表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/198

36.【追憶編】~怜彬の記憶4~


その頃の記憶は朧気だった。


いつもなら起きているはずの炎覇えんはが、起きないから不思議に思って彼を起こした。

すでに亡くなっていて、炎覇えんはは冷たくなっていた…。

とても穏やかな顔をしていた。本当に死んでいるなんて思えないほどに…。


「え…ん…は?」


 何度も呼んだけど、彼が答えてくれることはなかった。うそ…。だって…。

昨日まで普通に話をしてて…。幸せだって言って…笑って…・!!!!


わたしと炎覇えんはがいつまでたっても部屋から出てこないことを不審に思った

侍女が部屋に入ってきた。慌てた様子で部屋を出ていった。

炎覇えんはが亡くなっていることを、雷覇らいは殿に伝えていた。


わたしはだた、炎覇えんはの冷たくなった手を握ってポロポロ涙を流しているだけだった。

何も考えられなかった。

理解ができていなかった。

もう少ししたら彼が起きて冗談だよって笑ってくれるんじゃないかってさえ思っていた。


それからあっという間に、炎覇えんはの葬儀があって彼の身体は燃やされて骨だけになった。

もう…。いないんだ…。彼はどこにもいない…。

遺骨を抱いて呆然としているわたしに、雷覇らいは殿が声をかけてくれた。


怜琳れいりん殿…。大丈夫か?」


雷覇らいは殿…」


「…。これ…親父から預かってたんだ…」


 彼も父親を亡くして辛いはずなのに、わたしに気を使ってくれて支えてくれていた。

雷覇らいは殿から手渡されたのは手紙だった。


「これ…は?」


「親父が怜琳れいりん殿に宛てた手紙だ。自分が死んだら渡してほしいって…」


「そう…」


 わたしは手紙を受け取って読み始めた。


 『怜琳れいりん


 これを読んでいるということは、僕はこの世にはいない。きっと悲しくて泣いているだろうね。

君は優しい人だから。僕のわがままでここまで付き合ってくれてありがとう。

本当なら一人で死んでいくはずだったけど、最後に君に出会えてよかった。

何かあれば、雷覇らいはを頼るといい。真面目で優しい子だ。

きっと怜琳れいりん

助けになってくれるはずだ。

あと、これからのことを書いておくね。

まず怜琳れいりんは降家してすぐに秋唐国しゅうとうこくに帰りなさい。

それから、再婚するのは一年間の喪が空けてからにすること。

それが終われば好きな人と結婚して新しい人生を生きてほしい。


どうか怜琳れいりん。この先も君が幸せで笑顔でいることを祈ってる。


元気でね。ありがとう。


 炎覇えんは


炎覇えんはっ…!!!!」


 わたしは手紙を握りしめながら泣いた。

最後までわたしの心配をしてくれている。

わたしの幸せを願ってる…。


怜琳れいりん殿…。3日後に秋唐国しゅうとうこくへ帰れるよう手配している」


「そんな…。すぐに?」


「ああ。親父の遺言でもあるんだ。いつまでもここにいても良くないから、早く実家へ返すようにって」


 炎覇えんははそんな先のことまで考えていたの?自分が死んだあとのことも…。

そんな素振りは見せなかった

。あんなに一緒に居たのに、手紙を書いていたことも知らなかった。

わたし…。守られてたんだ…。ずっと炎覇えんはが守ってくれてたんだ。


怜琳れいりん殿、何かあったらいつでも連絡してくれ。俺にできることなら何でもする…」


「ありがとうございます…。雷覇らいは殿」


 その後、どうやって秋唐国しゅうとうこくへ帰ってきたのかは覚えていない。

わたしはただ、泣いていたような気がする。炎覇えんはの事を思い出しながら…。


それからは、何も感じなくなっていた。景色が白黒に見えてた。そういえば…。

前に炎覇えんはも同じようなことを言ってたっけ?

