26.春魏国へ帰還~なかなおり~
やっと更新できました\(^o^)/
「雷覇殿…いる?」
その日の夜。わたしはらいはの部屋の前に来ていた。喧嘩したことについて話したいと思っていたからだ。
「ああ。どうぞ…」
心なしからいはがぎこちない気がするけど、気にしない!さっさと謝ってスッキリしたいから!
部屋のソファに通されて並んで座る。うう。いざ話そうとすると緊張する…!
「お祭りの時喧嘩したこと、ちゃんと謝ろうと思って!」
「いや…。あれは俺も悪かった」
「わたしも…。あの…きつい事言ってごめんなさい。ついイライラして言っちゃったの」
「俺も大人気無かったんだ。すまない…。」
「うん。…。」
なんだ?なんでこんなに空気が重いの??
「雷覇殿…。まだ怒ってる?」
「いや…。怒ってない」
「じゃあなんで、こっち見ないの?」
いつもは、びっくりするくらい近くにくるのに今日は来なかった。むしろ離れてる。そう言えば今日1日、スキンシップが無かったな…。やっぱり…。嫌われた?
「それは…。怜琳との距離感が分からないんだ」
「距離感?なんで?」
「なんでって…。その…。言っただろう?嫌だったって」
ものすごくしょんぼりしながら雷覇が言う。
「わたしが?何を嫌だったって言ったの?っていうかわたし嫌とか言ってた?」
なんか研究室に乗り込んで来た時もそんな事言ってたな~。わたしそんなこと言ったっけ??
「言ってた!俺が近くに寄ることも、おでこや頬に触れるのも嫌だったって。ずっと我慢…してたって…」
ああ!あれか!!喧嘩した時に、咄嗟に普段思ってたこと言っちゃったやつだ!雷覇はあれを気にしてたの?なんか…。かわいいかも。ちょっときゅんとしてしまった。
「雷覇殿…。あれは…その…人前でそういうのをされるのが嫌って言いたかったの、だから雷覇殿が嫌って意味じゃないよ?」
わたしは雷覇の手に自分の手を重ねて言った。わたしから触れるのは初めてかもしれない。
頭とかはなでなでしてたけど…。
「…。本当に?俺に触れられるのは嫌じゃないのか?」
「うん…。嫌じゃないよ、それにあのね…雷覇殿。わたし…」
伝える前に雷覇に思いっきり抱きしめられた!でも。すごく久しぶりな感触だった…。ほんわかいい香りがして、温かくて落ち着く…。
「良かった…。もう怜琳に嫌われたと思った…」
そんな事無い。そんはずない。さっき好きって言おうとしたけど…。まぁいっか。わたしも雷覇の背中に手を回して抱きしめた。少し雷覇が震えてた。もしかして…。泣いてるの?
「雷覇殿、泣いてるの?」
「…。泣いてない…」
嘘。絶対泣いてる!でも言わないでおこう…。
「そっか。雷覇殿、ただいま…」
「おかえり。怜琳…。会いたかった。ずっと…」
雷覇が体を離して、わたしの頬やおでこに口づけする。
何度も何度も…。まるでわたしが、ここにいることを確かめているみたいに…。
「うん。わたしも会いたかった。それにちょっと怖かったし…」
今さら、誘拐されて牢屋で過ごしたことを思い出してきた。あの時は本当に心細かった。
「迎えに行くのが遅くなってすまない…。今度は絶対、離さない」
「うん。…。今度は離さないでね…」
そう言うと、お互いに自然に顔が近づいて、唇が重なった。雷覇の腕はとても力強くて心地よかった。もう、離れたくない。彼の傍にずっといたい。そう心から思った。
冬羽国を出て馬車で2日。やっと春魏国に帰ってきた!!
もうすでにお祭りは終わってしまっている。あーあ。もっと楽しみたかったな~。仕方ないけど!
また来年も来ればいいよね!!
「れいちゃーん!!!」
マーリンの家についてすぐ、熱烈に歓迎された。今はマーリンに思いっきり抱きしめられている。
「マーリン!心配かけてごめんね…」
「れいちゃんは悪くないわ~。元はと言えばやきもち焼きのライライがいけないのよ~」
「う…。それについては申し訳無いと思っている」
「わたしも大人気なかったのよ、マーリン」
「ああ!本当にれいちゃんはやさしいわね~。お祭りにも参加できなくて残念!また来年は楽しみましょうね~♡」
そう言って、マーリンがバチっとウインクをしてくる。相変わらず綺麗だな~。…。おおっと。
わたしには使命があるのを忘れていた。今回の春魏国入国にあたって、冬條殿も一緒に来ている。もちろんマーリンに会うためだ。
当の本人は、ガッチガチに緊張していて、まだマーリンと話せていない。
「わたしが誘拐されていたのを冬條殿が助けてくれたの!!とっても助かったわ」
「あら♡そ~なのね!ありがとう~」
「えっ…。あ。そん…なこと…は」
みるみる真っ赤になって、小さくなっていく冬條殿。とてもじゃないけど、男性に見えない…。
「うーん。じょるたんってどこかで会ったことあるのかしら?」
「何?じょるたんって?」
「とうじょうだから、じょるたん♡かわいいでしょ?」
「また、マーリンはあだ名つけて~。冬條殿とは会ったことあると思うよ。4年前の五神国会議の時に」
「ああ!あの時の~♡改めましてよろしくね~じょるたん!」
「はっ!!はい…。おっおぼえ…ていてくださって…うれしいです」
「覚えてるわよ!!何せ最先端の技術で肌の若返りの論文を発表してたのよ~。興味津々だったわ~♡」
「えっ…あ…。うれしい…です」
「ふふふ♡冬羽国の国王も、結構なご高齢って聞いたけど、すごく若々しい感じだったものね~すごいわ~」
そう言いながら、マーリンは冬條殿と楽しそうに話してる。ふふふ♡なんだか上手くいきそうじゃない?きゃー!!ドキドキする~!!
