181.五神国の神々
神殿を建てる目的は様々あるが、五神国の四季国に関しては
礼拝対象との対話することを目的として建造された。と古い文献に残っている。
五神との対話。大昔にはそれも可能で日常的に行われていたらしい。
白い大理石でできた八本の大きな柱からなる正面の入り口。
その上には大きな三角の屋根が乗せられている。
その奥に真っ直ぐな屋根のない回廊が続きドーム型の建物の礼拝堂へ続いている。
礼拝堂の奥には護身の神々の彫刻が鎮座しその前に祭壇がありそこで祈りを捧げられるようになっていた。
五神はそれぞれ姿が異なり、竜の形をしたもの人の形や鳥の形をしたものなどだった。
こんなものが…本当に昔実在したのだろうか…。
でも数が4体しかない。どうしてだろう?
見れば見るほど現実離れしているそれは、神の声が聞こえなくなった今となっては確かめようがなかった。
「本日は遠いところお越しいただきありがとうございます。大司祭の蓮銀と申します」
「こちらこそ。今日はよろしくお願いします」
この神殿の取りまとめ役の大司祭の蓮銀に挨拶をしたわたし達。
物腰柔らかく柔和な印象の男性で、白髪交じりの黒い髪に綺麗な黄緑色の瞳をしていた。
年齢は…60歳くらいかしら?
わたしは挨拶をかわしながらそんな事を考えていた。
「最近ではめっきり礼拝に来られる方も少なくなり…とても寂しく感じていたんです」
「少しお伺いしておりました。昔は神様とお話できたんですよね?」
「はい。正確には巫女姫様を通しての対話だったと聞いております」
「巫女姫様?」
「ええ。神力を持った女性だけが巫女姫様となり、神の代理として人々に声を届けていたそうです。随分と昔になりますが…」
「もう…巫女姫様はいないんですか?」
「はい。私の曾祖母のそのまた祖母の代で途切れたと伺っております」
「そうなんですか…」
説明してくれる蓮銀はとても寂しそうだった。
巫女姫様がいなくなってから神殿に来る人は年々減り
今となっては関係者しか参拝しないくらい少ないらしい。
わたしも結婚式を四季国であげるまでは全く関心がなかったもんね…。
「ですので…今回ここで挙式を上げて頂けると聞いてとても嬉しゅうございました…。またここを知ってもらえるきっかけになればと考えております」
「多くの人に知ってもらえるようわたしも出来る限りのことを致しますね」
「ありがとうございます…怜彬様。では…こちらへ。応接室へご案内いたします」
礼拝堂で祈りをささげた後、わたしと虹禀殿は応接室へ案内された。
応接室と言ってもお城にあるような大きな部屋ではなく
小さなテーブルに4人が座れるくらいのこじんまりとした部屋で簡素なものだった。
蓮銀にお茶を出してもらい、打ち合わせを始めた。
「神殿で行うのは挙式のみです。参列者はそんなに多くならないと思います」
「そうですか。ふふふ…」
「どうされたんですか?」
「失礼いたしました。…このような華やかな事は本当に久しぶりで…またここに人が集まると思うと嬉しくてつい…」
「きっと神様も喜んでくれますね」
「ええ。お喜びになるに違いありません」
蓮銀は本当に嬉しいんだろうな…。
目頭に皺を寄せながらとても嬉しそうな表情をしている。
ここに人が訪れることはめったになく、毎日祈りを捧げては寂しい思いをしていたそうだ。
わたしと雷覇の結婚をすることで少しでも役に立てるなら
ここでやる意味も大いにあるだろう…。
もしかして…雷覇はそんな意図も含んで、ここでするっていったのかしら?
うーん…思い付きなような気もするけど…。
蓮銀はこちらの好きなように使ってくれた構わないと言ってくれたため
当日の進行や飾りつけの説明をして打ち合わせは2時間ほどで終わってしまった。
わたしは虹禀殿を待っている間、もう一度礼拝堂へ行った。
五神の神様をじっくり見るためだった。
「立派な彫刻ね…」
彫刻を見上げながらわたしは感心していた。
向かって右から鳥の形をしたもの、人の形をしたもの、竜のもの、その次が鳥。
もう一つは…なんの彫刻なのかしら?
