48.意外な一面
朝起きて、目が覚めたら怜彬がいる・・・・。俺の隣で規則的な寝息を立てて眠ってる。
長いまつ毛に、小さくて柔らかそうな唇・・・・。彼女の唇のそっと触れる。
今は怪我がある為、これくらいしかできない。もどかしい・・・・。もっと彼女を感じていたい。
そんな妄執にとらわれる。
「ん・・・・。らいは・・・・?」
眠そうに目をこすりながら彼女が目を覚ます。無防備で愛らしい・・・・。
「すまない。起こしたか?」
「ううん。さっき一度起きて、もう一度寝たから・・・・雷覇はよく眠れた?」
「ああ。久しぶりにぐっすり寝たよ・・・・」
「そっか・・・。よかった・・・・」
とろんとした顔で怜彬が微笑む。じりじりとせまる強烈な衝動をどうにか抑える。
「・・・・昨日は、帰るのが遅くなった・・・・。ごめんな」
「大丈夫。ムツリとはちゃんと打ち合わせできた?」
「ああ。今日からみっちり仕事だ・・・・」
げんなりしながら話した。でも・・・・。まだしばらくは怜彬と一緒に過ごせる。それだけが唯一の救いだった。
「じゃあ、わたしもお手伝いするわ!!」
「えっ・・・!!!いいのか?」
彼女がいきなり勢いよく起き上がって告げた。さっきまで眠そうにしてたのに・・・。
「もちろんよ。ずっと何もしないのも気が引けるし・・・・。それに秋唐国でも、怜秋と一緒に仕事をしていたから、ある程度お手伝いができると思うわ!」
「それなら凄く助かる・・・・。俺はあんり事務仕事が得意でないんだ・・・・」
「ふふふ。そんな感じよね。雷覇って。わたしも得意な方じゃないけど二人なら大丈夫よ!!」
「そうだな!じゃあまずは朝ご飯をちゃんと取らないとな!!」
怜彬と二人でゆっくり食事をしてから、車椅子を怜琳に押してもらいながら執務室へ向かった。
執務室に行くと、大量の書類が俺の机に置かれていた。いきなりテンションがさがる・・・・。
こんなにしないといけないのか?途方に暮れている横で怜琳は淡々と仕事の指示をする。
「ムツリ。悪いけど黒綾殿を呼んできて。あと書類の整理はわたしがするわ」
「かしこまりました」
怜琳は書類を見ながら、考え事をしていた。・・・・。いつもと雰囲気がぜんぜん違う。正直。驚いた。どちらかと言うと、仕事は得意でないと勝手に思っていた。
「怜琳。なぜ黒綾殿を呼ぶんだ?」
単純に疑問に思ったので聞いた。彼にこんな仕事が務まるのか?
「雷覇は知らないの?こういった細かい書類を見る作業は、黒綾殿のほうが得意よ?」
「えっ?そうなのか?」
「そうよ。被災地でも細かいところをよく指摘してくれていたし、全体もよく見れてる。それに機転もきくからぴったりだと思うわ」
「そんなに・・・・。いつ黒綾殿事を知ったんだ?」
「・・・・?そんなの一緒に話していればわかるでしょう?」
きょとんとした顔で怜琳に言われた。俺は全然わらかなかった。軍人としてならともかく、こういった事務作業はからきしダメな俺にとっては、衝撃的だった。はなからできないと決めつけていた。
「優先順位の高いもの、雷覇じゃないと決められないもの、緊急性の高いもの以外は全部こっちに回して。それから書類の不備が多すぎる。これは全部やり直し。雷覇が見る必要ないわ」
次々に怜彬が書類をさばいて整理していく。仕事をしている怜琳を初めて見たが、こんなに仕事をこなすとは思っていなかった。普段の彼女からは想像もできなかった。全く別人に思えた・・・・。
怜琳が書類を整理している間に黒綾殿がやってきた。
「黒綾殿。来てくれてありがとう。早速なんだけど、こちらの不備の書類を見てくれる?不備が多い原因を知りたいの」
「分かりました」
そう言って二人は黙々と作業を始めた。あんなに俺の机に置かれていた書類は、数える程に減り、俺の仕事が一気に減った。
「これだけか・・・・?」
不安になって尋ねた。
「そうよ。雷覇の権限でしか判断できないものはそれしかないわ」
書類に目を通しながら怜琳が言った。今でも手を動かしながら書類をさばいてる。
怜琳の横で、黒綾殿もどんどん、不備の書類をさばいてる。
「黒綾殿、不備の書類が多い、原因は何だと思う?」
「そうですね・・・・。根本的に書く内容が各部門によってまちまちですね・・・・。書式を統一したほうが早いと思います」
「そう・・。じゃあムツリ。悪いけど、統一した書式を作成してくれる?それを各部門に配布してそれで提出するように言ってちょうだい。あと余計な事を書く人が多すぎるわ・・・・。これじゃあ雷覇の判断がスムーズにできない。それも指導してちょうだい!」
「かしこまりました」
