34.【追憶編】~怜琳の記憶2~
炎覇殿が寝ているベットに近づいて、彼の顔を覗き込んだ。
今は容体が落ち着いているのか、顔色も少しよくなってた。本当にあと半年で…。
じわっと目頭が熱くなって涙が出てきた。まったく信じられない…。
ずっと元気だったもの。
彼が居なくなることはとてもじゃないけど、想像できなかったし、したくなかった。
炎覇殿の頬に触れる。すると彼が目を覚ました。
「怜彬…」
「炎覇殿…」
「聞いたんだね…。僕の病気の事」
穏やかな声で彼が話す。
「なんで…。言ってくれなかったんですか…?余命半年…だなんて」
「泣かないで…怜彬。これは僕の我がままだから、君が知る必要はないと思ったんだ」
彼の手がわたしの頬に触れる。
「ひどいわ!初めから隠してたなんて…。1年間と決めてたのもこの為だったの?」
「そうだよ…僕の我がままだったし、怜彬に心配してほしくなかった」
「そんな…」
あんまりだ!炎覇殿が病気で苦しんでいるのに何も知らずに過ごすなんて…。
「それにね…。元々僕は病気については受け入れてた…。というか諦めてたんだ…」
彼は起き上がって、わたしを抱きしめながら話してくれた。
「病気を知ったのは君と初めて会った少し前の事だよ。でも、さほどショックでもなかったんだ。子供二人も大きくなって後を継いで、僕自身も地位も名誉も全部手に入れた…。心の残りと言えば孫の顔を見れないくらいかな…」
彼の言葉に静かに耳を傾ける。背中をさすりながら炎覇殿が続けて話す。
「病気は怖くない…。でも急に周りの景色が色褪せて見えるようになった。何も感じなくなったんだ…。妻を亡くした次くらいにね」
少し寂しそうな声で炎覇殿が話す。
やっぱり今でも奥さんのことを愛してるんだわ…。
「生きていく意味を見い出せていない時に、怜彬に出会った。初めて君を見た時は本当に、女神や天使に見えたよ…」
「えっ?そうなんですか?」
「ああ。一目惚れだよ。君を一目みた瞬間、あんなに色褪せてた景色が、急に色付いて綺麗に見えた!」
そっ…!そんな事思ってたんだ。凄く嬉しいけど、凄く恥ずかしい。
「君と話せば話すほど、目が離せなくて、もっと声をききたくなって…。どうしても手に入れたい!傍にいて欲しい。そう思って無理やり結婚に持ち込んたんだ♡」
「そんな理由で…わたしと結婚を決めたんですか?」
「ああ。余命が少ないと分かっていたから余計に強く思った。後悔して死にたくない。1日でも怜彬の傍にいたいと思った」
彼がぎゅっと抱きしめる。
「だから怜彬。僕はいま凄く幸せなんだ。大好きな君と毎日を過ごせる!それがどれ程の喜びなのか…。君に分かるかい?」
「炎覇殿…。わかったわ…!わたし決めたわ」
「怜彬?何をだい?」
「わたし絶対にあなたを死なせない!」
彼の顔をつかんだ!この人と生きよう!
すこしでも楽しい人生になるように努力しよう!!
わたしを選んでよかったって思わせてみせるわ!!
「あと半年で居なくなるなんて許さない!わたしはあなたとずっと生きていきたい!だから炎覇殿…。受け入れないで…。諦めないで…わたしと生きると言って!!!」
気がついたらまた泣いていた。彼に触れる手も震える。怖い。
死が隣にあるなんて…。
でもまだ死ぬとは限らない!わたしはあきらめないわ!!!
「怜彬…!ありがとう…ありがとう…生きるよ…!君と…」
そう言いながら彼は私の胸に顔を埋めた。
彼は泣いていた。きっと不安だったんだ…。
当たり前だ…。死が怖くないはずが無い。
この人を支えよう!絶対に何があっても傍にいよう!
わたしは心に強く誓った!!
次の日から炎覇殿の病気を克服するための取り組みが始まった!
身体にいいと、されるものは全部試してみようとなった!
「炎覇殿!ちゃんと野菜も食べてください!」
「れいりーん。僕は野菜は苦手なんだ…」
「だめです!子供みたいな事言わないで!早く食べください!」
「ううう。食べたくない…」
全く!小さい子みたいね!かわいいけど…。でもダメです!まずは健康的な身体作りをしなくちゃ!
