57.情愛と仁愛
わたしはさっそく、厨房を借りてお昼に食べる料理を作っていた。
ムツリに厨房を借りたいって言ったら、かなり驚いていた。
やっぱり、珍しいわよね~。普通王女は自分で料理はしない。
わたし的には、普通の事だった。ラカンの両親が料理人だったからかもしれない。
よく、ラカンにくっ付いて行って厨房に入っていったっけ。
「怜秋に手作り料理をたべさせてあげたくて、色々やったなー」
今回は、雷覇のために作る料理だ。
それに、雷覇がすごい楽しみにしてくれている…。
それだけで、顔が緩んでしまうのがわかる。美味しいって言ってくれると嬉しいなー。
「よーし!はりっきて作るぞー!!!」
メニューは汁物が一品と、メイン、あと副菜が二品とご飯。
お肉と野菜がバランスよく食べれるように考えた。
そういえば…。炎覇は野菜が嫌いだったっけ。
「ふふふ。食べないと一緒に寝ないって言って炎覇に無理やりたべさせてたんだったわ!」
今思うと、とても懐かしい…。
少し胸は切なくなるけど、涙を流すことはなくなった。
それも全部、雷覇のおかげだった。彼が傍で私を支えてくれたから、わたしは立ち直ることができた。
手紙でも、かなり励ましてくれてたっけ…。内容はかなりズレてたけど。
体力はつけるには、鹿の肉がいいとか、体を動かすなら
筋肉を鍛えるトレーニングがいいとか…。そんな事、女性がする?っていうのばかりだった。
まぁ…。軍人さんだから仕方がないか…。
「不器用で、でも真っ直ぐで…。焼きもちやきで、子供みたいに拗ねたり笑う人…」
数か月間の間でたくさんの、雷覇の表情を見てきた。
彼の傍で、彼の声でたくさんの言葉を聞いてきた。
今では沢山の彼のと思い出がある…。きっとこれからも増えていくだろう。
ほんとうに…。最初に会った頃と比べたらかなり変わったわよねー。
本当に、結婚したくなかったし…。いや!もうマジで!!
自分でも驚くほどの変化だと感じていた。今は毎日一緒にいる。毎日一緒に眠ったりもする。
最初はなるべく会わないようにしていなのになー。
雷覇に触れらるたびに、緊張して体がこわばった。
やめてー!って何度も心から叫んでた。それが、今ではどうだ?
「普通に触れているし、自然に口づけまで交わしてる…」
かなり…。進展してるわね…。ぎゃわー!!自分で考えておいてあれだけど
思い出すとかなり大胆なことしてるわよね!!!ううう。雷覇に触れているのは心地いい。
手でもどこでも。彼の場所ならどこでもよかった。それに、同じ香水までつけているし…。
ぐふぅ!!!自分で言って、自分でダメージを食らう。
わたしは思わず、切っていたお肉を落としそうになった。
危ない。危ない。
まさか、またわたしが誰かを好きになるなんて想像もしてかなった。
もう二度と、誰も愛さない。そう決めていた。そうしないと、心が折れそうだったから。
目を閉じて、耳をふさいで閉じこもっていた日々。
何も感じず、何も考えず人形のように過ごしていた日々。
いつもいつも、幸せは手の隙間からこぼれ落ちていくと思っていた。
でも気が付いた。
炎覇が教えてくれていた。いつも伝えてくれていた。
降り積もっていくような愛情。まるで日向ぼっこをしているような安らぎ。
誰かを愛する喜び。どれもこれも、私の一部だ。
「ありがとう…」
不意に言葉がこぼれた。
炎覇に対しても、雷覇に対しても
そう思えることができる。それぞれが、それぞれの愛情でわたしを満たしてくれている。
たくさん失ったけど、それ以上に与えられていた…。
わたしは思わず、泣いていた。涙がいつの間にか頬を伝う。
「ふふふ。ほんとうに…。よく泣くようになったわね」
やっと…。ここまでこれた。たどり着いた…。
わたしが、心を開いて安らげる場所。その場所には、雷覇がいる。彼が笑って待っていてくれた。
だからわたしは、そこまで歩いていくことができたんだわ…。
大好きな彼。愛おしいあの人。そんな雷覇のために、とびっきり美味し料理を作ろう!
わたしは、そう思って最後のメインにとりかかったのだった。
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俺は朝から上機嫌だった。なぜなら怜彬の
手料理を食べれるからだ!!
