51.澄清
虹珠殿と虹禀殿は昔から破天荒な人達だった。
夏緋殿は違うが…。
虹珠殿は元軍人で、父とよく肩を並べて戦場へ行くほど実力があった。
しかも男勝りで、単独で敵を倒すため率先して最前線へ行っていたそうだ。
付いた異名は戦場の女豹。父以外の誰も彼女に勝てる人はいなかった。
虹禀殿は対極的に、女性らしい人だ。
しかし自分の魅力を駆使して、敵を翻弄し内部崩壊させたり
複数の人男に色目を使い好きだと勘違いさせて、殺し合いをさせる。
恐ろしい一面があった。付いた異名は魔性の麗人。
そうして敵の軍隊を1つ滅ぼしたことがあったらしい。
そんな2人は小さい頃から俺と水覇のことをよく可愛がってくれた。
未だに俺のことを「雷坊」「雷ちゃん」と呼ぶのもその名残だ。
母を亡くしてからは、よく顔を見に来てくれたりしもした。
決して悪い人たちではない…。
の…だが。二人共、型破りな女性のため手に負えない。
おまけに前王の姉。現国王の叔母という立場もあり誰も強く言えない。
立場がなくても言えないような気もするが…。
そんな2人に怜琳が連れて行かれた。
あっという間だった。先手を打たれた。くそっ!俺の反応も一歩遅かった。
俺が目的なく初めから彼女が目的だったようだ。
怜琳は、大丈夫なのか?
悪いようにされてないとは思うが、なんせあの叔母上様達だ。
この先が読めなかった。嫌な予感しかしない…。
「雷覇殿!凄い人たちでしたね!!」
呑気な口調で黒綾殿が話す。
「ああ…。昔からあんな感じだ」
「相変わらず、凄い方達でしたね…。あの有無を言わせない感じが特に」
ムツリが冷静に言う。どうしたものか…。男子禁制と言われて釘を刺された。
俺達が彼女達の中に入ることは出来ないだろう。
筋の通らない者、約束を守らない者そういった類の者を極端に嫌う人達だ。
「雷覇様!!大変です!!」
俺達が話していると、従者が慌てた様子で部屋に入ってきた。
「どうした、何かあったのか?」
「虹珠様達が怜琳様を連れて、春魏国へ
行ってしまわれました!!」
「何だと!!」
俺は怪我をしているのに立ち上がってしまった!何がどうなっている?
何なんだこの展開は!!予想外過ぎて、頭が回らない。そして足が痛い…。
「はぁ…。やってくれたな…叔母上様…」
「雷覇様どうされますか?」
「すぐに迎えに行きたいが、意味のない事をする方達ではない、動向を探りつつ様子を見よう」
「かしこまりました」
がっくりと椅子に座り落ちた。また、怜琳に会えなくなる…。
俺はムツリに頼んで、叔母上様達に使者を送るように命令した。
なんでいつも怜琳とゆっくり過ごそうとすると
すぐに邪魔が入るんだ…?これはもう呪いとしか思えない…。
被災地で過ごした日々が懐かしい。あの頃は本当に毎日楽しかった。
「はぁ…」
俺は途方に暮れる。一番の解決方は叔母上様達に従うことだ。
長年の経験上、それは分かっていた。反抗すればよりややこしくなる。
今できることはいつでも怜琳を迎えに行けるようにする事だ。
俺は彼女たちの動きが分かるように密偵を送るよう指示した。
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えーと…。何が起こっているのかしら…。
わたしは混乱していた。さっきまで夏陽国にいたのに
もう今は、春魏国へ向かう馬車にいる。
虹珠殿達の行動力は凄かった。
一度、決めてしまうと実行に移すまでのスピード感が違う。
そして3人の団結力は付き合いの長さを感じた。
「あのー、なぜ春魏国へ行くのですか?」
わたしは彼女達の行動の意図が読めなかった。
「それはだな!春魏国には温泉があるのだ!!」
嬉々とした様子で虹珠殿が話す。
「温泉ですか?」
「そうだ!!怜琳殿は温泉に入ったことはないのか?」
「ありません!初めてです!話には聞いたことはありますが…」
「そうか!!ならきっと気にいるだろう!温泉を嫌う人などおらんからな」
そんなにいいものなのか~。それは楽しみだわ!!
「お肌にもとってもいいの♪とくに春魏国の温泉は観光地としても有名だし」
「温泉に入った後の…お酒がまた…格別です」
虹禀殿と、夏緋殿も口を揃えて温泉の良さについて
教えてくれる。とても楽しそうだわ!もしかして温泉に行きたいだけかしら…。
「親睦を深めるには裸の付き合いが一番だ!」
「ほんとよね~♪一気に距離が縮まるわよね♡」
そんな考え方もあるのか!わたしにはない考え方だからとても興味深い。
わたしは温泉に入るのがますます楽しみになった!
「3人はどうして仲がいいんですか?」
わたしはふと疑問に思ったので聞いてみた。
虹禀殿と虹禀殿は分かる。姉妹だし。
ただ夏緋殿は炎覇の奥さんの妹さんという立場だ。
仲良くなる理由はなんだろう?
「私達は、もともと夏輝も含めて4人で仲が良かったのよ~」
「家同士で仲が良くてな。幼馴染ということだ」
「そうなんですね!!小さい頃から仲がいいなんて羨ましいです」
なるほど~。だから連携のとり方が熟練されているのね!!
3人とも息ピッタリだものね!!
「夏輝は夏緋と違って、お転婆でな!よく私と遊んでいたよ」
虹珠殿が懐かしそうに話す。
4人が幼馴染ということなら、必然的に炎覇も。ということになる。
炎覇と夏輝殿は小さい頃から仲が良かったのかしら?
「怜琳殿の…考えているとおりですよ…」
わたしの横に座っていた、夏緋殿が話し掛けてきた。
えっ?わたしの考えがわかったの?
「あの…炎覇と夏輝殿が仲が良かったってことですか?」
「ええ。小さい頃から仲良くて…結婚することも自然な流れだったわ…」
「そうだったんですね…」
なるほど。と思った。炎覇がどうして独り身を貫いていたのか。
小さい頃から知っていて、自然に愛し合っていつも一緒だったのなら
夏輝殿が亡くなった事はものすごい悲しみだっただろう。
結婚しないのでなく、出来なかったのではないだろうか…。
死んでもなお彼女を愛していたのではないだろうか…。
わたしは叔母上様達が楽しそうに話している横で
炎覇を想った。
そんな最愛の人がいたのに、わたしを愛してくれた。
奥さんと比べることなく、わたし自身を大事にしてくれた。
炎覇に選ばれたことが誇らしかった。
わたしは、またひとつ悲しみを乗り越えた気がした。
ほんとうに…。この人達に会えてよかった。心からそう思った。
前に進みだした途端、叔母上様達に出会った。
それが一番いいタイミングだ。とでも言うかのように。
きっとほんの少し前のわたしなら、過去の残像にとわらわれて
こんな解釈はできなかっただろう。きっと目をそらしていただろう。
今わたしに起きていることはすべて、必要なことで無駄なことじゃないんだわ…。
そう感じた。なぜ?わたしだけこんなに辛いことが起きるのか?
いつもそんな事を考えていたが、わたしに必要なことできっとこの先
必要になるから経験しているんだ。そう思った。
そんな風に考えられるようになった自分が誇らしかった。嬉しかった。
わたしは窓の外を見上げながら微笑んだ。
今日は雲ひとつない晴れ晴れとした空だった。
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