「分かりました!食べなくても結構です」
「えっ?本当?」
パァっと顔が明るくなる炎覇殿!キュンキュンするなーもー!
「その代わりもう炎覇殿とは一緒に寝ませんから!」
「ぇぇぇぇ!そんな~!!」
「さっそく今日から寝室を別にしてもらいます!」
「わかった!かわりました!食べるから!!別々に寝るとか言わないで!」
炎覇殿はとにかくわたしと一緒にいたがる。
それを逆手にとった!うん。うん。ちゃんと食べてるわね!
「なんか…。怜彬殿は変わったな…」
傍でみていた雷覇殿が驚いた様子で言った。
「当たり前です!!この人には生きて貰わないと困るんです!!」
この際、こだわりなんか捨ててなんでも試してみないと!
その後もわたしは炎覇殿と一緒にありとあらゆる、体にいいものを試した。
時々、体調を崩して辛そうにしていることもあったけど、わたしが、嫁いで半年経った今でも炎覇殿と一緒にいることができている。
とてもいい傾向だった。主治医の先生も驚いていた。
今日は炎覇殿とは別で、書庫室に来ていた。
なにか病気を防いだり、体にいいことはないか探すためだった。
たくさんの本がある中でわたしは何冊か目星をつけて読んでいた。
「怜彬殿…。こんなところで何をしてるんだ?」
「雷覇殿…」
顔を上げると雷覇殿がいた。
彼は炎覇殿の子供で双子のうちの長男。
顔つきは炎覇殿を子供っぽくしたような感じでとても似ていた。
「何か体にいいものはないかなと…。運動とか、習慣とか色々見てました!」
「…。親父のためにありがとな…」
ザ・軍人って感じでぶっきらぼうに彼が言う。でも本当は彼はとても優しい。
何かとわたしを気にかけてくれている。こんな大きな、イケメンの息子がいるなんて!!
実感ゼロだけど!!多分、雷覇殿も私を母親だなんて思ってないだろう
。歳の近い友達みたいな気さくさで話してくれる。
「いいえ。わたしも何かしてないと落ち着かないし…。それに色々調べてると楽しいですよ!!」
「そうか…。親父が元気になったのは怜彬殿のおかげだ。感謝している」
「ふふふ。どういたしまして」
「そういえば…。雷覇殿は何しにここへ?何か読みたい本でもあったんですか?」
ふと疑問に思って聞いてみた。
「あっ…。ああ。過去の戦術について調べようと思ってな…」
ちょっと照れくさそうに頭を掻きながら話す。
そんなに恥ずかしい事なのかしら?
でも雷覇殿はとても強い軍人さんで、銀獅子という異名を持ってる。
すごい事だった。
それでふと気になったことがあったので聞いてみた。
「炎覇殿に異名はあったのですか?」
「あったと聞いているぞ。たしか…赤い不死鳥だったか」
「不死鳥…。なんだかすごそうな異名ですね!名前の由来はなんですか?」
「どんなに酷い戦場でも必ず生きて帰ってくる、死なない男と恐れられていたそうだ」
「そうなんですね!!凄い!!なんかかっこいいですね!!」
「そうだな…。昔は今ほど平和じゃなくて親父の代では、他国からの侵略も多かったそうだ。まぁ。そのおかげでその異名が付いたんだが…。親父の武勲は誇りに思うよ…」
嬉しそうに微笑みながら雷覇殿は炎覇殿の事を話す。
やっぱりお父さんが好きなのね~。
しかし…。死なない男って…。炎覇殿どんだけ強かったのかしら?
うーん。今の炎覇殿からは想像できないな~。
「ふふふ。雷覇殿はお父さんが大好きなのですね!!」
「うっ…!!いや…まぁ…嫌いではない」
照れちゃってかわいいな!!
「また、炎覇殿の話聞かせてくださいね!!そろそろ戻ります!!」
わたしは何冊か本を手に取って、書庫室を後にした。
この後、炎覇殿と庭でお茶する予定だ。今日は何を飲もう…。
おやつもどんなお菓子にしよう。
そう考えながらわたしはウキウキしながら庭園へ向かったのだった。
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