15.夏陽国滞在~向き合ってみる~
「んっ…はっ……んん…」
怜琳は雷覇に何度も深く唇を重ねられる。両手は塞がれているから抵抗できない。
最初は驚いて何が起きたからわからなかったけど、だんだん状況がよみこめてきた。
こんなに…。わたしのこと好きだったの…。
いつも熱列過ぎて伝わらない。半分冗談じゃないのか?って思ってた。
でも、雷覇がいくら本気でわたしを好きだからと言っても、応えられるはずがない・・・・・。
「ら…いは、はぁ…待って…」
「待てない‥‥」
「ぁっ、んっ…!」
やっと塞がっていた唇があいたと思ったらまた、深い口づけが降りてきた。
彼の顔はとても切羽つまっていて、泣きそうな顔をしていた。
それもそうだ。どんなにわたしを想ってくれていてもわたしは、彼を好きにならない…。
なれない…。
想いが届かない…。それが一番つらい。わたしが一番良くわかってる…。
わたしはそれを彼に対してしてたの…?
今になって自分が彼に対してどんなにひどい事をしていたのか自覚した。
彼の気持ちをずっと踏みにじってた。…。わたし…最低だ。
そう気がついた途端、急に情けなくなってきた。自分の気持ちばかり考えて、相手の事も考えず無視してた。
どんな気持ちで雷覇はわたしに伝えてくれてたの?
自分のかなわない想いと、彼のかなわない想いが重なってぐちゃぐちゃになる…。
気がついたらわたしは泣いていた。
「っ‥‥!!怜琳、すまない!俺…」
「ちが…うの。ちが…。ふぅ…。ごめんさい…らいはごめんなさい…」
わたしが泣いている事に気がついたのか、慌てた様子で雷覇が一度体を離す。
そのまま抱きかかえられて、前とおなじように抱きしめられて頭を撫でられた。
わたしがもっと早く伝えてたら、彼をこんなふうに追い詰めなかった…。
彼はわたしが本当に嫌がることは絶対しない…。
甘えてたんだ、雷覇に…。
「なんで怜琳が謝る?悪いのは俺だ…。すまない。君の気持ちも考えず無理やりなことをした」
「ち…がうの…。らい…ははわるく…ない」
涙が止まらない。ちゃんと伝えたいのに、息が上がって言葉が出ない。
過呼吸になりそうだった。ポロポロと次から次へと涙が溢れてくる。止まらない。
その間も雷覇は何も言わず背中をさすってくれてる。
雷覇に抱きかかえられながら、なんか最近こんなのばっかりだなとぼんやり思った。
「らいは…。わたし…忘れ…られないの」
「‥‥」
「もうずっと…。4年前から…ずっと…」
息を整えながら話す。雷覇は何も言わずに黙って聞いてくれている。
「まだ…好きなの…。彼が…」
雷覇の服をぎゅっと握りしめる。
もうずっと、心の中に押し込めて隠してた。見ないフリしてた。
忘れたいのに…。忘れられない…。
「知っている…。怜彬があいつをずっと好きなのは…」
「そ…んな。いつから?」
「手紙のやり取りから何となく察してはいた。確信を持てたのは4年ぶりに会った時だが…」
彼がわたしの涙を拭いながら話す。そんな前から気が付いてたの…?
こんな時も彼は優しい。わたしを心配して気遣ってくれているのがよくわかる。
「わたし…」
「もう泣くな怜彬。君に泣かれたらどうしたらいいか分からなくなる」
涙を拭うように目元に口づけされた。頬にも。
わたしに触れる彼はとてもあたたかく、優しかった。
「ここは冷える。ひとまず中へ入ろう」
「う・・ん」
そういうと彼はわたしを横抱きにして歩き出した。
おろしてって言おうとしたけど、泣きすぎて疲れてなにも言えなかった…。
もしかしたらわたしは彼から離れたくなかったのかもしれない。
縋ってるわ・・・。こんな時も優しい彼を利用してる。
辛いから。寂しいから。誰でもいい傍にいてほしい。
わたしってこんなに卑怯な女だっけ?ずるかったっけ?
