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58.相愛


昼食の準備ができたわたしは、雷覇らいはを呼びに執務室へ行った。

ちょうど一区切りついたところで、ムツリと話をしている所だった。


雷覇らいは!もうお仕事終わった?」


怜彬れいりん!」


わたしを見るなり飛びつくように、こちらに向かってきた。

すごい尻尾を振っているように見えるわ…・。わんこ雷覇らいは

かわいい…・!!!


「ちょうど今終わったところだ!昼食の用意ができたのか?」


「ええ。用意ができたから呼びに来たの」


「楽しみだ!早く行こう」


「今日は天気もいいし、お庭のテラスに用意してもらったの!」


「それはいいな!どんな料理を作ったんだ?」


「それは、行ってからのお楽しみよ!」


わたしは、雷覇らいはの車椅子を押して中庭へ向かった。

テーブルにはさっきできたばかりの食事が並んでいる。

ちょっと緊張してきた…。雷覇らいは、美味しいって言ってくれるかしら?


「こんなに沢山…。怜彬れいりん一人で作ったのか?」


「ええそうよ。どれから食べる?」


「じゃあ、この野菜の煮物から頂こう!」


わたしは、雷覇らいはの口に煮物を運ぶ。

もう一人でも食べれるけど、断固として反対されてしまい

まだわたしが食べさせている。甘やかしすぎは良くないとムツリにも

言われてるんだけど、わんこ雷覇らいはで言われると断れなかった。


「…!うん!凄く美味しいよ!怜彬れいりん


「ほんと?よかった~!どんどん食べてね!」


わたしはメインの鶏肉の揚げたものや、根野菜を沢山入れて煮込んだ

汁物などまんべんなく食べれるように雷覇らいはに食べさせていった。

雷覇らいははどれも美味しいと言ってニコニコしながら頬張る。

良かった~!!気に入って貰えて!

雷覇らいはが一通り食べたところでわたしも一緒に食べる。

外で食べる食事ってどうしてこう、美味しいのかしら!