「マーリン!わたしは怜秋のお土産を買いたいからちょっと出掛けてくるね!」
「俺も一緒に行こう」
「あら?そうなの~。わかったわ♡気をつけてねん」
わたしと雷覇は部屋を出て街へ向かった。やった~!上手く行った!!まずは二人きりで話してもらわないとね!!武運を祈る!冬條殿!!
「怜琳…」
「なあに?」
二人きりになった途端、後ろから抱きしめられた!!!後ろからって反則よ!!!息が耳にかかって緊張する…。さっきとは違うドキドキがする…。
「雷覇殿…。ちょっと…いきなりどうしたの?」
「やっと二人きりになれたから…」
「それは…分かるけどこんな街なかで…」
「だめか?口づけも、頬にふれるのもしてないぞ?」
「っっつ…!!!そんなのっ!だめに決まってる!」
「だから抱きしめているだけだぞ?」
少し意地悪そうに、雷覇が言う。ううう。こういうときの雷覇って、本当に!!ほんとうに、フェロモンマックスなのよ!!恥ずかしい…。顔見られなくてよかった。
「…」
「怜琳?」
「もう…いいでしょ?早く買い物行こう?」
「…名前」
不意に雷覇の腕がゆるまって、対面で向き合うかたちを取られる。
「名前?」
「殿はいらない。名前で呼んでくれ。それなら一緒に買物に行こう!」
「ううう…なんでそうなるの?」
もう!!いい笑顔で言ってくるな!かっこ良すぎでしょ!!名前…。あらためて呼ぶってなったらすっごく恥ずかしい…。
「いいから、早く呼んで?怜琳…」
「ら…いは」
「何?聞こえないよ…怜琳」
「雷覇…」
おずおずと見上げながら雷覇の名前を呼ぶ。見るとすごく嬉しそうな雷覇の笑顔があった。
「もう一度言って?怜琳」
「う…。雷覇!!これでいいでしょ?」
ガバっと思いっきり抱きしめられる。もう~。街中なんですけど~。
「嬉しいよ!ありがとう怜琳…」
「そっ…それは、良かったです…」
まぁ、名前呼んだくらいでこれだけ、喜んでくれるならよかったな。へへへ。これからはもっといっぱい名前で呼んであげようと思った瞬間…
「んんっ…・」
突然、口づけされた。
「ふっ…・ん…」
ちょっと待って下さい!!人前でこんなのだめ!!恥ずかしい!!雷覇から離れようとするけど無駄な努力だった。腰に手をまわされて固定されているから、身動きがとれない。
しばらくの間、何度も深い口づけをされた。
「はぁっ…はぁはぁ…」
息も絶え絶えになりながらやっと離してもらえた…。はぁ…。頭がクラクラする…。
「すまない。怜琳…。嬉しくてつい…」
「もうっ!人前ではしないって言ったのに…」
わたしは、涙目になりながら雷覇を睨んだ。ひどい!恥ずかしい!!もう、街中歩けない!!!
「ほんとうにごめん!もうしないから!」
「うう…。本当に?」
「ああ!約束する。人前では絶対しない」
んん?言い方が微妙だけど。それならまぁいっか!
「本当に、約束よ?人前でしたら、二度と名前で呼ばないから!!」
「…っ!!わかった…。二度と人前ではしない!」
ふぅ!やれやれ。これだけ言っておけば、人前であんな事されることもないだろう!ここが秋唐国じゃなくって本当に良かった!!あんなの誰かに見られたら死んじゃう!!!
それから二人で手をつなぎながら、街を見て回った。前に夏陽国で一緒に歩いた時とは、全然違ってた。わたしが雷覇を好きだからね…。きっと…。
…。そろそろ。言わないとね…。わたしは雷覇を見上げながら思った。
いつまでも黙っている訳にはいかない。彼がわたしに対して誠実に接してくれているなら、尚更。
彼の手をギュッと握りしめてわたしは、話す覚悟を決めたのだった。
最後までお読み頂きありがとうございます!