今は彼の執務室にいる。部屋の真ん中にある、二人掛けのソファにおろされる。
「何か温かい飲み物でも持ってこさせよう。ちょっとここで待ってて」
「うん…」
おでこに口づけて彼は部屋を出ていってしまった。
ぐす…。
鼻をすすりすぎて、あたまがいたい…。こんなに泣いたのは久しぶりだ…。
もう泣かないと思ってたのに…。
頭にある簪を手に取って眺める。
真っ赤な花で、ガラス細工の花びらが何枚も重なっている。
彼が唯一わたしに残してくれたもの…。捨てられるはずがなかった。
「怜彬。温かいミルクだ。飲めるか?」
「うん…。ありがとう…」
持っていた簪を膝に置いて、彼からコップを受け取とる。一口飲んだ。ちょうどいい温かさだった。
「あまい…」
「こういう時は甘いものが一番だからな」
ミルクの優しい甘さが体に染みる。とても美味しかった。
「少しは落ち着いたか?」
「うん」
わたしの横に座って、優しく背中を撫でてくれる。
「怜彬が話したくないなら、俺は何も聞かないし何も言わない。心の準備ができたら話してくれたらいい」
「そん…な。いつに…なるかわからない…よ?」
「いつになっても構わない。ずっと待ってる…。だから、怜彬も俺から逃げないで向き合ってほしい」
雷覇に両手をぎゅっと握られる。
「それに、どうしたって俺は怜彬が好きなんだ…」
くしゃっと雷覇が笑う。少年みたいに見えた。こんな風にも笑うんだ…。
「わかった…。ちゃんと心の準備ができたら話す…らいはとも向き合う…」
「ああ。ありがとう。怜彬…。嬉しいよ」
手の甲に唇をおとして口づけをする。
なんか…。
今さらだけど…。すごく大切にされてたんだな…。わたし…。
だったらきちんと彼と向き合うべきたと思った。
彼のことをどう思っているのかは、今はわからない。
嫌い…。ではないと思う。
今も手を握られて嫌じゃないし…。
不快に感じないってことは、多少なりとも彼に対して好意はあるのだと思う。
けっこう今まで彼の、甘々攻撃のフィルターがかかっていて、彼の態度や仕草に目が行かなかった。
まぁ、あんなにアピールされたら無理もないと思うけど…。
今も彼は優しい目でわたしを見つめてくる。彼の金色の瞳をじっとみる。
もう怖くはなかった。
きちんと雷覇殿と向き合う。それはいいのよ!
でも…。だ!!!これはあんまりじゃないかしら?
今、わたしは絶賛、彼の膝の上で座ってご飯を食べている。
しかも、「はい、あーん」とか言われながら…。どんな拷問だよ!!!
周りにお世話をしてくれる人もいる。リンリンもいるのに、公開処刑だ!!!
うわーん。以前にもまして甘々攻撃の威力と精度が上がってるよ~(泣)
でも、このお肉美味しいな…。
ってちがーう!!
「雷覇殿、そろそろ降ろしてください」
「何だ?もうお腹いっぱいか?」
「自分で食べれますから…」
「俺が好きでやってるんだ、怜彬は気にしなくていい」
「気にしますよ!!恥ずかしい!!」
「ハハハ。ほらこの野菜もおいしいぞ。今朝のとれたてだそうだ」
と言われて、野菜を口に運ばれる。うぅ…。
これもおいしいぞ!!ちくしょう!!
「今日は、マダムベリーが作ってくれた服をきて街へ行ってみないか?」
「もぐもぐ…。街…ですか?」
「ああ!デートだ!!」
「っ…!?でえと?」
「そうだ。街を散策してお昼を食べて…。怜彬に欲しいものがあるなら、買い物をしながらでもいい」
「ほんと?買い物…してもいいの?」
デートって言われるとなんか…。
ものすっっごくこっぱずかしいけど。街に行って買い物できるのは嬉しい!!
怜秋にお土産を買おう!!
何を買おうかな…?
「…。怜彬…今、怜秋殿の事を考えているだろ?」
若干キレ気味の、雷覇殿に突っ込まれる。
ぐふぅ!!なんでわかるの?怜秋センサーでもついてるの!!!
「か…考えてない!!」、
「嘘だ。考えてる。怜彬の顔を見ればわかる!!」
拗ねてる‥‥。めっちゃ拗ねてる。また雷覇殿が犬に見えてきた。
「ごめんね…。だからもう拗ねないで…ね?」
そう言ってわたしは、雷覇殿の頭を撫でた。
うわ~。すっごい髪の毛サラサラ!!
何を使えばこんなにキラキラのサラサラの髪になるのかしら…。
「っ…!?怜彬…それはわざとやってるのか?」
「えっ?なにを?」
わたしは、まだなでなでしている。
ああ。サラサラの長毛の犬ってこんな感じの手触りなのかしら…。
やっぱり、動物はいいわよね!!癒し!!
サイガのモフモフも触らせて貰いたいなー!!
今度、雷覇殿がいない時にこっそりモフモフさせてもらおう!!
やっと雷覇殿の膝抱っこから解放されて、わたしは街へ向かう支度をしていた。
今日着ていくマダムベリー作の服は、デザインは雷覇殿が普段から着ているものと同じ。
肩から手先にかけてだけ肌が透けて見える、半透明の生地でできている。
手首のところがきゅっと絞られていて、女の子らしいデザインになってる。
生地の色は淡いピンク色で、首から方にかけて蝶々の刺繍が施されていて、とてもかわいい。
何より布面積が一番多いのがこの服だ!!
他はとてもじゃないけど、街中で着れるようなものじゃない!!!
普段からも着れないけど…。
髪型は簡単にアップにしてもらった。
準備が整って玄関へ向かうと雷覇殿が待っていた。
「よく似合ってる。とってもかわいいよ。怜彬」
そういいながら、ほっぺに口づけされる。うーん。
もう恒例行事みたいに思うしかないな!!これは。
「ありがとうございます」
「さぁ。街へ行こう」
「はい!!楽しみです!!」
わたしはワクワクしながら、街へ向かうのだった!
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