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40.ある日突然崩れる日常


水覇すいは殿に手紙を送った返事が来た。すぐにでも支援で来て欲しいとのことだった!

やった!!これで雷覇らいはに会える可能性が出てきた!

もうかれこれ1か月近く会っていない。手紙も来なくなったし、どうしているかが気になる。

元気にしているのか?ケガはしていないか?色々なことを思う。手紙を出してるけど、彼からの返事はない。

早く会いたい…。会って伝えたいことがたくさんある…。彼の笑った顔を思い出す。

くしゃっと少年のように笑う雷覇らいは…。わたしは彼にもらった香水を手にして振りかけた。彼と同じ香り…。抱きしめられるたびにいつも嗅いでいた匂い…。

胸がグッと詰まって切なくなる。雷覇らいは…。今どうしてるの?何を考えてるの?

会いたい…。強く思った。わたしは雷覇らいはと同じ香りを纏いながら、支援の準備を進めた。



*-------------------------------------*


夏陽国かようこく・南部~


会いたい…。俺は書類を整理しながらふと、怜彬れいりんの事を考えた。

最後に見た怜彬れいりんは泣いていた。未だに、忘れられないと言って…。

そんな時に俺は支えるどころか、彼女を傷つけた…。自分のしたことが恐ろしくなり、その場から逃げるように立ち去った。彼女は今も泣いているんだろうか…?


五神国ごしんこく会議が終わり、彼女と微妙な別れ方をした後、大規模な災害が起こった。

被害の状況が分からず、どんな状況かも分からない…。多忙な毎日を過ごしているうちにあっという間に連絡を取らずに1か月経ってしまった。

その間に彼女からの連絡もない…。当たり前だ。あれだけの事をした…。

嫌われても仕方なかった。いつもならすぐに手紙だけでも出して、弁明するところだが怖くてできてない。かと言って婚約を解消することもしたくなくてできてない…。中途半端だ…なにもかも。

彼女に対しても自分に対しても…。こんなに迷うのは初めてだった。

いつもはすぐに決断し行動できていた。軍人として必要なことだからだ。とっさの判断が命取りになる。

戦場での判断ミスは死に直結していた。


「はぁ…」


 考え事しながら仕事をしていたら終わっていた…。今は、一番被害の大きい場所で救助活動を指揮している。仕事をこなしていると、あまり思いつめなくてよかった。俺は一旦、作業の手を止めてリョクチャを入れた。簡単に入れれる粗末なものだが美味しかった。


「美味しいですね!色も綺麗で!ユノミと一緒にしたら売れると思いませんか?」


 キラキラ目を輝かせながら彼女が、リョクチャの販売について語っている場面を思い出した。楽しそうに笑う怜彬れいりん…。彼女の眩しい笑顔を見るたびに胸がいっぱいになって幸せな気持ちになった。触れるたびに恥ずかしそうに目を伏せて俯く。口づけすると真っ赤になって小さくなる。

次々と怜彬れいりんと過ごした日々を思い出す…。重症だな…。お茶一杯でこんなにも彼女の事を思い出す。愛おしくて仕方なかった。会いたい…。会ってすぐに抱きしめたい…。


でも…。次は自分を抑えられるのか…?理性を保って彼女と接することができるのか…?…。ダメだ…。できる気がしない。最後に会った時の出来事を考えると、自分を信じることができなかった。

このままの状態ではまた彼女を傷つける…。そんな自分が恐ろしい。

初めて自分で自分が分からなくなった。こんなことは初めてだ。それもそうだ…。こんなに人を好きなったこと自体が初めてだからだ…。


俺はユノミをテーブルに置いて、今までの事を考えていた。


女性には困ったことがない。いつも何もしてなくても彼女たちの方から寄ってくるからだ。

でも、どの女性もみんな同じに見えた。どれだけ綺麗で、かわいいと言われていても違いが分からなかった。告白されるのはいつも相手の方で俺から言ったことはなかった。こんな俺のどこがいいんだ…?いつもそんなことを思っていた。

いつも相手に興味を持てなかったため、適当な理由を付けて断っていた。時々断るのも面倒で何度か関係を持ったこともあったが、それもすぐにフラれて終わる。それからは、仕事に熱中するようになった。訓練したり新しい戦術を考える方が楽しかった。いつも水覇すいはには戦闘ばかと言われていた。本当にそうだと思った。戦場では冷静かつ巧妙に動き敵を倒してきた。一度も負けたことがない。