「一番左は…牡鹿の彫刻ですよ」
「蓮銀…」
振り返るとニコニコした蓮銀が立っていた。
「あれは牡鹿なんですね…。牛なのかそうじゃないのか分かりませんでした」
「ハハハ。でしょうね。一目見ただけでは分からないでしょう…牡鹿は夏陽国を作ったとされている神様です」
「そうなんですか…」
「右から秋唐国、春魏国、四季国、夏陽国の順番で並んでおります」
「わたしの国は鳥の形をした神様だったんですね」
「ええ。宝石の好きなそれはそれは輝かしい鳥だったと聞いております」
「だから宝石が沢山採れるんですね。面白いな~」
「興味を持っていただけて嬉しい限りでございます」
「ほかの神様はどんな特徴があったんですか?」
わたしは興味が出てきたので尋ねてみた。
蓮銀は快く神様の説明してくれた。
春魏国の人の形をした神様は、美しいもの華やかな事が
大好きな男の神様で、沢山着飾ってはよく人に披露していたそうだ。
真ん中の竜の神、四季国の神様は気まぐれで気分屋。
しかも若い女性が大好きなためよく人里に降りてきては女性と話をしたそうだ。
夏陽国の神様は戦を好み強い物こそが素晴らしいという考えの持ち主。
毎日誰かに勝負を挑んでは、強い人を求めて各国を転々としていたそうだ。
ただ冬羽国の神様は人見知りで滅多に姿を現すこともなく
彫刻にされることをとても嫌ったそうだ。
今でもどんな姿だったのかは誰も知らないのだそうだ。
だから…冬羽国の彫刻だけは飾られておらず4体だけしかなかったのか。
まるで最初の頃の冬條殿みたいね…。
五神国の神様は皆それぞれ個性的だがとても仲が良く
いつも一緒に過ごしてはお祭りのようなにぎやかさだったそうだ。
その為、五神国どうしで争う事を極端に嫌い
常に互いを尊重し助け合う事を説いていたそうだった。
その教えは今でもわたし達の間で根強く残っている。
帰ったらみんなに教えてあげよう!
自分の国の成り立ちを知ることはとても意味のある事だもの!
「知れば知るほど面白いですね~」
「そうですね…。神と言っても人間の様な親しみやすい存在だったようです」
「ほんとですね。今あったらきっと仲良くなれそうですもの」
「ハハハ。怜彬様は本当に面白ことを仰いますね」
蓮銀に大笑いされてしまった…。
そんなに面白いことを言ったかしら?わたし…。
でも、笑顔になってくれて良かったな。最初会ったときは元気がなさそうだったもの。
一通り説明を聞いたところで虹禀殿が戻ってきた。
が…。その光景を見てわたしは思わず息を飲んでしまった。
「虹禀様…。もうお帰りになるのですか?」
「虹禀様、こちらの果物はとても美味しいのですぜひ!」
「虹禀様!」
虹禀殿は沢山の男性に囲まれて逆ハーレム状態だった。
しかもどの男性も若くて綺麗な顔立ちの人ばかりだった。
凄い…。さすが魔性の麗人の異名を持つ虹禀殿…。
ここにきてもモテモテなのね…。
「ふふふ…皆さんどうも御親切にありがとう…でももう行かないと」
「そんなっ!!」
「また遊びに来させてもらうわね~♡ふふふ…」
「はい!お待ちしております。虹禀様」
皆顔が恋する乙女みたいになってる…。もうメロメロって感じ。
こんな短時間でどうやったらあんなに魅了することが出来るのかしら?
「お待たせしてごめんなさいね。怜彬ちゃん♡」
「いえ…。今お話しが終わったところです」
「虹禀様は本当にどこでもその魅力を発揮されるんですね」
「そんな事ないですわ~。皆さんが親切なだけです♡」
そんな事ありますよ~!虹禀殿。
蠱惑的な笑顔をを浮かべながら蓮銀と話をする虹禀殿。
蓮銀は…どうやら惑わされてはいないようだった。
すごい!蓮銀!!
