44.黒秦国の第二王子・黒綾
「黒綾殿…。入ってもいい?」
「どうぞ…」
わたしは、テントの中に入った。
黒綾殿はベットの上で起き上がっていた。
表情が暗い…。そりゃそうよね。
わたしは、努めて明るく話そうと決めた。
「ちゃんと話すのは初めてよね?わたしは、秋唐国の第一王女。怜彬よ!よろしくね」
「あ…。あなたが…。お礼が遅くなって申し訳ありません。僕は黒秦国の第二王子、黒綾です。助けてくれて、ありがとうございます。怜彬殿」
「ううん。いいのよ!気にしないで。体はもう大丈夫なの?」
「はい!おかげさまで。美味しいごはんまで頂いて…。本当にありがとうございます!!」
深々と黒綾殿に頭を下げられた。なんて礼儀正しい子なのかしら!!髪の毛が黒いせいかちょっと、怜秋に似てるのよね~。同じ弟だし!
「美味しいと言ってもらえて嬉しいわ!黒綾殿は今何歳になるの?」
「今年で18歳で、成人しました!!」
二パっと無邪気な笑顔で黒綾殿が言った。
ううう。めっちゃかわいい!!黒綾殿は
かわいい系イケメンね!!!18歳なのか~。
怜秋より6つ上ってことね!
弟がもう一人いたら、こんな感じなのかな?
「そうなのね!」
わたしはニコニコしながら話した。
「怜彬殿はおいくつなんですか?」
「わたしは22歳よ!」
「僕より4つ上…。怜彬殿は王女なのになぜこのような場所に?」
「わたしの婚約者がここで救援活動を指揮していて、そのお手伝いに来たの!わたしの国は、災害や人命救助のノウハウをたくさん持ってるから」
「…。そうなんですか…婚約者がいらっしゃるんですね…」
急にトーンダウンして、黒綾殿が元気をなくしてしまった…?どうしたのかしら?
「うん!雷覇って言って、夏陽国の国王よ
今は怪我をしていて、わたしがお世話しているの!とっても優しくていい人よ。
今度紹介するわね!」
「はい!ぜひお願いします」
それからしばらくの間、二人でとりとめのない話をした。
黒綾殿は、武術はあまり得意ではなくて、
どちらかというと本を読んだり、
織物したりするのが好きなんだそうだ。
黒秦国は布地の制作や
繊維の原材料の栽培が盛んな国で、夏陽国とは
軍服の生地の取引をしたことがあり縁があるとか。
自分の服は自分で織った生地で作っているそうだ。器用なのね~!
「じゃあ、何か困ったことがあったらいつでも言ってね。
今後どうするかは雷覇と相談してからになるけど…」
「はい!色々ありがとうございます。怜彬殿、またお話いっぱい聞かせてくださいね!」
「ええ。ぜひ!」
そう言って、黒綾殿と別れた。わたしは急いで雷覇のテントに戻る。ちょっと長く話し込んじゃった。…。怒ってないかしら?
「雷覇!ただいま」
テントに戻ると雷覇は本を読んでいた。わたしに気がついて、ニコッと微笑む。
「遅くなって、ごめんなさい…」
わたしは雷覇の手を握って謝った。彼は首を横にふる。良かった…。怒ってない。
雷覇はヤキモチ焼きだからな~。これからは気をつけないと!
「…」
雷覇が何か言いたそうに、口をパクパクさせる。どうしたんだろ?
「雷覇どうしたの?何か言いたいことがあるの?」
ボソボソと小さい声だから何を話しているのかが聞こえない。
わたしは雷覇の声を聞こうと顔を近づけた。
不意に雷覇の顔も近くなった。
その瞬間に頬に懐かしい感触がした…・!!!!
「雷覇っ!!」
わたしは急に恥ずかしくなって、雷覇から離れた。
頬に口づけされた!!!
雷覇は満足そうにニコニコしてる。
もうっ!!不意打ちは反則よ!!
「急にびっくりするじゃない!!」
悪びれる様子もない雷覇。
本当に怪我しても喋れなくても、
雷覇は銀獅子だった!!
最近何もしてこなかったから、すっかり油断してた。
怪我のせいで全然体を動かせなかったし。
これで怪我が治ったら…。
またあの甘々フェロモン攻撃が復活するのかしら…。
ううう。どうしよう。
逃げても無駄なんだろうけど、
恥ずかしいから本当に程々にしてほしい…。
「ううう…。やっぱり怒ってるのね?」
まばたき2回。うそだ!!絶対怒ってる!!
