【番外】水覇《すいは》の憂鬱
久しぶりの番外編です\(^o^)/
水覇目線
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「はぁ…」
全くもって憂鬱だ。どうしてあの人はあんなに落ち着きが無いのか?
とても血を分けた兄弟とは思えない。
戦場では冷静かつ巧妙に動き武勲を上げる兄が、とたんに駄目になる。
一人の女性に熱を上げ、挙句の果てには、勝手に訪問し勝手に滞在。
本当にいい加減にしてほしい…。
夏陽国の領土は広い。ゆえに一人で統治することは難しい。
昔から代々二人の王で土地を分割しそれぞれを統治してきた。
ひとつの土地でさえ統治することは難しいのに、もう一つの土地をほったらかしに、
勝手に動き回る。おかげでこのところまともに寝れてないし妻にも会えて無い!!
本当にいい迷惑だ!!
「大丈夫ですか?水覇様」
僕の従者のムツリが、お茶を渡しながら話しか掛けてくる。
彼は僕たち兄弟を小さい頃からよく知っている。サイガの兄だ。
サイガと同じでフワフワの髪の毛に黒味がかかった青い瞳をしている。
サイガと違って真面目で几帳面な性格の男だ。
「ありがとう。ムツリ。…全然大丈夫じゃないよ。兄さんがいないせいで業務が滞ってる、いい加減帰ってきほしいよ。全く」
「そうですね。今度帰ってきたら、雷覇様とサイガにはきつく言っておきましょう!」
「頼むよ…。はぁ。早く帰って妻の顔が見たい…」
本当に酷い話だ。僕は結婚してまだ、3ヶ月も経ってない。
新婚だよ!一番楽しいときって言うじゃないか!!
あんまりだ。自分は好きな人と一緒にいるというのに…。
帰ってきたら絶対、文句言ってやる。
好きな人の傍にいたい。その気持はよく分かる。
でも…。加減ってもんがあるだろ!!
本当に何であんなにポンコツになったんだ?
昔はもっとまともだった。どちらかと言うと仕事人間だった。
あまり女性には興味がないと言った感じで、言い寄られても淡々と返していたのを覚えている。
本当に一度好きになったら向こう見ずなのは、あの人そっくりだ…。
雷覇は小さい頃から一度好きになってハマったものは徹底的にこだわる傾向があった。
武術にしても10歳で目覚めてからは毎朝の鍛錬を欠かさず行い、
訓練も徹底的に行なっていた。剣の形や手触り、重さのこだわりもすごかった。
手を抜けないタイプなのだ。そのこだわりは大人も舌を巻くほどだった。
全く僕とは正反対だ。僕はどちらかと言うと、頑張る時は頑張るし、やらない時は何もしない。メリハリを付けるタイプだったし効率重視だからな~。
「水覇様…。新婚なのにお労しい…今日こそは早く終わらせて帰りましょう!!」
「ああ!なんとしてでも帰る!!」
僕はなんとか、仕事を早く終わらせて自分の寝所に戻った。戻るとかわいい笑顔の妻が出迎えてくれた!今日の疲れが吹っ飛んだ!!
「おかえりなさいませ。水覇殿!今日は早かったんですね!」
彼女が僕の妻。水蓮。3ヶ月前に見合いで結婚した女性だ。
明るい金色の少し癖のある長い髪に、大きくてまつげの長い銀色の瞳。
僕より5歳年下のとっても愛くるしい人だ。
彼女は春魏国の貴族の娘で、縁があってこの国に嫁いできた。
「ただいま。水蓮。なんとか切り上げてきたよ」
駆け寄ってきた彼女を抱きしめる。久しぶりの感触だった。ああ。癒やされる…。
「毎日、お疲れさまです。お身体は大丈夫ですか?」
「ああ。問題ない。寂しい思いをさせてすまない…。水蓮」
「わたしは平気です!覚えることもたくさんありますし。それよりお兄様のこと大変そうですわね…」
心配そうにする水蓮。
彼女はなんて優しいんだ!あのクソ兄!!帰ってきたら本気で覚えてろよ!!