風は優しくそよいでいて気持ちいい。日差しもポカポカしてて暖かい。

このところ色々な事があったから、なかなか雷覇らいはと二人でゆっくりできる機会がなかった。

たまにはこうしてのんびりするのもいいわよね!!うん。うん。


雷覇らいはは残さず綺麗に食べてくれた!とっても喜んでいくれていた。


「すごく美味しかった!また今度も作ってくれ!」


「ふふふ。いいわよ!今度はお菓子も作ろうと思ってるの」


「お菓子も作れるのか!凄いな怜彬れいりんは!!」


「ラカンのご両親が料理人でね、よく厨房へ遊びに行っては教えて貰っていたの!」


母も好んで食べていたという、ラカンの両親が作った料理。

それを食べれば少しでも母と一緒にいた頃が思い出せるんじゃないか…。

そんな事を考えて頼み込んでわたしも一緒に作らせてもらった。

あの頃は母の面影を追っていたのね…。わたしはそんな事を考えながら物思いにふけっていた。


怜彬れいりん…?どうした急に黙り込んで・」


雷覇らいはが心配そうにわたしの顔を覗き込む。


「ごめんなさい。ちょっと母の事を思い出していたの。懐かしいなって…」


「そうだったのか…。怜彬れいりんが小さい頃に亡くなったと聞いた。どんな人だったんだ?」


「そうね…。とても綺麗で儚げな人だった。外を歩いていた時も不意に消えちゃうんじゃないかって思ってたわ」


「そうなのか…。会ってみたかったよ」


「ふふふ。わたしも会ってほしかったわ!お花が好きな人で、いつも眺めて暮らしてた」


「だから怜彬れいりんも花が好きなんだな…」


雷覇らいはが私の手を握りながら話してくれる。

もう寂しくはないけど、やっぱり元気で生きていて欲しかったと思う。

不意に、雷覇らいはのお母さん。…。夏輝かき殿はどんな人なのか気になってきた。

炎覇えんはの愛した女性…。

わたしと再婚するまで、ずっと独身を貫くほど好きだった人。


雷覇らいはのお母様はどんな人だったの?夏輝かき殿と言うのでしょう?」


「ああ。母はとても活発で竹を割ったような性格の人だったよ。どちらかというと親父の方が母親らしかったな」


「そんなに元気な人だったのね!!」


「よく俺や水覇すいは殿を馬に乗せて遠乗りをしたり、剣でごっこ遊びをしたり…。とにかくあまり家にいる人ではなかったな」


懐かしそうに雷覇らいはが語る。

夏輝かき殿は、明るくて元気で活発な女性だったのか…。


「きっと素敵なお母様だったのね。どうして亡くなってしまったの?」


「まぁ、活発さが仇になったみたいな感じだな。馬に乗って出かけている時に、突然馬が暴れだしてな。落馬した時に打ち所が悪くてそのまま亡くなった…」


「そうだったの…。突然だったのね」


「ああ。俺と水覇すいは殿が10歳の時だ。本当にいきなりでびっくりしたよ…」


突然誰かがいなくなる…。きっととても悲しい思いをしたんだろうな。

その気持ちはわたしも痛いほどよくわかる。

じわじわと死に向かっていくわたしの母。

毎日顔を見るたびに、生きていて良かったと安堵した日々。

夏輝かき殿はそれとは対極的にある日突然、事故で死んでしまう…。

心の準備もできないままで亡くなってしまうのは、どれほどの辛いことだろう。


「突然だったのね。辛かったでしょう?」


「そうだな…。悲しかったよ。急に家の中が光を差さなくなったみたいに静かになって…親父も相当落ち込んでいたしな」


炎覇えんはなら…。そうでしょうね…」


雷覇らいはがわたしをぎゅっと抱きしめる。

お母様を想って悲しんでいるのか、わたしが炎覇えんは

思い出していると思ってるのかどちらか分からない…。


怜彬れいりんと会うまで、何があっても再婚はしなかったよ。俺たちも再婚を進めたけど断られたし」


「きっと夏輝かき殿の事が好きだったのね。大切に想っていたんだわ」


炎覇えんはらしいと思った。愛情深い人だったもの…。

きっとわたしといた時も夏輝かき殿ことは忘れずにいたと思う。


雷覇らいはと…。こんな話ができて嬉しいわ…」


「俺もだ。最近の怜彬れいりんは親父の話をしても辛くないのか?」


心配そうにわたしを見つめる雷覇らいは


「ええ。ちょっと切なくなるけど今はもう平気…。わりと前から受け入れられる様になってたの」


「そうだったのか?…知らなかった」


雷覇らいははびっくりした表情でわたしの頬に触れる。

わたしもその手にそっと自分の手を添える。


五神国ごしんこく会議の後からよ。雷覇らいはと口論になって沢山色んなことを思い出して…」


「…」


「その時にね、思ったの。炎覇えんはと過ごした時間を否定することは、あの人を否定することなんじゃないかって…」


怜彬れいりん…」


「会った時間は消せない、言われた言葉も全部…。炎覇えんはがくれてたものにずっと目を背けてた。それに気が付いたとき、わたしはちゃんと前を見ようと思えたの…・」


「乗り越えたんだな…。親父の死を…」


「うん…」


わたしは雷覇らいはの胸に顔を寄せた。

ちゃんと話せてよかった…。雷覇らいははずっと心配してくれたもの。

これで安心してもらえるといいのだけれど…。


怜彬れいりん…良かった…」


また雷覇らいはがわたしを強く抱きしめる。

彼の存在がこんなにも大きく、全身で震えるような喜びを感じたのは

初めてだった。とても穏やかな温かい気持ちだった。


雷覇らいはのおかげよ…ありがとう…」


「俺は何もしていない。怜彬れいりんが頑張ったんだ」


そう言ってわたしのおでこや頬に唇を落とす。


「うん。でも一人だったら頑張れなかったわ…」


「…じゃあ、怜彬れいりんは今…俺の事をどう思っている?」


急に真剣な目で見つめられてドキッとする。

一瞬。好きって言いそうになったけど、ぐっと抑えてしまった。

うーん…。好きって言いたいけど…。まだ足の怪我なおってないしな…。


「…それは…」


「まだ俺の気持ちには応えられないか…?」


雨に打たれた犬みたいな表情でわたしを見つめる。

ううう。そんな顔しないでー!!


「あの…まえ…よりはいいと思ってる…。でもまだ気持ちが切り替えれなくて…」


苦しい言い訳をわたしは雷覇らいはに告げる。ごめんなさい!!

あとちょっと待って!!怪我が治ったら必ず言うから!!

わたしは雷覇らいはに心の中で、懇願しながら言った。

あああ!嘘ついちゃった…。めっちゃ良心が痛い!!


「そうか…。でも前よりもいいと思ってもらえて嬉しいよ」


「…ごめんなさい」


「謝らないでくれ。俺が好きでそうしてるんだ…」


雷覇らいはは…嫌にならない?こんなわたし…」


急に不安に駆られた。雷覇らいはの気持ちに甘えてどっちつかずの態度を

取っているわたしを雷覇らいはは嫌いにならないだろうか?


「嫌いになんてなるはずない!嫌いになんてなれない…今でも怜彬れいりんをどうにかしたくて、おかしくなりそうなんだ…」


雷覇らいは…」


熱い眼差しで見つめられる。

雷覇らいはの心から流れ出てくるような一筋の熱い思いを感じた…。

そんなに情熱的にわたしを好いてくれているのか…。

胸が高鳴って、口の中が渇く感じがした。


怜彬れいりん…。俺はいつまででも待つよ。だからこれからも傍にいてくれ…」


そう告げると乞うように唇を重ねられた。


「んっ…」


心の底から湧きあがる愛おしさを感じる。彼に触れたい。もっと触れてほしい…。

そう思ったら自然と彼の肩に手をまわして体を寄せていた。

雷覇らいはの手がわたしの腰に当てられてぐっと引き寄せられるのを感じる。


怜彬れいりん…好きだ…」


熱っぽい声で雷覇らいはに囁かれる。背中に電気が走ったみたいにゾクゾクした。

わたしも…。と言いそうになったけど、伝える前にまた口づけされる。

いつもと違って、雷覇らいはの熱を感じた。


「ふっ…んん…」


息がつまって涙がにじんだ。でもそれは悲しいからではなかった。

嬉しい…。好きな人と触れ合う事がこんなにも胸がいっぱいで

幸せな気持ちになるなんて…。


雷覇らいは…。好き…。大好き…。

わたしは心の中で何度もそう呟やきながら、雷覇らいはを抱きしめた。

それからしばらくの間、雷覇らいはが止めるまで唇を重ね続けた。





最後までお読みいただきありがとうございます( *´艸`)

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