152.勇気
アシュラ王子に連れてこられて一晩たった。
今の所わたしが何かされることはなかった。
食事も普通に貰えているし、見張り付きだがお風呂にも入れて貰えた。
待遇はとても丁寧だった。
ただ、見張り役の人に話しかけても全くの無視だったが…。
雷覇…。大丈夫かな?
わたしはぼんやり遠くにある窓を眺めた。
「あいつが…居なくなれば問題ないですね…」
そう言って、昨日出て行ったきりアシュラ王子はこちらに来ていない。
アシュラ王子が雷覇に何かしようとしているのは明らかだ。
どうにかして止めたいけどなすすべはない。
「はぁ…どうにかして出れたらな…」
昨日思いつく方法試してみたが今の所効果を感じない。
ずっとベットを引き摺っているけど動いたのはほんの数センチ…。
一晩動かし続けて昨日はそのまま寝てしまっていた。
わたしが閉じ込められている場所は高い位置にあるのか外からの音が聞こえない。
秋唐国の旅館で高さのある建物は全部で三つ。
そのうちのどれかにいることになる。
窓を開けれても外に出ることは難しい…。
この手錠をまずはどうにかしないと…。
ベットとわたしの手を鎖でつないである手錠を見た。
昨日、ベットを動かす時に力を込めたため食い込んでしまい血が出ている。
ちょっと痛いけど、今はそれどころじゃない。
「ああ…どうしたら…」
考え込んでベットに倒れ込んだ。
すると扉が開く音がしてわたしは、飛び起きた。
「怜彬…おねえさま…」
扉を開けたところにはシャチー王女が立っていた。
青ざめた顔をしてこちらを見ていた。
「シャチー!!」
「怜彬お姉様!」
泣きそうな顔でこちらに駆け寄ってくるシャチー王女。
わたしの姿を見てびっくりしたかもしれない。
「お姉様…どうして‥ここに…」
「それは…」
アシュラ王子の事を話そうか躊躇った。
彼が犯人だとしてれば彼女は傷つくだろう。
どうしよう…。
「アシュラ…お兄様ですね…」
「シャチー…」
「私には…行方不明って言っていたのに…」
「‥‥」
声を震わせ傷ついた表情で私を見つめるシャチー王女。
まさか自分の兄が誘拐しただなんて信じられないだろう。
わたしは、アシュラ王子が国に連れて帰ろうとしている事を伝た。
「怜彬お姉様…。待っていてください。すぐにお兄様を説得します」
「シャチー。それは難しいと思うわ…」
「でも…急がないと‥‥お兄様は明後日にでも帰るって言ってるんです…」
「そんな…」
「早くしないと‥‥」
「シャチー。落ち着いて。手錠の鍵はどこにあるか分かる?」
「分かりません…。でも探してきます!」
「ええ。お願い。シャチーだけが頼りなの」
「分かりました。お姉様待っていて!」
シャチー王女が勢いよく立ち上がって部屋を飛び出して行った。
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怜彬…お姉様があの部屋にいた…。
私はドキドキした胸を押さえながら走った。
「怜彬王女が何者かに誘拐されて行方不明なんだ…」
かくれんぼして隠れていたら迎えに来てくれた兄にそう告げられた。
涙が瞳からジワリと溢れてくる。
アシュラ王子が…嘘をつている!!!
今までそんな事一度もなかったのに…。
私はひとまず自分の部屋に行って鍵のありかを考えた。
混乱していて頭の中はぐちゃぐちゃだった。
昨日からする物音が気になって、物音のする部屋を開けてみたら
怜彬お姉様がいた。
しかも手錠でベットに繋がれて…。
異常な事態だった。私は嫌な考えがよぎった。
そしてそれは的中した。
アシュラお兄様が怜彬お姉様を攫ってきた…。
どうして…?アシュラお兄様‥‥。
「泣いちゃダメよ…。怜彬お姉様の鍵を探すの…」
私は涙を拭ってブローチを握り締めた。
怜彬お姉様がくれたブローチ…。
初めて私に優しくしてくれた人…。温かな太陽みたいな人…。
そして否定ばかりされ続けた人生だったけど、初めて私を好きだと言ってくれた人。
その人が兄の手により囚われている。
まるで物語のお姫様の様に。
今、怜彬お姉様を救えるのは私だけだわ…。
しっかりしなさい!シャチー!
私は勇気を振り絞って、頭をフル回転させた。
手錠の鍵は恐らくアシュラお兄様が持っている…。
その可能性が高い。それなら兄から鍵を手に入れることは難しいだろう。
だったら…どうしたら?
「雷覇国王なら…助け出してくれる」
ふと雷覇国王の顔が頭に浮かんだ。
そうだわ…。雷覇国王ならきっと…。
物語の雷覇国王はいつだって、怜彬王女救ってきた。
どんなに苦しくて、どんなに辛い場面でも決してあきらめない。
不屈の精神を持った強い人…。
私は大急ぎでマントをかぶって外に出る準備をした。
幸い私の世話係の侍女は食事をとりに行って傍にいない。
抜け出すなら今しかない。
「大丈夫…私ならやれるわ…」
手や体が震える。大丈夫。そう自分に何度も言い聞かせた。
自分の意志で何かをしようとするのは初めてだった。怖い…。
失敗したら‥‥怒られたら‥‥。
そんな考えが頭をよぎって足がすくむ。
手には汗がびっしょり滴っていた。
いつもアシュラお兄様が導いてくれていた。
私の手を引いて、何も考えなくていいように…。
でもその兄はとんでもない罪を犯している…。妹である私が何とかしないと…。
王宮からここに来るまでの道のりは馬車の窓から見たから覚えている。
記憶力には自信があった。歩いていけば夜までに王宮にたどり着けるかもしれなかった。
私はありったけの勇気を振り絞って扉のノブに手を掛けた。
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