79.城下街を散策
試飲会が大成功に終わってあっという間に5日が経過した。
明後日には夏陽国へ行くことになっている。
一年後のリョクチャ販売へ向けての秋唐国での準備は一区切りがついた。
今日は黒綾殿と一緒に城下街へ行くことになっている。
どの香水をつけていこうかしら?
わたしは気分があがる、フローラルな香りの香水をつけることにした。
「お嬢様。雷覇様からのお手紙です」
「ありがとう。リンリン」
そう言ってリンリンから手紙を渡される。
雷覇は宣言通り、秋唐国へ来てから
毎日手紙を送ってくれている。
本当に・・・・。あんなに忙しいのにいつ手紙を書いているのかしら?
ちゃんと休んでいるか心配だわ・・・。
『怜琳へ
秋唐国での暮らしはどうだ?
元気にしているか?試飲会は上手くいっているだろうか?
きっと怜琳のことだ大成功に違いない。
また夏陽国へ来た際はどんな様子だったか教えてくれ。
怜秋殿と黒綾殿と
お茶をしたみたいだな。楽しそうで良かったよ。
あと怜琳に伝えないといけないことがある
お見合いをした結果、俺と婚約をしなければならない女性が出てきた。
詳しいことは帰ってきてから話すよ。
もう少しで怜琳に会えるのを楽しみにしている
雷覇より』
え・・・。婚約しないと行けない女性?雷覇が?
断れなかったのかしら・・・。
まぁ。お見合いをしたのならこうなることもあるわよね・・・。
うーん。なんだかとてもややこしい事になっていそうだわ!
ちょっと帰るの憂鬱になってしまった。
・・・。たしか夏陽国って一夫多妻制ではないよね?
炎覇もずっと一人の人と一緒だったし。
雷覇に限って他の女性ととは考えにくいが
政治が絡むと個人の事情を優先させるのは難しい・・・。
国の利益のために結婚することはよくある事だし実際にわたしもそれで2回嫁いだ。
そもそもわたしは、第一王女と言っても側室の娘で母は父の三番目の妻だった。
だからその辺の抵抗があまりない。ちょっと変わってるかもだけど。
雷覇のことだから凄く気にしていそうだけど。
まぁ・・。帰ってから考えよう!
「お嬢様・・・。大丈夫ですか?」
わたしが手紙を読んだきり、黙り込んでしまったからか
リンリンが気にして声を掛けてくれた。
「大丈夫よ。ちょっと夏陽国へ行ってからも大変そうだなって思ってただけ」
「そうですか・・・。私にできることがあれば仰ってくださいね」
「ありがとう!その時はお願いするね!さっ!黒綾殿を待てせても行けないしそろそろ出ましょう!」
「かしこまりました」
わたしは質素な服装に着替えた。シュウの格好でもいいかと思ったけど
流石に黒綾殿のまでその格好をするのも気が引けてやめた。
「黒綾殿!おまたせ!」
「怜琳殿!今日はよろしくおねがいします」
玄関ですでに待っていた黒綾殿に声をかける。
黒綾殿もいつも着ている服よりもかなり質素な格好をしている。
どうみても、貴族のお坊ちゃんって感じだ。
2人で一緒に馬車に乗り込んで、城下街へ向かった。
「今日はね、秋唐国の名産品を見て回ってお昼を食べようと思うの」
「いいですね!たしか宝石が凄くたくさん取れることで有名ですよね!」
「そうよ!沢山の宝石があるからとてもおもしろいと思うわ!」
「楽しみですね!」
程なくして、わたし達は城下街へ着いた。
まずは大通りにある、有名な宝石店から見て回ることにした。
「ここよ!秋唐国で一番有名な宝石店よ!マーリンにもご贔屓にしてもらってるの」
「わぁ!!大きなお店ですね!」
黒綾殿と一緒に店内を見て回る。
宝石をこんなに沢山見るのは初めてらしく、とても楽しそうに見ている。
「これは何という宝石ですか?」
黒綾殿が薄い桃色の宝石を指さして聞いてきた。
「それはローズクオーツという宝石よ、愛を表す宝石ともいわれているの」
「へぇ・・・。そうなんですか!澄んだ色でとっても綺麗です」
「ふふふ。このお店は宝石を買ったら好きなデザインに加工してもらえるわよ」
「じゃあ、ペンダントとかブレスレットとかできますか?」
「もちろん!あ・・・!前に言っていた好きな女性にあげるの?」
わたしは以前黒綾殿から好きな女性がいることを思いだした。
「いっ・・・いえ。あの・・好きでもない男性から宝石とか貰ったら嫌でしょうか?」
すごく躊躇いがちに黒綾殿が尋ねてくる。
「うーん。わたしの場合はあまり高価なものだと気が引けるかも、お礼とかも気を使うし・・・」
「なるほど。じゃああまり高価じゃないものでブレスレットとかどうですか?」
「ブレスレットなら普段から身に着けられるしいいと思うわ!」
「じゃあ、このローズクオーツをブレスレットにしてもらいます!」
スッキリした表情の黒綾殿。
好きな女性にあげることを決めたのかしら・・・。
きっと喜んでくれるわ!黒綾殿が選んだものだもの。
ふふふ。うまくいってくれるといいな~。
わたしは黒綾殿が、プレゼントをあげている姿を想像した。
きっと真っ赤になりながら渡すんだろうな!かわいいわ!
ブレスレットを加工してもらう間に、昼食をとることにした。
秋唐国では、食材の味を生かした薄味が主流で
あっさりとした味の料理が多い。
万人受けするため、異国の人からも定評がある。
わたしと黒綾殿は、わたしがよく行っている料理店へ行った。
「秋唐国の料理は、味付けが濃くなくて美味しいです」
美味しそうに料理を頬張る、黒綾殿。
ほっぺに沢山料理を入れていて、小動物みたいでかわいい。
かわいい子は何をしてもかわいいのね!!
