49.二人の距離
「怜琳!!」
凄い息を切らした雷覇が入ってきた。車椅子を思いっきり飛ばしてきたのかしら?
「雷覇。どうしたの?」
「どうしたのって・・・・。急に別邸に行くって聞いたからびっくりして追いかけてきた」
「ああ。そうね・・・・。ごめんなさい」
凄い心配そうな雷覇。そりゃあそうよね。まだわたしは話していないもの。
「その・・・・。大丈夫なのか?」
「うん。思ったより平気だった・・・・」
わたしは家具に触れながら話した。自然と顔がほころぶ・・・・。どうして見ないふりしてたのかしら・・・・。こんなに楽しい思い出ばかりだったのに。今となっては不思議にすら感じる。
あの頃は後ろばかり向いていた。炎覇が死んだことばかり思い出してた。
「怜琳・・・・。俺は・・・・君に謝らないといけないことがある・・・・」
凄い神妙な面持ちで雷覇が話しだした。
「なあに?謝ることって」
「五神国会議のときのことだ・・・・」
「・・・・」
わたしは、黙って雷覇の次の言葉を待った。
「すまない。あの時、怜琳は凄く傷ついていたのに・・・・俺は・・・・」
膝の上で握りこぶしを握りしめながら、苦しそうに雷覇の表情が歪む。
「無理やり・・・・口づけした・・・・」
「・・・・うん」
わたしは雷覇の傍に行って目線が合うようにしゃがんだ。
「ほんとうにすまない・・・・。君を守るとかいいながら最低な事をした・・・・」
「雷覇・・・・」
そんなに思い詰めていたのね・・・・。わたしは傷ついてなんかいないのに・・・・。
雷覇の右手に手をそっと両手を置く。握りこぶしを解いてわたしの頬に当てた。
「怜琳・・・・」
「雷覇。わたしは傷ついてなんかない。むしろわたしの方がごめんね・・・・。雷覇を追い詰めた」
「違う・・・・。俺が自分で自分を抑えることができなかったんだ!」
「雷覇。自分を責めないで。ちゃんとわたしを見て・・・・。わたしが傷ついているように見える?」
わたしは、真っ直ぐ雷覇を見つめた。雷覇は、唇を噛み締めながらわたしを見る。涙を堪えているように見えた。ずっと自分を責めてたのね・・・・。叱られた子供みたいになってる。
「怜琳は・・・・。いつも一人で泣くから・・・・」
「そうね・・・・。小さい頃からの癖だわ。でもあの時、雷覇にされた事で傷ついてない、傷ついてたら、こんな所まで来てないわ」
「本当に・・・・?」
「ええ。本当よ・・・・」
微笑みながら伝えた。彼を安心させてあげたかった。
「・・・・っ!!あり・・・がとう・・・」
雷覇が俯いて泣き出した。それくらい自分を追い詰めていたのね・・・。優しい人。わたしが傷ついてると思って、自分を傷つけてる・・・・。この人を大切にしたいと思った。
愛おしいという気持ちが胸の中から泉のように湧き上がってきた・・・。わたしは、無意識に立ち上がって雷覇を抱きしめていた。
雷覇の消えそうな嗚咽を漏らしていた。その声を聞きながら、彼の頭を抱えて優しく撫でる。
「わたしは大丈夫よ・・・・。雷覇がわたしの分まで傷ついてくれたんだもの・・・・」
わたしは彼が泣き止むまで、抱きしめ続けた。
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打ち合わせが終わって、部屋に戻っても怜琳の姿がなかった。
リンリンに聞いたら、親父と過ごしていた、別邸に行っているとのことだった。
俺は急いで別邸に向かった。思いっきり車椅子を走らせた。
怜琳・・・・。なんで・・・・。そんなところに・・・・!!!
彼女の考えが分からなかった。夏陽国に滞在する時は、親父と過ごした場所は避けていた。
おそらく、無意識だろう。思い出したくないから・・・・。別邸に着くと彼女は、ソファーの前に立っていた。
「怜琳!!」
俺は、思わず叫ぶように、名前を呼んだ・・・・。
「雷覇。どうしたの?」
きょとんとした顔で怜琳が振り向いた。少しホッとした。良かった泣いてない・・・・。
彼女はよく一人になって泣くことがあった。彼女の姿が見えない時は自然と怜琳を探した。
一人で泣いてないか・・・・?傷ついていないだろうか・・・・?
「どうしたのって・・・・。急に別邸に行くって聞いたからびっくりして追いかけてきた」
「ああ。そうね・・・・。ごめんなさい」
「その・・・・。大丈夫なのか?」
「うん。思ったより平気だった・・・・」
彼女の表情が、何とも言えない顔だった。・・・・。思い出しているんだろうな・・・・。
以前よりかは思い詰めた表情ではない。でも俺にはそれが、悲しんでいるように感じた。
彼女に何か言わなければ・・・・。そう考えた瞬間・・・・。
あの時の光景を思い出した。
泣いている怜琳に無理やり口づけした・・・・。自分の欲を押し付けた・・・・。
最低な光景。逃げ出したい気持ちもあったが、ここできちんと謝るべきだと感じた。
「怜琳・・・・。俺は・・・・君に謝らないといけないことがある・・・・」
「なあに?謝ることって」
「五神国会議のときのことだ・・・・」
怜琳が黙ってこちらを見つめる・・・・。恐ろしかった。彼女の目をまともに見れなかった。いっそ罵ってくれたほうがマシだ・・・・。
俺は彼女に、懺悔するように伝えた。・・・・。こんなの言い訳だ。やったことは消えない。
物凄い自己嫌悪に陥る。右手で握りこぶしを握りしめながら、なんとか言葉をつなぐ。
すると、手に温かさを感じた。怜琳が俺の手を握って拳を解いてくれていた。
とても優しい手付きだった。
「雷覇。わたしは傷ついてなんかない。むしろわたしの方がごめんね・・・・。雷覇を追い詰めた」
「違う・・・・。俺が自分で自分を抑えることができなかったんだ!」
なんで!君が謝るんだ!!なんで・・・・!!思わず、唇を噛み締めた。
「雷覇。自分を責めないで。ちゃんとわたしを見て・・・・。わたしが傷ついているように見える?」
彼女が俺の手を握って頬に当てる。彼女の顔を見つめた。穏やかな表情だった。そして言った。傷ついていないと。
傷ついていたら、ここまで来てないと。ものすごく安堵した、その途端、気がついた。
俺は怜琳に許されたかったのか・・・・。情けなかった。また・・・・。自分のことばかりだと感じた。
張り詰めていた糸が切れきがした・・・・。いつの間にか泣いていた。悲しいのか、悔しいのか分からない。ただ、怜琳が傷ついていなくて、傷つけていなくて・・・・
本当に良かったと思った。
その後、気がついたらいつの間にか、怜琳が抱きしめてくれていた。優しいぬくもりを感じた・・・・。そして俺と同じ香水の香りがした・・・・。
彼女が優しく頭を撫でてくれる。
「わたしは大丈夫よ・・・・。雷覇がわたしの分まで傷ついてくれたんだもの・・・・」
怜琳の声と心臓の音。それだけ聞きながら、涙を流していた。
久しぶりに泣いた・・・・。軍人になってから初めてかもしれない・・・・。
凄いカッコ悪いけど、不思議と嫌な気持ちにはならかった。
怜琳・・・・。ありがとう。彼女を救うつもりが救われた。彼女の存在がまた自分の中で大きくなるのを感じた。
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