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176.掌の砂

人ってストレスをためると熱が出るそうです(;_;)

ストレス性高体温症。と言うそうです。

怜彬れいりんが倒れたという知らせが入ってきたのはその日の夕方だった。

青天の霹靂だった。

俺は頭に雷が落ちたくらいの衝撃を受けた感覚を覚えてる。


「どうして…」


そんな疑問を打ち消し、すぐさま彼女の元へ向かった。

ベットで眠る怜彬れいりんは青白い顔をしてひどく苦しそうにしていた。


「リンリン…何があったんだ?」


「それが…マッサージをして眠っている時にうなされていまして…一度目を覚ましたのですが、その後あっという間に意識を失ってしまいました」


少し声を震わせながらも淡々と冷静に状況説明をするリンリン。

彼女は有能だ。

主が倒れてしまっていても冷静を欠くことなく己の役割を全うしている。


「お医者様の見立てでは急激なストレスによる発熱だと…」


「急激なストレス…」


彼女の手を握り締めながら怜彬れいりんの頬を撫でた。

浅い呼吸を何度も繰り返している。高熱のせいで息がし辛いのだろう…。

思い当たる点は…一つしかない…。


俺との結婚だ-…。



雷覇らいは様…しばらく安静にしていれば薬が効いてくるはずです」


「そうか…。ありがとう、リンリン…少し怜彬れいりんと二人きりにしてくれるか?」


「畏まりました…」


軽くお辞儀をするとリンリンは静かに部屋を出て行った。

この部屋には俺と怜彬れいりんの二人きりだけになった。

俺は氷水で冷やしたタオルを絞り彼女の額にそっと置いた。


怜彬れいりん…すまない…」


そんなに…思いつめていたのだろうか?

俺のとの結婚を望んでいなかったのだろうか?

思い返せばここ数日はどこか上の空で、何か考え事をしていたような気がする…。

それに怜彬れいりんから何度も話がしたいと言われていた…。

それなのに、忙しさにかまけて先延ばしにしていた。


俺は今朝のやり取りを思い返した。




雷覇らいは!ちょっと話したいことがあるんだけれど…」


「すまない。怜彬れいりん…この後すぐに会議なんだ」


「そう。分かったわ…じゃあまた今度」


「ああ。落ち着いたら必ず時間を作るよ」


「うん…。行ってらっしゃい」


穏やかな笑顔で送りだしてくれた怜彬れいりん

思い返してみればどことなく元気がなさそうだった。

俺は…いつもそうだ。

どうしてもっと彼女の気持ちに寄り添ってやれない?

学んだはずなのに。

コミュニケーションがとても大切だと…。


「嬉しくて…浮かれてたんだ…やっと君と結婚できると…思って」


ずっとずっと想い続けてきた。

4年もの間片想いをして、1年もの間婚約者として過ごした。

その間何度も苦い思いを味わった。胸が焼け焦げるような…そんな思いを抱えていた。

そんな日々も、怜彬れいりんから好きだと言われたら瞬間全てが報われた。

天にも昇るような気持ちだった。


怜秋れいしゅう殿から姉を頼むと言われた時の…何とも言えない達成感は今でも忘れられない。

やっと…やっとだ。ようやくたどり着いた…。

そう思っていた。

これで何もかもうまくいく。

もう二人の間を邪魔するものは何もなくなる…。そう信じて疑わなかった。


「また…俺だけが先走ってしまったんだな…」


ただ…怜彬れいりんはそうじゃなかった。

俺との結婚に対して何かしらの不安や悩みを抱えていたのだろう。

それを打ち明けようとして、何度も話したいと伝えてくれていた。

その小さくて些細な彼女からの救援信号を俺は見逃した…。


怜彬れいりん…。すまない…。


俺は何度も心の中で彼女に懺悔した。

そしてその後すぐにムツリとサイガを呼んで結婚式を延期することを伝えた。


*-------------------------------------*


父はいつも違う女性の所へ行き…娘のわたしにはあまり会いに来てくれなかった…。

そのせいで母はいつも寂しそうだった。

毎日、庭から王宮へ続く道を眺めては父が来るのをずっと待っていた。

そんな母の願いは虚しく、父は母に会いに来ることはなかった。


母が亡くなってからは流石に私の事を可哀想だと思ったのだろう。

何度か会いに来てくれたのを覚えている。

何で…もっと早くに来てくれなかったのだろう。

どうして…母が生きている時に来てくれなかったのだろう。

父の顔を見るたびに子供心にいつもそう思っていた。


兄はとても穏やかな人で優しい人だった。

父がなくなった時はわたしの事をとても気にかけてくれていた。

怜秋れいしゅうが産まれてからも、仕事の合間を見計らっては会いに来てくれていた。

だけど父がなくなり、その後を継いであっという間にこの世を去ってしまった。


父も兄も…目の前を通り過ぎて行ってしまった。

もしかしたらわたしは運がないのかもしれない…。

幼いながらにそんな事を思っていた。


そんな思いも炎覇えんはと出会って一緒に過ごしているうちにどこかへ消えていった。

とても…幸せな日々だったから。

でもそれも長くは続かなかった。炎覇えんはもあっという間に私の前を通り過ぎてしまった。

その次も…その次も…。


みんなみんな…わたしを置いていく…通り過ぎていく。

手からこぼれ落ちる砂みたいに…あっけなく。

わたしの何がいけなかったのだろう。わたしに何が足りなかったのだろう。

考えても答えは出ない。

それから諦めるようになった。幸せを。

もう夢見るのはやめて、弟の事だけ考えて生きよう。

怜秋れいしゅうが幸せならそれでいい…。彼が笑ってくれるならわたしも幸せだ。

何も望まない。

そう心に決めていた…雷覇らいはと再会するまでは。


こんな事になるなら…あの時、徹底的に逃げておけばよかったな。

幸せだと思う気持ちが大きければ大きいほど、失うかもしれないという恐怖が追いかけてくる。

また…わたしの前を通り過ぎて行ってしまうんじゃないか…。

置いていかれてしまうんじゃないか…。


ああ…。幸せになりたいのに…幸せになる事が怖い。

寂しい…悲しい…苦しい。

わたしはそのままうずくまって涙を流し続けた。


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