戦いは単純だ。強いやつが生き、弱いやつが死ぬ。それが全てだ。でも、恋愛はそうはいかない。人の心は繊細で、ちょっとしたことで変化する。こんなことなら、もっと恋愛を経験するべきだったか…。

今さら後悔しても遅い。もう怜彬れいりん以外の女性とそんなことする気にはなれないからだ。


雷覇らいは!ちょっといいか?」


 慌てた様子で、サイガがテントに入ってきた。


「どうしたんだ?」


「まずいことになった。被災地で大きな土砂崩れが起きた。この雨で地盤が緩んでいたらしい。おそらく何十人も生き埋めになってる」


「わかった。急いで被害の状況を報告させろ!それから救援隊を組織して手分けして捜索する!!」


 俺は考え事をやめて、再び仕事に戻った。怜彬れいりんに会うのはまだまだ先になりそうだ。


*-------------------------------------*


わたしは今、夏陽国かようこくに来ている。雷覇らいはが指揮している、救助活動を支援するためだ。救助や災害の知識に長けた人、救援物資。色んな人とモノを連れてここまでやってきた。

あと3日もすれば、被災地につく。わたしは身軽な格好をして、救援隊と一緒に現地へ向かっていた。

初めは、怜秋れいしゅうに止められたけど、きちんと説明して分かってもらった。

今回は、ラカンとリンリンも一緒だ。二人は優秀だから一緒に来てくれるのは心強かった。


「雨…。ずっと止まないわね」


 わたしは馬車から外を眺めながら言った。ここ最近ずっと降り続けている。そのせいで地盤が緩んで落石や、土砂崩れになったりする。とても危険な状態だ。


「そうですね。例年にはない大雨だそうです」


 私の前に座っていたラカンが言った。


「このままでは現地にたどり着くのも難しいですね…地盤が緩んできてます」


 冷静にリンリンが言う。


「できるだけ早く着くようにしましょう!休憩時間も短くして先を急ぎましょう!!」



 あと1日で、到着するとなった日。被災地へ向かっているわたし達の一向に、夏陽国かようこくの使者が来た。随分と慌てている様子だった。


 ラカンが対応してくれている。遠くで見てるけど何かすごく大変そうな感じだ。どうしたんだろ?

話が終わったのか、ラカンが険しい顔をしてこちらに戻ってくる。


「どうしたの?ラカン、なにかあったの?」


「はい。悪い知らせです。怜彬れいりん様…」


「なに?何があったの?」


「落ち着いて聞いてくださいね…。一昨日、被災地で救助している途中、急な落石があり作業に当たっていた、雷覇らいは殿が下敷きになったそうです…」


「えっ…?なんですって!!」


 心臓がドクリと大きく跳ねる…。雷覇らいはが…。下敷き?


「仲間を庇って、そうなったそうです。今手当てしてもらっているそうですが…」


雷覇らいはは無事なの!!?」


 わたしはラカンの袖を掴んで問い詰めた。どうしよう…。嫌な予感がする…。


「大けがをしているそうですが、命に別状はないそうです。ただ…」


「ただ?なに?ラカンお願いはっきり言って!!」


「…。未だに意識が戻ってないそうです。頭を強く打ったらしくその後遺症だそうです」


「そ…んな…」


 意識が戻ってない…?雷覇らいはが…?足元が揺らいだ気がした。わたしはよろめいて倒れそうになった。咄嗟にラカンが支えてくれる。どうしよう…。雷覇らいはが大けが…。


「お嬢様…。落ち着いてください。とにかく早く現場へ行きましょう!!」


 リンリンに声を掛けられて意識を取り戻す。そうだ!!早くいって確かめよう!!わたしが到着するころには意識が戻ってるかもしれない。


わたし達は、急いでさっき知らせに来てくれた使者とともに、雷覇らいはの元へ向かった。


雷覇らいは…!!お願い…。無事でいて!!

わたしは両手をぎゅっと握りしめた。まだ、心臓がドキドキしている。深呼吸するけどこの動悸は収まりそうにない。握りしめた手が震える…。背筋が寒くなる感覚…。ドクン。ドクン。

耳の中で自分の心臓の音が激しくなっている。どうしよう…。もし…。もし…。

嫌な考えが頭の中を駆け巡る。最近ずっと何事もなかったから忘れていたわ…。

日常は突然消えてなくなる…。足元から崩れる音がした…。今までわたしの前を通り過ぎた人たちは突然、いなくなってしまった。…!!雷覇らいは!!お願い…。死なないで!!!


横でリンリンに支えられながらわたしは、被災地を目指した。


最後までお読みいただきありがとうございます( *´艸`)

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