38.【追憶編】~雷覇の記憶~
いつもよりちょっと長めです。すみません・・・・。最後までお付き合いいただけると幸いです。
(#^.^#)
~4年前・夏陽国~
俺の父、炎覇は真面目で一途で穏やかな人だった。
何をおいても国民のために心砕き、よりよい生活が送れるよう日々奔走しているイメージだった。
母を亡くしてからも再婚せず、ずっと独り身を貫いていて
俺たち兄弟が再婚を進めても、まだ母が好きだからと笑いながら断れた。
本当に母を愛してるんだな…。と思いそれ以降再婚をすすめることはしなかった。
そんな父がある日突拍子もない事を言いだした。
「雷くん!!水くん!!僕好きな人ができたよ!!!!」
「はぁっ!!!?」
「それでその人と結婚することにした!!」
「はぁぁぁぁ?!!!!!」
俺と水覇は顔を見合わせた。
好きな人?結婚?何を言っているのか、全く分からなかった。
息を切らしながら部屋に入ってきたと思ったらいきなり何を言い出すんだ!!
衝撃的だった。頬を真っ赤にして目を輝かせて、まるで少年みたいに彼女のこと語る父は
今まで見たことがなかった。
「親父考えなおせ!もう45歳だぞ!」
「そうだよ父さん…。今さら結婚ってなんで?」
「本当に…。本当に!!かわいくて綺麗で、笑顔が素敵で、天使みたいな人なんだ!!彼女の傍で老後を過ごしたい!!」
俺と水覇は絶句した。だめだ…。完全に惚れてる!!!
「…。相手は誰なんだ?」
「秋唐国の第一王女。怜彬だ!!」
まるで少年のような顔で彼女の事を話す父。嘘だろ?27歳も年が違うじゃないか!!
俺と水覇は止めたか、聞かなかった。
どうしても彼女と結婚すると言って、ものすごい強引に話を進めた。
相手は秋唐国の傾国の美女。宝石の妖精と名高い女性。
第一王女の怜琳。
あれほど、頑なに再婚を拒否していた父をここまで変えるなんて…。
どれだけ凄い女性だ?
俺はこの時から彼女のことが気になっていた。
それから程なくして、父は本当に結婚した。凄い大々的な結婚式で…。
しかも結婚すると言ってから今日までのスピード感が凄かった。
父の強い意志を感じた。おそらく、仕事でもここまで力を入れてやってなかっただろう。
費用のかけ方も半端なかった。
すべて夏陽国もちで、こちらに来るまでの旅費、衣装から輿入れの道具まで何から何までこちらで手配した。それほどまでに、父は彼女の事を好きなのだろう。
まさか21歳になって自分と歳の変わらない母親を持つとは思わなった…。
「…。どうしよう。雷くん、やっぱり結婚したくないって言わないかな…」
「今さら言わないだろ?結婚式は今日だぞ?親父…」
「でも…。でも…。歳も離れているし…。結婚衣装が気に入らないって言われてたらどうしよう…」
ソワソワしながら、部屋をウロウロする赤い不死鳥…。
とても戦場で敵を薙ぎ払っていたとは思えない…。
父親が恋する少年みたいになるのは子供心に複雑だった。
水覇も一緒だったら、冷静に対処してくれたのに…。
あいつは今日に限って急用でいない。
「気に入らないって言われれば謝って、また別の衣装をあげればいいだろう?」
「そっか…!そうだよね!!さすが雷くん!!」
何がさすがなのか分からないけど、父親が元気そうでよかった…。
ちょっと前までは病気の事でかなり落ち込んでいた。
生きながら死んでいるような顔をしていた。
俺も話を聞いたときはショックだったけど、本人なら相当きつかっただろうと思う。
「炎覇様、雷覇様!!秋唐国の怜彬様がお見えになります!!」
扉が開いて従者が知らせに来た。父は慌てて飛び出していった。本当に45か…?
玄関を出たところで、輿が置かれ、中から一人の女性がでてきた。
…!!!!これほどなのか…!!!
俺は衝撃だった。ある程度噂は聞いていたから想像していたけど、それ以上だった。
声が出なかった。
絹のような長いまっすぐな黒髪に、まつ毛の長い大きな瞳…。とてもきれいな瞳の色だった。
透き通るような白い肌。憂いのある表情。どこか儚げでなにもかもが現実味を帯びてない気がした。本当に生きているのだろうか…?
