150.執着
「ん‥‥」
まぶしい…。
わたしはぼんやりとした意識の中ゆっくりと瞼を開けた。
すると見たことのない天井が目に飛び込んできた。
ここはどこ…?
起き上がってあたりを見渡すと知らない場所で寝かされていた。
雷覇はどこだろう?
さっきまで一緒にいたはずなのに…。
「なに…これ…?」
見ると手には手錠がかけられていてベットに鎖で繋がれていた。
どうやらわたしはどこかに攫われてしまったらしい。
「嘘でしょ…」
思わず口に出して言ってしまった。
あんなに気を付けていたのにこんなに簡単に連れ去られてしまった。
確か昨日の夜、窓ガラスが割れて部屋が真っ暗になってそこから意識を失ったんだわ。
変な匂いがしたから多分、眠くなる煙だったのだろう。
恐らく雷覇も一緒に眠ってしまったためそのままここに連れてこられた。
きっとアシュラ王子が考え実行したことだろう。
「シャチーは大丈夫かしら…」
「シャチーなら問題ないですよ」
急に後ろから声がして振り返るとアシュラ王子が立っていた。
いつもと変わらない無機質な笑顔だった。
「アシュラ王子…」
「気分はどうですか?飲み物をもってきましたよ」
「ここはどこ?どうしてこんな事するの?」
「怜彬王女…落ち着いてください」
ゆったりとした動作でベットの横のテーブルに飲み物を置いて座るアシュラ王子。
彼は全く焦っている様子も動揺している様子もない。
「ここは秋唐国の城下街ですよ。それからシャチーは別の部屋にいます」
「城下街?」
良かった…。シャチー王女は無事だったんだ。
昨日いなくなったと聞いて心配していたから…。
「ええ。すぐにでもキーサ帝国に帰りたいですが、すぐに帰ると怪しまれるでしょ?」
「どうしてこんな事…」
「もちろん…あなたが欲しいからです」
アシュラ王子がわたしの顎をくいっと持ちあげて顔を近づけてきた。
嫌だ…。触られたくない…。咄嗟にそう思った。
でも手は繋がれていて動かない。顎を持ちあげる手は力が強く払いのけることもできない。
彼のアメトリンのような輝きを放つ瞳にじっと見つめられる。
「わたしが欲しいって…どういう事?」
「言葉のままですよ。怜彬王女をこのままキーサ帝国に連れて帰ります」
「何言っているの?そんなことしたら…」
「そして僕の妻にします」
「なっ…」
顎から手を離して、持ってきていたポットを手に持ちお水をグラスに注ぐ。
ニコニコしながらそれを私に差し出してくる。
わたしは受け取ってアシュラ王子を見つめた。
この人…。本気だわ。そう感じた。笑っているけど目が笑ってない。
獲物を逃がさないといった目をしていた。
「そう…。その目…」
「…」
「怜彬王女のその目が気に入った。芯が強くて決して媚びることのない意思を持った目…とても美しい…」
「わたしはあなたの妻になんかならない」
「妻にしますよ。そして五神国を手に入れる」
「そんな事したらどうなるか分かってるの?」
「ええ。恐らく戦争になるでしょうね…。きっと怒り狂ってるんだろうな~。雷覇国王は…」
クスクスと笑いながら、彼も持ってきていたグラスに水を注いで飲む。
今の状況を楽しんでいるように見えた。この人どうかしてる。
戦争にでもなったら…。この国の人達やキーサ帝国の人達が大勢傷つく。
国を導くべき王族が率先して、国民を傷つける行為は許容できなかった。
「夏陽国の密偵網を舐めないで。こんな事すぐにバレるわ」
「それはどうでしょう?まぁ…無理だと思いますけどね」
「悪いことは言わないわ。早くわたしを返して」
「それはできない。キーサ帝国にとってメリットしかないし…。何よりシャチーがあなたを気に入っている」
「だったら友好的にお付き合いすればいいでしょう?こんな犯罪を犯してまですることじゃないわ」
「そう…ですね…」
フッとアシュラ王子の表情が陰る。
いきなり温度が急降下して冷たい表情になる。
そうなると彼は本当に人形にしか見えない。
「こんなリスクを負ってまですることじゃない…。それは僕も十分理解してます」
「だったら…」
「でも感情が違うと言うんだ!怜彬王女が欲しい!どうしても自分のモノにしたい」
いきなり感情をあわらにしてアシュラ王子が叫んだ。
先ほどの表情とは違い、瞳はギラギラと燃えていた。
「そんな勝手なこと言わないで!あなた一人の問題じゃないのよ」
「こんな気持ちになったのは初めてだ…。それだけあなたは魅力的なんだ…」
そう言ってアシュラ王子がわたしの上に覆いかぶさりベットの上に押し倒されてしまった。
持っていたグラスがひっくり返り、自分に水を掛けてしまった。
雷覇‥‥!