絶対に借りを返してもらう。
今度は兄に仕事を任せて僕は水蓮とゆっくり過ごそう!
僕はそう心に誓った。
「兄のあれには参ったよ…。一ヶ月近くも国を空けたと思ったら、今度は春魏国に行って、そのまま冬羽国に行くなんて…」
「そうですわね…。ふふふ」
「なにがおかしいだい?水蓮」
「ああ。ごめんさい…。可愛らしいなって思って。雷覇殿が」
「可愛い?兄がか?」
「ええ。純粋で一途で。とっても素敵です。あんな風に思われて、嬉しくない女性はいませんわ!」
えっ?まさかの高評価!!あんなに自分勝手にしているのに!
ちょっと納得できないけど、水蓮が笑ってるならいいか。
「まぁ…。兄さんは4年前から怜琳殿を想ってるからね…」
「あら!そんな前から…。では今はとっても嬉しいでしょうね」
「そうだろうね!まさに恋する少年って感じだよ!!」
「ふふふ。それだけ好きなのですね…。羨ましいですわ。わたしはそういう事したこと無いので…」
「…。まぁ、僕たちはお見合いだしね」
「あっ!!そんなつもりじゃないんです!ちゃんと水覇殿は好きですよ?わたし!!」
慌てた様子で彼女が言う。たしかに僕たちは兄のような大恋愛ではない。
彼女が憧れるのも無理はない。その分大事にしたいと思う。
「それは良かった…。君に嫌われたらこの先どうしたらいいかわからないよ…」
そう行ってもう一度彼女を抱きしめる。
「水覇殿…わたしが嫌うはず…無いじゃないですか…」
頬を染めて彼女が言う。本当にかわいいな。ずっと眺めていられる…。
兄さんもこんな気持だったのかな?彼女の傍にいたい。離したくない。
そんな気持ちなんだろうか?
「ふふふ。なら良かったよ」
そう言いながら彼女の頬に口づける。また彼女の顔が真っ赤になる。
照れている顔もかわいい。天使なのか!彼女は!!
「私達は夫婦なので、いつでも会えますけど、雷覇殿はまだ婚約中ですもの…。傍にいたいという気持ちも分かるんです…。不安じゃないですか。好きな人がどうしてるかわからないなんて…」
「ああ。そうだね…」
確かに水蓮の言う通りかもしれない。確かなものがない。
だから兄はあれほど必死になっているのだろう。
それにしても…。
あの堅物の兄を夢中にさせる怜琳殿は凄いな…。
さすが傾国の美女。本当にこのままこの状態が続くならマジで国が傾くかもしれない…。
あらゆる人を魅了する。秋唐国の第一王女、怜琳。
彼女のなにが人をそんなに引きつけるのか?確かに彼女は綺麗だ。
絹のような真っ直ぐな黒髪に、アメジスト色のつぶらな瞳。
華奢な身体つきは、誰もが守ってあげたいと思うかもしれない。
クルクルと変わる表情。あかるく朗らかな性格だが、ふとした瞬間に儚げな表情を見せることがある。
そんな危うさも持っているから惹かれるのだろう…。どうしようもなく。
三人の男性に嫁ぎ、それぞれが不運の死を遂げた。
【死神姫】という異名を持つ彼女は、兄についてどう想っているのだろう。
最初見た感じでは好いている様子はまったくなかった。
雷覇が押しかけている時、婚約すると言ってホッとした表情を見せたくらいだ…。
いずれにしても…。まずは帰ってきたら本気で締めてやる!!
明日には春魏国から戻ってくると連絡があったから、やっと僕も仕事から開放されそうだ。
早くこの憂鬱な生活から開放されたい!!
本当に怜琳殿!!お願いだから早く兄と結婚してくれ!!
でないと僕が水蓮とゆっくりできない!!
そんな事を考えながら、僕は久しぶりに水蓮とゆっくり過ごしたのだった。
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最後までお読み頂きありがとうございます!\(^o^)/