これからは、あまり黒綾殿と
二人きりにならないようにしなくちゃ!
その後の雷覇のお世話はドキドキしすぎてちゃんとできなかった。
やっぱり…。ちゃんと好きになってからだと感じ方が全然違う…。
触れられて嬉しいのに、心臓がわしづかみされるぐらい
胸が高鳴る…。頬も熱い…。わーん。これからどうしよう~(泣)
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もう…。僕は死ぬんだ…。そう思っていた。
兄の刺客に攫われ夏陽国まで連れてこられた。
きっと僕を殺すに違いない…。確信があった。
兄はずっと王位を得られると思っていた。
もちろん僕も。…でも父は第二王子である
僕を次期・後継者にすると宣言した。そこから兄は変わってしまった。
僕を蔑むようになり、目も合わせてくれなくなった…。
悲しかった。小さい頃は仲良くしていたのに。それに僕は国王になんてなりたくない。
機織りで布を織っている方が性に合ってる。兄は小さい頃から文武両道で何でもできる人だった。
とても憧れていた。僕とは正反対だから…。
でも…。このまま死にたくない!なんとしてでも生き延びたいと思った。
見張りのスキをついて逃げ出して、ひたすら走った。
3日何も飲まず、食べず。意識が朦朧とする中、水の流れる音がして僕はそこへ向かった。
川だ…・!!!!やっと水を飲める。
そう思った瞬間、足元がふらつき倒れてしまった。
水…・。水が飲みたい…。喉はカラカラだった。
でも体が動かない。もうこのまま死ぬのか?とそう感じた時だった。突然女性の声がした。
「大丈夫ですか!?どこか痛むんですか?」
天女様が迎えに来たんだと思った。目を開けると、
とても綺麗な人が僕の前にいた。ああ。なんて綺麗な人なんだろうと思った。
彼女はすぐに誰かを連れてきて水を飲ませてくれた。
なんとか死なずに済んだ…。彼女は命の恩人だ。
秋唐国第一王女。怜琳。
彼女の名前だ。
僕を心配してかテントまで訪ねて来てくれた。
凄く嬉しかった。胸がドキドキした。
怜琳殿の笑顔が、まるで花が咲いたみたいに輝いて見えた…。
こんな気持ちになったのは初めてだ。
僕は彼女に惹かれていた。でもすぐに、現実にぶち当たる。
彼女には婚約者がいた。
しかもあの軍事国家当主の雷覇殿だ。
とても、僕じゃ勝ち目がない…。
権力も実力もある人だ。そんな人が婚約者だなんて…。
ぼくは絶望に打ちひしがれた。初めて好きなったのに、
すぐに失恋してしまった…。
怜琳殿が出て行ったあと、彼女のことを考えた。
彼女との会話はとてもは楽しい。
心が穏やかになった。今まで死にそうな思いをしていたのが嘘みたいだ。
もっと知りたい。怜琳のことを!!もっと…!!
やっぱり、諦められなかった。怜琳と仲良くなりたい。
まずはお友達になろう!婚約者ってことはまだ結婚はしていない。
勝算は0ではなかった。
たしか夏陽国は独特の風習が合ったはずだ。
4人の合意を得ないと結婚できない。という変わった風習だった。
それに従っているということはもしかしたらすぐに結婚できない理由があるかもしれない…。
可能性は全く無い訳じゃなさそうだった。
絶対に彼女を振り向かせてみせる…。
僕は密かに彼女のことを想う事を決めたのだった。
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その後、雷覇も交えて話し合いをした結果、
黒綾殿の身柄は一旦、夏陽国で
預かるということになった。
今の状態で彼を黒秦国に返しても命を狙われるだけだ。
黒綾殿は夏陽国に
研修に来ているという名目で滞在することとなった。これで一安心だわ…。
でもお兄さんとの関係がよくなればいいのに。
黒綾殿はその辺どう思ってるのかな?
昨日はどうしても聞けなかった…。もう少し仲良くなったら聞いてみよう!…
あっ!二人きりじゃないときにね!!ふぅ…。
危ない。危ない。
また雷覇を怒らせることになるところだった。
本当にちゃんと考えてから行動するようにしよう…。
わたしは、思いったらすぐに動く癖をどうにかしようと決めたのだった!!!
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