってにっこり微笑む怜彬殿。
「いえ。怜彬殿に怪我がなくて良かったです」
「それじゃあ宝石店へ向かいましょう!」
「そうですね。行きましょう!」
怜彬殿は何も気にしていない様子だった。
そりゃあ・・・。そうだよね。意識されているはずがない。
でも・・・。彼女を抱きしめた感覚が自分の体から離れない。
雷覇殿もこんな気持ちになったから口づけしたのだろうか?
思わず我を忘れて体が動いてしまうほどの衝動・・・。
こんな事初めてだった。あんなことになるんだ・・・。気を付けないと。
宝石店へブレスレットを受け取って馬車に乗って王宮へ戻った。
時間が経つのを忘れるくらい楽しい一日だった。凄くドキドキもしたけど・・・。
「怜彬殿!今日はありがとうございました」
「こちらこそありがとう!とても楽しかったわ」
「はい!僕もとっても楽しかったです。また遊びに来ますね!」
「ええぜひ!黒綾殿ならいつでも大歓迎よ!」
「ありがとうございます。・・・あの」
僕は意を決して怜彬殿にブレスレットを渡そうとした。
「あっ、ブレスレット好きな人に渡せるといいわね!」
「そうですね・・・。渡せるといいですね」
「黒綾殿、さっき何か言おうとしてなかった?」
「いえ。何を言うか忘れちゃいました!」
「そう?また思い出したら言ってね」
「はい」
ああ!せっかくのチャンスだったのに・・・。
渡せなかった。僕の意気地なし!!夏陽国へ行ったら
いつ二人きりなれるか分からないのに!握りこぶしに力が入る。
今度こそ絶対に渡そう!そしてちゃんと気持ちを伝えよう!
僕はそう決心した。たとえ両想いになる事はなくても、僕の気持ちを知ってほしい。
もしかしたら気まずくなるかもしれない・・・。
でも今、黒秦国に帰る事になったら絶対に後悔する。
それだけはしたくなかった。
いつ死ぬかは分からない。死にそうになったからよく分かる。
死は誰にでも訪れる。それは明日かもしれないし3年後かもしれない。
怜彬殿を好きな気持ちは本物だ。誰にも負けない!
誠実に僕の気持ちを伝えればきっと彼女は答えてくれる。
向き合ってくれるに違いない。そう感じた。
自分の部屋に戻る怜彬殿を見送って僕も自分の部屋に帰る。
明日はいよいよ、夏陽国へ行く。
僕は決意を新たに明日に備えるのだった。
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