「では結婚式の3日前に準備のためお伺いしますのでよろしくお願いします」
「畏まりました。怜彬様…またお会いできることを、楽しみにお待ちしております」
「はい!ではまた…」
蓮銀に別れを告げて、わたしと虹珠殿は神殿を後にした。
帰る際には多くの男性が泣きながら虹禀殿を見送っていた。
まるで熱狂的な信者のようだった。ちょっと怖い…。
虹禀殿の恐ろしい魅力を見せつけられながらわたしは四季国を後にした。
「怜彬ちゃん♡付き合ってくれてありがとうね」
「こちらこそ一緒に来れて楽しかったです」
「ふふふ…良かった~♡ちょっと前の怜彬ちゃん、なんだか結婚に対して浮かない顔してたから」
「あ…」
虹禀殿は気が付いていたんだ…。
わたしがこのまま結婚していいのか迷っていた事。
どこか他人事のように感じていて不安に思っていた事。
「怜彬ちゃん自身が参加してないから、蚊帳の外って感じてたんじゃないかって…虹珠が全部やりたがってしまっていたから気になって…」
「実は…ちょっと他人事のように感じてたんです…」
「そうよね…。ごめんなさいね。私達が出しゃばったから…」
「あの!それは気にしてないです。むしろあり難いっていうか…。ただ今までわたしは結婚に対していい印象を持ってなかったので…」
「そうだったのね…」
「だからこの前倒れたのも思いつめていたことが原因だと思うんです…もっと早く雷覇に話せていたら良かったんですけど…」
「中々…悩みなんて人に言えないわよね…。私も苦手だもの」
ペロッと舌を出して可愛い仕草をする虹禀殿。
わたしは思わずきゅんとしてしまった。
「虹禀殿でも苦手に感じるんですね」
「あるわよ~。だって悩みを相談するって事は自分んことをさらけださないといけないでしょ?今でも抵抗感じるもの~」
「そっか…。わたしだけじゃないんですね…」
「そうよ!怜彬ちゃんだけじゃないわ。誰でも思う事だし、悪い事ではないと思うの」
「そうなんですか?」
「だって誰にも相談しないって事は自分と向き合って答えを自分で出そうとすることでしょ?それの方が私は難しいと思うの」
「…」
「自分と向き合うって出来てるようで中々できないし…。人に話してしまった方が楽だもの」
「そんな…考え方もあるんですね。思いもつかなかったです」
「ふふふ…だてに歳は取ってないわよ~♡」
ポンポンと優しく頭を撫でてもらって思わず泣きそうになった。
わたし…。この人達と家族になれるんだ…。
それに雷覇や皆とも…。そう考えたときにサイガの顔が浮かんだ。
…そうだ!春魏国の温泉旅館の予約できないか聞くんだった!!
病気やらなんやらですっかり忘れてた!
「虹禀殿!ちょっと…お願いがあるんですけど」
「なぁに?怜琳ちゃん♡」
「サイガとリンリンに旅行をプレゼントしようと思ってまして、以前四人でいった春魏国の温泉旅館に泊まることはできないですか?」
「そんなのお安い御用よ~。早速手配するよう手紙を出すわね♡」
「ありがとうございます!虹禀殿」
「ふふふ。怜琳ちゃんに頼み事されるなんて嬉しいわ~。帰ったら自慢しなくっちゃ♡」
自慢されるようなことではないと思うけど…。
けど、サイガとリンリンにプレゼントできそうで良かった。
そんな事を考えながらわたしは馬車に揺られながら窓の外を眺めていた。
最後までお読みいただきありがとうございます( *´艸`)
ブックマークしてくださった方ありがとうございます!!
ちょっとでもいいなと思ったら、
広告の下の☆☆にぽちりしていただけると嬉しいです(#^.^#)
感想・ご意見お待ちしております!(^^)!
【桜色ノスタルジー】スタートしました♡こちらもお楽しみいただければ幸いです!!
⇒ https://ncode.syosetu.com/n7006go/