父が眩しそうな顔で彼女をエスコートする。穏やかに笑う怜彬殿…。
「親父が夢中になるはずだ…」
俺はポツリと呟いた。この時まだ俺は気づいてなかった。彼女を好きになっていた事を…。
俺も一目惚れしたのだった。父が好きになった人を…。
彼女が嫁いでくるにあたり、父に口酸っぱく言われたのは、病気の事は話さないこと。
何も気にせず、のびのび過ごしてほしいから。という事だった。俺は反対しなかった。
彼女には悪いが、結婚期間は1年だ。死ぬとわかっていて、嫁いできたと知ったら実家に帰ってしまうかもしれない…。
そんな、俺の心配をよそに怜彬殿と父はうまくいっていた…。とても仲睦まじい姿を城の中でよく見かけた。胸が痛んだが、俺の場合は単なる風邪みたいなもので、時間が経てば忘れるとおもった。
ある日。怜彬殿が一人で書庫室に行くのを見かけて後を追いかけた。
熱心に書物を読んでいる彼女を目にした。窓から日差しが入ってきて彼女の髪の毛が少し透けて見えた。
そこだけキラキラ輝いて見えた。俺は意を決して、彼女に話しかけた。
「怜彬殿…。こんなところで何をしてるんだ?」
「雷覇殿…」
本から視線を上げてこちらを見てくるアメジスト色の瞳…。物凄く胸が高鳴った。
「何か体にいいものはないかなと…。運動とか、習慣とか色々見てました!」
「…。親父のためにありがとな…」
俺は辛うじて返事をした。
「いいえ。わたしも何かしてないと落ち着かないし…。それに色々調べてると楽しいですよ!!」
「そうか…。親父が元気になったのは怜彬殿のおかげだ。感謝している」
「ふふふ。どういたしまして」
「そういえば…。雷覇殿は何しにここへ?何か読みたい本でもあったんですか?」
う…。怜彬殿を追いかけてきたとは流石に言えない…。
「あっ…。ああ。過去の戦術について調べようと思ってな…」
なんとか誤魔化した。
「炎覇殿に異名はあったのですか?」
「あったと聞いているぞ。たしか…赤い不死鳥だったか」
「不死鳥…。なんだかすごそうな異名ですね!名前の由来はなんですか?」
「どんなに酷い戦場でも必ず生きて帰ってくる、死なない男と恐れられていたそうだ」
「そうなんですね!!凄い!!なんかかっこいいですね!!」
にっこり満面の笑みで笑いかけてくる怜彬殿。心臓が物凄い速さで跳ねる。
「そうだな…。昔は今ほど平和じゃなくて親父の代では、他国からの侵略も多かったそうだ。まぁ。そのおかげでその異名が付いたんだが…。親父の武勲は誇りに思うよ…」
「ふふふ。雷覇殿はお父さんが大好きなのですね!!」
「うっ…!!いや…まぁ…嫌いではない」
怜彬殿…。ヤバい…可愛すぎる…。
「また、炎覇殿の話聞かせてくださいね!!そろそろ戻ります!!」
何かを思い出したかのように、彼女は書庫室から出ていった。危なかった。彼女がそこにいたら何をするか分からなかった…。嘘だろ?親父の好きな人だぞ!!!
俺はとにかく、彼女を意識しないように注意した。たまに3人でお茶することもあったけど、努めて平静を装って対処した。
余命半年と言われていた父は見事にそれを克服し、怜彬殿が嫁いできて1年が経とうとした日の事だった。俺は夜中に親父に呼び出されていた。
「親父。何か用事か?」
「雷くん…。来てくれてありがとうね。ちょっと君にお願いしたいことがあってね…」
「お願い…?」
いつになく、真剣な表情の父。なにかあったんだろうか?
「僕が死んだら、この手紙を怜彬に渡してくれないか?」
「…!!なんで…そんなこと!病気はもう治ったんだろ?今だって薬は飲んでないって聞いたぞ?」
「確かに…。体調は良くなったよ…。でもわかるんだ。僕の命はもう殆どないってね」
穏やかに笑いながら話す父の言葉が信じられなかった。そんな…!!だったら怜彬はどうなる?あんなに父の事が好きなんだぞ?いつも父のために必死に勉強して…。
「だからね…。多分最後のお別れは言えないと思うんだ。だから怜彬に手紙を書いた」
「親父…。本当にだめなのか…?」
「うん。そんなに遠くはないと思う。これからの事はこっちの手紙に遺言として残してるから。この通りにして欲しい」
俺は叫びだしたのいのをグッとこらえる。なんでそんなに、普通にしてられるんだ!!!死ぬんだぞ?
「わかった…」
俺は親父から二通の手紙を受け取った。
「…。雷くん…。怜彬の事は好きかい?」
「はっ…?」
「ふふ。やっぱりね~。そうだろと思ってたんだ!!」
ものすごいいい笑顔で父親に指摘される。いつから気が付いてたんだ?ってかバレてたのか…!!!
俺は凄い恥ずかしさと、罪悪感でいっぱいになった。
「雷くん…。今はダメだけど、僕が死んだら怜彬の事を頼むね…あの子は強そうに見えて本当は繊細で寂しがりやなんだ…」
「…。親父…」
「だから、これからも傍にいて支えてあげて欲しい。どんな時も…頼んだよ。雷覇」
「わかった…」
親父が真剣な目つきで俺を見つめる。そうして両手を握り締められる。俺はぐっと強く手を握り返した。…。一番辛いのは父だ。本当は彼女の傍で支えたいと思っているに違いない。でも…。できない。
俺は父に託された願いをなにがあっても叶えると決めた。
~現在・四季国~
俺は愕然としていた。
旅館の中庭で花を眺めている怜彬を見かけて声を掛けた。
彼女は瞳に涙をいっぱいためて泣いていた。また、父の事を考えているのだろう…。
それから彼女とやり取りをしたが、俺はだんだん彼女に対して感情的になっていった。
そして彼女が過去の事で苦しんでいるのに、自分の欲望を彼女にぶつけた…。
無理やり唇を奪って、襲うような口づけをした。
最悪だ…。こんな時でさえ…。自分の気持ちをコントロールできない。
こんな気持ちはもはや、暴力だ。
彼女は何も言わずにただ、されるがままになってる。涙をたくさん流しながら…。
ああ…。こんな時でも彼女は美しい…。俺は彼女の涙を拭った。手放したくない…。今でも彼女を抱きしめたくて仕方なかった。
「怜琳…。君が好きだ…。それは変わらない。でもこのままでは俺は傍には居られない…」
「…」
何も言わず、じっと俺を見つめる怜彬。このままではダメだと思った。俺の気持ちは彼女を壊す。きっとぐちゃぐちゃにしてしまう…。
「すまない…。怜琳…」
俺はそれだけ言うと彼女の傍を離れた。
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