わたしは心の中で強く叫んだ。
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気が付いたら、寝室のベットの上で寝かされていた。
意識を取り戻した俺は急いで起き上がり、怜彬の姿を探した。
「怜彬!!」
部屋のどこを探しても彼女はいない。
ドクリと心臓が大きく鼓動する。そして嫌な考えが頭をよぎる。
攫われた…。俺が傍にいながら…!!!
「クソッ!!!」
拳を握り締めて思い切り壁を叩いた。
俺が目を覚ましたことに気が付いたサイガが部屋に入ってきた。
「雷覇!目を覚ましたか」
「サイガ…怜彬はどこだ?現状はどうなっている?」
「落ち着け。昨日の夜お姫様が何者かに連れさられた。まだ見つかってない」
「犯人はアシュラ王子だろう…。あいつはどこだ?」
「今は滞在先の旅館にいるよ」
「そうか…。そう言えばシャチー王女は見つかったのか?」
「ああ。別の部屋の戸棚に隠れてた」
サイガの話によると、シャチー王女が目を覚まして部屋にいた時に
誰かが、怜彬達とかくれんぼして遊んでいるから隠れてくれと嘘をつき
シャチー王女がいなくなったと思わせた。
シャチー王女は言われた言葉をそのまま信じ隠れていたそうだ。
その状況をシャチー王女がいなくなったと勘違いした珀樹殿が慌てて俺たちに知らせ
動揺させてその隙に本命の怜彬を連れ去った。
これもアシュラ王子の計画だろう。
わざわざご丁寧に催眠効果のある煙を使って、俺を眠らせてその隙に怜彬を奪った…。
絶対に許さない。
必ず見つけ出して、怜彬を取り戻す。
俺は腸が煮えくり返る衝動を抑えながら、深呼吸した。
冷静になれ…。今…怒りのまま動いても何にもならない。
落ち着いて今の状況を把握しどうすることが最善か考えるんだ。
俺は呼吸を整えて自分を鎮めた。
ラカン殿との特訓の成果を改めて体感した。
あっという間、感情のうねりが収まり静かな波になった。
怜彬が攫われた時、アシュラ王子は祝いの席で
警備隊が扮した貴族と話をしていたらしい。完璧なアリバイだった。
まさか彼のアリバイをこちらが証明することになるとは…。
しかも、怜彬を心配するふりをして、滞在期間を延ばし
彼女の捜索に協力するとまで言っているそうだ。
してやられたというのが、今の現状だった。
「アシュラ王子がやったという証拠がない。だから捕まえることが出来なかった」
「なるほど…それなら、なんとしてでも怜彬を探し出す」
「ああ。今、夏陽国から連れて来た密偵網を総動員して探してる」
「わかった。怜秋殿の所に行こう」
俺は部屋を出てすぐに怜秋殿のところに向かった。
怜彬を探し出すなら彼と連携した方が良い。
ここは秋唐国だ。夏陽国の様に自由が利くわけではない。
それに、姉思いの彼の事だきっと必死に探しているに違ない。
怜彬…。無事でいてくれ。
俺は彼女の姿を思い浮かべながら祈った。
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