「あっさりした味付けが多いわよね。夏陽国の香辛料使ってる料理も美味しいけど、やっぱり自分の国の料理が一番ほっとするわ」
「そうですね。僕も黒秦国の料理が恋しくなる時があります」
「そうでしょうね。黒秦国の料理はどんな料理なの?」
「山菜や、川魚、を使う事が多いですね。味付けは出汁を取っているので奥深くで美味しいですよ」
「それは美味しそうね!また黒秦国へ行けたら食べてみたいわ」
「ぜひ!きっと怜彬殿にも気に入って頂けると思います」
「あっ!黒綾殿、ほっぺに食べ物がついてるわよ」
そう言ってわたしは黒綾殿のほっぺの料理を手拭いでふいた。
「あ・・・。ありがとう・・・ございます」
声がどんどん尻すぼみして小さくなってしまった。
やーん!照れているのね!!
黒綾殿と出会って結構な日数がたっているけど
未だに知らないことが多い。
黒綾殿も早く国へ帰れるようになったらいいのに。
お兄さんとも会いたいでしょうし・・・。
移動中に聞いた話ではまだまだ、内政を整えるには時間がかかるそうだった。
それからわたしたちは街をぶらぶらしながら色んな所を回った。
黒綾殿はとても楽しそうにしてくれている。
また遊びに来たいとまで言ってくれた!気に入って貰えて良かったわ。
最初に言った宝石店へブレスレットを取りに行こうと歩いていた時
急に黒綾殿に腕を引っ張られた。
「危ない!!」
「えっ?」
黒綾殿に抱き留められる形で密着してしまった。
わたしの歩いている後ろから凄い早さの馬車が通り過ぎて行った。
「ありがとう!黒綾殿、もう少しでぶつかってしまうところだったわ」
「・・・・」
わたしを力強く抱きしめたまま離さない、黒綾殿。
どうしたのかしら・・・?
「黒綾殿?」
「あ・・・。すみません!」
自分がずっと抱きしめていたことに気が付いたのか慌てて体を引き離した。
いつも頭をなでなでするだけだったけど、抱きしめられると黒綾殿って
やっぱり男性なんだなと思った。胸板も厚かったし、腕も力強かった。
顔がかわいいからいつも忘れちゃうけど!
「いいのよ。危ないとこをありがとう」
「いえ。怜彬殿に怪我がなくて良かったです」
ちょっとギクシャクしている黒綾殿。
なんだろ?わたしの香水きつかったかな?
「それじゃあ宝石店へ向かいましょう!」
「そうですね。行きましょう!」
わたし達はまた並んで歩き出した。
黒綾殿の横顔を見る限りではいつも通りだった。
いきなり馬車がきてびっくりしたのか?
まぁ、何事もなくて良かったわ!
宝石店へブレスレットを受け取った後、わたしと黒綾殿は
馬車に乗って王宮へ戻った。あっという間の一日だった。
「怜彬殿!今日はありがとうございました」
「こちらこそありがとう!とても楽しかったわ」
「はい!僕もとっても楽しかったです。また遊びに来ますね!」
「ええぜひ!黒綾殿ならいつでも大歓迎よ!」
「ありがとうございます。・・・あの」
「あっ、ブレスレット好きな人に渡せるといいわね!」
黒綾殿が何か言おうとしたけど、わたしが先に話してしまった。
「そうですね・・・。渡せるといいですね」
「黒綾殿、さっき何か言おうとしてなかった?」
「いえ。何を言うか忘れちゃいました!」
「そう?また思い出したら言ってね」
「はい」
悪い事ししゃったなー。黒綾殿が話したそうにしてた気がするのに。
何か伝えようとしていきなり違う話をすると忘れちゃうことってあるわよねー。
今日は沢山黒綾殿と話をすることが出来て良かったわ。
今度は怜秋と遊びに来よう!
そう思いながらわたしは馬車の窓から空を見上げた。もう日が沈みかけていて、赤く染まっていた。
明日はいよいよ、夏陽国へ出発だった。
なんだか1ヶ月も経っていない気がする。
ずっと雷覇と手紙のやり取りしてたからかな?
リョクチャの試飲会で忙しかったし思ったよりも寂しくはなかった。
とても充実した2週間だった。
王宮へ戻って、玄関で黒綾殿と別れた。
わたしは自分の部屋へ行って、リンリンに着替えさせてもらった。
雷覇の怪我・・・。ちゃんと治ってるかしら?
ふと彼の怪我が気になった。じっとしていたらいいんだけどな・・・。
怪我が治ってたら・・・。ちゃんと好きって伝えよう!
ううう。そう考えるとドキドキしてきた!!告白しようと思ってから随分時間がたった。
最初は勢いで言えたけど、今改まって伝えようと思うと手に変な汗が出てくる。
よく雷覇は恥ずかしげもなく好きだの愛してるだの言えるわね・・・。
はじめて雷覇を尊敬した。わたしは好きって言うのにもこんなに
ジタバタしてるのに、彼はサラッと言ってくる。
炎覇もそうだったな~。血筋なのかしら?それとも国民性?
秋唐国はどちらかというと、受け身な女性が一般的だし・・・。
そんな事を考えていたらいつの間にか眠ってしまっていた。
今日は黒綾殿とたくさん遊んだから疲れてたのね!
最後までお読みいただきありがとうございます( *´艸`)
ブックマークしてくださった方ありがとうございます!!
ちょっとでもいいなと思ったら、
広告の下の☆☆にぽちりしていただけると嬉しいです(#^.^#)
感想・ご意見お待ちしております!(^^)!