そう言ってムツリが満足そうに部屋を出ていった。俺は与えられた仕事をこなすことに専念した。
その間にも、怜琳と黒綾殿が仕事の内容について話し合っていた。二人共、とても慣れている様子だった。普段からやっているのだろう・・・・。
朝起きた時の寝ぼけ眼の怜琳とは比べ物にならないくらい、今は別人だった。
すごい・・・。正直に思った。黒綾殿に関しても同じだ。完全に侮っていた。いつもニコニコしているだけの少年ではなかった。
それを見抜いた怜琳の手腕も、王女にしておくには勿体ないと思うほどだった。
「雷覇様、そろそろ会議の時間です」
時計を見ながら、ムツリが言った。もうそんな時間か・・・・。俺に振らていた書類はほぼ片付いていた。
「雷覇、これ。次の会議で使う資料。まとめておいたわ」
そういってわかりやすく要点をまとめた資料を手渡された。
「ありがとう・・・・。いつの間に・・・・!!いつ作ったんだ?」
「書類整理が終わったあとよ、会議がんばってね!」
そう言って彼女はまた書類に目を通し始めた。
思えば、彼女ほど国政に関わってきた王女はいないだろう。相次いで父と兄をなくし、10歳も歳のはなれた弟が王位についた。彼女はその補佐をしていたのだ。これくらいのこと、できないはずがなかった。きっと彼女は、数々の権力や、圧力から弟を守ってきたのだ。そのために数々の国へ嫁ぎ、弟の盾となり、そのたびに磨いたスキルだろう。
怜琳が頼もしいと思った。彼女は守らているだけの、姫ではなかったのだ。
「思っていた以上ですね。怜琳様は」
移動しながら、ムツリが言った。
「そうだな・・・・。ここまでできるとは思っていなかったよ。彼女はとても優秀な人材だな」
「とても慣れているご様子だったので、きっと母国でも同じように仕事をされていたのでしょう」
「そうだな・・・・。よく考えれば彼女は普通の王女でない。自分で商売をしたいと言っていた。あの発想はなかなか出てこないぞ」
「そうなのですね・・・・。ぜひ我が国の国母となっていただいたいですね・・・・。雷覇様」
「なるさ・・・・。俺と怜琳は結婚するからな!」
「それは雷覇様次第と思っておりますが・・・・・。どこからそんな自信がくるのですか?」
呆れた声でムツリに言われた。サイガにも同じようなことを言われた気がする・・・・。
「一緒に居たらそう感じるんだ」
「はぁ・・・・。雷覇様はもう少し冷静に周りを見られたほうがいいですね」
見ているつもりなんだが・・・・。何も言い返せなかった。今回のことで俺は、あまり見れていないことがよく分かった。
午後の会議もスムーズに終わり。いよよい、残す課題は、叔母上達をどうもてなすか?だった。
わたし、雷覇、黒綾殿の三人で話し合いをすることになった。
「水覇殿も言っていたけど、炎覇のご家族の方なの?」
「そうだ。親父の姉に当たる人で、もう結婚して他家へ嫁いでるから王族ではないが・・・・。まぁ個性が強めでな・・・・・」
すごい言葉を選んで話す雷覇。どんな人達なのかしら?
「もしかして、双子なの?叔母上様は?」
「そうだ。俺の小さい頃をよく知っている人たちで、悪い人たちではないんだが・・・・・」
「なんだが?なに・・・・?」
「毎回来るたびに、もてなすのが大変なんだ・・・・水覇のやつ上手いこと逃げやがって」
げっそりしたように雷覇が言う。でも来ることは決まっているのだ。最大限おもてなしするしかない!!
「じゃあ、当日どうおもてなしするか決めてしまいましょう!!」
わたしたちは、それぞれの案を出し合いながら、方向性を決めた。とにかく何を言い出すか分からない人達だそうなので、柔軟に対応できるよう、念入りに準備しようとなった。
どんな人たちなのかちょっと楽しみ!!雷覇は、ああ言っているけど・・・・。炎覇の家族なら、尚更会ってみたかった。
その日の夜。わたしは炎覇と結婚していた時によく訪れいていた、別邸に来ていた。
前は怖くてこれなかったけど、今なら大丈夫な気がしたからだ。
こじんまりとした建物だったが、使い勝手がよかった。明るい木目のカントリー調の家だった。
庭園を作ったあとに炎覇の思いつきで作ったそうだ。あの時はびっくりしたなー!
家具や、置物は綺麗なまま残っていた。とても懐かしかった・・・・。
二人でよく、寝転がった暖炉の前、本を読んだソファー。一緒に眠ったベット。
今も鮮明に炎覇といた時の頃を思い出した。
少し涙が出たけど、わたしはもう悲しくはなかった。
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