148.誕生祭~奉納の舞~
やっと更新できました(*^-^*)
遅くなり申し訳ございません。引き続きお楽しみいただければ幸いです(*^▽^*)
誕生祭二日目の朝。空は薄曇りで遠くの方は雨雲がどんよりと立ち込めていた。
わたし達は献上された収穫物を持って神殿へ向かう為、王宮の広場に集まった。
王宮から馬車で山の麓まで行き、そこからは徒歩で神殿を目指す。
「怜彬お姉様!」
「シャチーお早う!昨日はよく眠れた?」
「はい!」
元気よくこちらへ駆け寄ってきたシャチー王女。
今日も愛くるしい笑顔だった。
昨日上げたブローチを胸に着けてくれている。
わたしはシャチー王女の前に屈んだ。
「良かったわ。今日はお留守番宜しくね」
「はい…私も一緒に行きたかったですけど…」
「神殿までは物凄く遠いし道も険しいの。大きくなったら一緒に行きましょう?」
「はい!ここで待ってますね」
「ええ」
わたしはそっとシャチー王女の頭を撫でた。
本当に可愛いわ!
「すっかり怜彬王女に懐いてしまったね」
「アシュラ王子…」
「妹によくして頂きありがとうございます」
そう言ってスッとわたしの手を取って甲に口づけをするアシュラ王子。
あまりにも自然な動作だったので何の違和感も感じなかった。
おおう…。慣れてるって感じの手つきね…。
「アシュラ王子。気安く我が婚約者に触れるのはやめていただきたい」
「これは…失礼いたしました。キーサ帝国では一般的な行為なので…」
雷覇がわたしとアシュラ王子の間に割って入ってきた。
それをさらりとかわしてアシュラ王子は涼しい顔をしている。
「怜彬王女を大切にされてるんですね…。そんなお相手がいて羨ましい限りです」
「アシュラ王子なら、恋人の一人や二人くらいいるだろう?」
「ハハハ。僕はモテませんよ。雷覇国王と違ってね…」
「俺は怜彬一筋だが?」
うーん…何やらバチバチと火花が飛んでいる感じで睨みあう二人。
表情はとっても穏やかだが空気が重い…。
「それはそれは…あっ!怜彬王女」
「はい?」
「シャチーから聞きました。僕にまで贈り物頂きありがとうございます」
「いえ…。ほんの気持ちですから」
「とても気に入っています。特にこの…カフスボタンは…早速使ってます♪」
さらりと雷覇をかわしてアシュラ王子がまたわたしに近づいてきた。
この人は…怖いものしらずなのかしら?
雷覇があれほど威嚇しているにも関わらずニコニコしながら
わたしに話しかけてくる度胸は凄いと感心してしまった。
「そろそろ出発しましょう!今日は天気が崩れるかもしれません」
怜秋が集まっているメンバーに向かって声を掛けた。
今日は薄曇りで朝から湿気が立ち込めている。あと少しもしたら雨が降りそうだった。
神殿までの道のりは遠いしできれば雨が降る前に戻ってきたかった。
「ではまた。怜彬王女…後ほど」
「ええ。また後で…」
爽やかな笑顔で手を振りアシュラ王子が去っていった。
雷覇は今にも飛び掛かりそうなくらい、いきり立っている。
アシュラ王子はその様子を見て楽しんでいるようにも見えた。
わたし達はそれぞれ馬車に乗り込み山の麓を目指した。
麓までは馬車で1時間くらいだ。
わたしと雷覇、怜秋は一緒の馬車に乗り込み
アシュラ王子とその付添人、それからサイガは別の馬車で行くことになっている。
今の所まだアシュラ王子が何かしてくる様子はない。
昨日の夕食の席でも至って普通だった。
巧みな話術で笑いを誘い、様々な人に話しかけてはにこやかに過ごしていた。
シャチー王女から話を聞いていなければうっかり騙されてしまうとこだった。
「アシュラ王子は本当に外交が上手いですね」
「そうね…。とってもお話が上手な方ね」
わたしと怜秋は昨日のアシュラ王子の様子を振り返っていた。
「俺はああ言うヘラヘラした奴は嫌いだ」
「雷覇ってば…。子供みたいなこと言わないで」
「本当に雷覇殿って心が狭いですよね…」
「感じ方は人それぞれだろう?俺はアシュラ王子のような目が笑っていない奴は信じない」
さっきアシュラ王子がわたしに触れてきたのがよほど気に入らなかったのか
雷覇はすこぶる機嫌が悪かった。
でも…雷覇の言っていることも一理ある。