こんなに嬉しいことはない!!だって手料理だぞ?特別感ハンパないだろう!!
朝から、怜彬は黒綾殿と一緒に
朝ご飯を食べていたから、テンションがだだ下がりだったが一気に上がった!!
書類もサクサク進む。お昼が待ち遠しくてたまらない。
怜彬のことだ、きっと怜秋殿に食べさせるために、色々練習したりしたのだろう…。
それを思うと複雑だが、実際に作ってくれるという行為自体は嬉しい。
そもそも、王族は手料理などはしない。してはいけないのが普通だ。
怪我したり、やけどをしたりしたら大変だからな!!
はっ…!!怜彬は怪我などしていないだろうか?
大丈夫だろうか?…。いや。いかん。いかん。厨房には来るなと言われているんだった。
「絶対!きちゃだめだからね!!」
人差し指でピッとさされて止められた。可愛かった。
怜彬は何をしても、どんな時も可愛い。特に最近の怜彬はヤバかった。
何なんだ!!可愛さが留まることをしらない。可愛い仕草に、照れている表情、物憂げな瞳…。
次から次へと俺を試すかのように迫ってくる。
敵の武将ならかなりの攻撃力だ。絶対に勝てる気がしない。
一瞬で落とされる自信があった。戦なら負けているな。
さすが傾国の美女。宝石の妖精と謳われた人だ。
考えた奴は天才だな!!ずばり彼女の本質を言い当てている。
怪我をしてから、俺は結構な頻度で、情けない姿を彼女に見せている気がする。
だが怜彬は特に気にしている様子はなかった。
むしろ、最初に秋唐国に押し掛けたころに
比べると、反応が断然良くなっている!!
怜彬の方から手を繋いでくれるし、頭を撫でたり触れたりしてくれる。
彼女からのスキンシップが明らかに多くなっている。
俺はニヤニヤするのを抑えるのに必死だった。
きっと、前に比べたら俺に対する気持ちが変わっているんだろうと思う。
まだ…。油断はできないが…。
彼女の事だ、手に入れたと思ったらいつの間にか、するっとどこかへ行ってしまう。
怜彬が妖精と言われる由縁な気がした。
最初に一目惚れしてから、もう4年が経つ…。ほんの最近までは苦く、辛い恋だった。
いつも怜彬は誰かのものだったからだ。
俺もすぐにでも、結婚の名乗りを上げたかったが親父の遺言があったため、どうしても踏み切れずにいた。
そうしている間にも彼女は2回も嫁ぐことになる。
発狂しそうなくらい、怒りで震えていたのを覚えている。
親父が亡くなってからは、とにかく耐える日々が続いた。
なんとか彼女と接点を持ちたくて、ほぼ毎日手紙を書いた。
最初の頃は何を書いていいか分からず、自分の知っている事を書いた。
怜彬は律義に返事を返してくれていた。
当たり障りのない言葉が多く、俺の告白に対してもはぐらかすような内容だった。
それでも…。どうしても…。彼女を諦めきれなかった。
なぜそこまで彼女に執着するのかがわからない。なにがそこまで俺を引き付けるのかがわからない。
いつも、欲しくて欲しくてたまらなかった。
彼女が手に入った時の事を考えては、思いを馳せいていた。
我慢する期間が長かったせいか、会ってからは歯止めがきかなかった。
とにかく、彼女と一緒にて触れていたかった。
まるで産まれたての小鹿だ。母親にくっついていたくて
必死になって追いかける…。そんな子供じみた執着心。
そのせいで彼女を傷つけたと思っていたこともあったがそれも怜彬が優しく癒してくれた…。
今はきちんと彼女と向き合って、彼女の言葉に耳を傾けようと心掛ける。
時々できていないが…。
マーリンや叔母上様達が言うように彼女にとって
いいと俺が思っていても、怜彬にとっては害にしかならないこともある。
誰かを大切にする意味がようやく理解できてきた気がする。
親父のようには、まだまだいかない。この先ずっとできないかもしれない…。
そう思うと苦笑してしまう。
この先も、そんなことで悩みながら彼女と一緒に過ごす。
なんて素晴らしいんだ!毎日が色とりどりにあふれていて眩しいだろう。
さぁ。早く仕事を終わらせて彼女の元へ行こう!
そして思いっきり彼女を抱きしめよう!!
俺はそんなことを考えながら仕事を進めていった。
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