マーリンも心配して、何度か訪ねて来てくれた。

わたしは、泣きながら今までのことをマーリンに話した。

マーリンは何も言わずにただ、黙って聞いてくれていた。とてもありがたかった。


わたしが秋唐国しゅうとうこくへ帰ってきてから、定期的に雷覇らいは殿から手紙が送られてくるようになった。

ほとんどが世間話の様な内容で、わたしの体調を気遣うものばかりだった。

二人の支えもあって、なんとか日常を取り戻すことができた。


炎覇えんはに言われていた、喪中期間。2人目の人と結婚をすることになった。

かなり結婚を反対したけど阻止できなかった。

わたしはそのまま、冬羽国とううこく冬茉とうまどの元へ嫁いだ。


でもその後3ヶ月経った頃に、不幸な事故で彼は亡くなり、わたしは再び秋唐国しゅうとうこくへ戻る。

間髪入れず、今度は春魏国しゅうぎこくへ嫁いだ。

3人目の人は結婚式の祝いの席で亡くなった。


皆が噂した。わたしが嫁ぐ先々で相手が死んでいく。

死を呼ぶ姫…。

【死神姫】と…。


もう一つ囁かれた噂は、炎覇えんはの逆鱗に触れたのではないか?とういものだった。

喪も開けない間に別の旦那様のところへ嫁いだため、炎覇えんはが怒り相手を呪い殺したのではないか?と…。

そんな事する人ではないのに…。

皆勝手に言うのね…。


わたしは簪を眺めながら、炎覇えんはと話したことを思い出していた。

一緒にお庭を散歩したこと、一緒に運動したこと、本を読んだこと…。

たった1年半の生活だったけど、沢山の思い出がある。もう十分だと思った。

わたしが傍に居て欲しい人は皆わたしを置いて逝ってしまう…。

誰も傍に居てくれない…。お父様も、お兄様も炎覇えんはも…。


だったら、もう誰も好きにならない。愛さない。結婚なんてもってのほか。

だんだんこの頃から、わたしは結婚しないと思うようになった。誰も愛さず、弟の傍で静かに老後を過ごすと決めた。

こんな思い二度としたくなかった。胸が痛くて何度も刃物で切られるような思いをするのは…。

毎晩、炎覇えんはの夢を見て目を覚ます。目を覚まして絶望する。彼がいない現実を目の当たりにする…。その繰り返しだった。

毎日が苦しかった。何をしても、何を食べても、何を聞いても、全部炎覇えんはがいたころに辿り着く。逃げても逃げても追いかけてくる…。彼の想い出。彼との記憶。

私自身が、未だに手放さず、握りしめているもの。


*-------------------------------------*


~現在・五神国ごしんこく


雷覇らいはが立ち去って、わたしは彼の後ろ姿をただただ、眺めてた。

引き止めることもできたけど、できなかった。


雷覇らいは…。ごめんなさい…」


 わたしは雷覇らいはに謝った。わたしが中途半端なことをしたせいで、傷つけた。

ずっと炎覇えんはが好きなのに、忘れられないのに、雷覇らいはも好きだと思った。

未だに手放す事ができないのに、掴もうとするからこうなるんだわ…。


炎覇えんはと過ごした時間。あの時間さえなければわたしは、今こんなになってなかったのだろうか?

炎覇えんはと出会わなければよかったのだろうか?

…。そんな事無い。彼と出会えて幸せだったし、彼と過ごした時間は本物だ。

初めて人を好きになった。初めて全力で愛することを知った。炎覇えんははわたしに、無償の愛を与えてくれてた。愛する喜びを教えてくれた。

ふわふわ降る雪のように…。優しい愛。あたたかい、ひだまりのような人…。


そう考えた時また、涙が溢れてきた。過去を否定することは、彼の愛を否定することだ。

過去を受け入れない限り、炎覇えんははずっと加害者になる。わたしが被害者だと思っているから…。

わたしが前へ進まない限り、永遠に炎覇えんはを亡霊にすることになる。楽しかった思い出も、キラキラ輝いている記憶も全部、呪縛にしかならない…。


ああ。わたしなんで…。今まで気が付かなかったのだろう…。

後ろばかり見て、過去を否定して、目を背けて…。


彼が全力でわたしに注いでくれた時間をわたしは無視してた。4年も無駄にしていた…。

炎覇えんはの書いた手紙をもう一度読む。わたしの幸せを祈ってる。

なのに、わたしはそれを拒否してた…。だから、こんなに苦しかったのね…。

受け入れてしまえば凄く心が軽くなった。今まで真っ暗だった世界に光が指したような感覚がした。


ちゃんと前へ進もう…。炎覇えんははもう戻ってこない。

でも彼が残してくれたものは沢山ある…。

炎覇えんは…。ごめんなさい。

今まできちんと向き合ってこなくて…。わたし、これから前を向くわ!


わたしは涙を拭いた。まっすぐ歩き出す。

そして、今度こそ雷覇らいはが好きだと伝えよう。

まっすぐ彼に向き合おうと決めたのだった。



最後までお読み頂きありがとうございます\(^o^)/



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