アシュラ王子の笑顔はどこか仮面をかぶっているみたいで無機質なのだ。
ただ受け答えや話す時の物腰は柔らかで威圧感がないため誰も疑わない。
アシュラ王子は好青年だということを。
まぁ…。シャチー王女の前では違うんだろうけど…。
でなければあんなに懐かない。兄の為に自分を犠牲にしようとは考えないだろう。
「そうだ。怜秋殿‥‥」
「なんですか?」
「これを…読んで欲しい」
「はぁ…。手紙…ですか」
雷覇がこの前したためていた手紙を出して、怜秋に手渡す。
今?って思ったけどそれは言わないでおこう…。
怜秋もきっと同じ気持ちなのだろう。ポカンとした顔で手紙を受け取っている。
「俺がいかに怜彬を大切に想っているか…愛しているかをしたためた」
「えっ…。ちょっとそれは…」
「遠慮せずに受け取ってくれ!俺の素直な気持ちを書いた」
「遠慮というか…あー…」
どう対処していいか分からず、怜秋が困った顔をしている。
わたしも傍で聞いていてちょっと恥ずかしい。
雷覇なりに一生懸命やっていることだから、反対はしないけど…。
「はぁ…わかりました。王宮に帰ったら読みます」
「ありがとう!怜秋殿」
雷覇は手紙を渡せて満足そうだった。
それにしても…。いったいどんな内容の手紙なのかしら。
あとでこっそり怜秋に教えて貰おう…。
そうこうしているうちに、山の麓までたどり着いたわたし達は身軽な格好に着替えて神殿を目指した。
神殿までの道のりは勾配の激しい山道をひたらすら登る。
「よし!では、怜彬。こっちへ…」
「どうしたの?」
おもむろに雷覇がわたしの前で背を向けて屈んだ。
「俺が抱えていくから。さぁ!乗ってくれ」
「えぇ!!いいわよ」
「遠慮せずに…ほら!」
「自分で歩けるから大丈夫よ」
雷覇がおんぶしてわたしを連れて行こうとする。
ちょっと待って!!!
いくら何でもそれは恥ずかしい!!怪我したわけでもないのに。
わたしの想いとは裏腹に雷覇はやる気満々だ。
「何かあっては危ない。俺がおぶさるから」
「雷覇…。わたしにとっては危なくないわ。毎年来てるもの」
「ダメだ。さぁ早く乗って!」
「でも…」
こんなに人がいる前でおんぶしてもらうのは恥ずかしすぎる!
「姉さん‥‥。時間がもったいなしおんぶしてもらったら?」
「怜秋~…」
今の雰囲気だとわたしが折れるしかない。
雷覇は梃子でも動かない勢いだ。
はぁ…。仕方ないな~。もう~。
「じゃあ…乗るね」
「ああ!」
わたしは雷覇の背中に身を寄せてまたがり首に手をまわした。
おんぶとか…。子供の時以来だわ…。
「はい!じゃあ出発しましょう!」
怜秋が声を掛けて、わたし達一行は神殿を目指すのだった。
ううう。まさかこんな形で登るとは!!
麓から神殿までは歩いて2時間ほど行ったところにある。
最初は人が歩いた後がある道がつづくが途中からは岩がゴロゴロしているような険しい道になる。
木々も生い茂っているためあまり日も差さず昼でも薄暗い。
小さい頃はこれが不気味で怖いと思ってたな~。
雷覇におぶさりながら、ぼんやりそんな事を思っていた。
「雷覇…疲れてない?大丈夫?」
「ああ。平気だ」
全く呼吸が乱れる様子もなく、しっかりとした足取りで前へ進んでいく。
本当に…。雷覇の体力は底なしだった。
昨日もその前の日も結構お酒を飲んでいるはずなのに‥‥。
桐生おじ様と勝負をした後、夜中までお酒を酌み交わしていたと聞いた。
王宮の一年分のお酒が無くなるのでは?と思われるくらいの勢いだった。
雷覇ってば、お酒も強いのね~。
「怜彬はどうだ。辛くないか?」
「ええ。わたしはお陰様で快適よ」
「ふっ…。そうか。なら良かった」
「本当に…雷覇は体力があるのね~」
「まぁ普段から鍛えているからな」
「雷覇は化け物並みの体力だからな!」
「うるさいぞ!サイガ」
わたしと雷覇が話しているとサイガが割り込んできた。
そう言うサイガも飄々とした様子で山道を登っている。
二人ともすごいな~。
1時間を過ぎたあたりで少し休憩することになった。
雷覇やサイガはピンピンしているが、他の人達はそうはいかない。
適度に休憩をとらないと帰りにも影響が出てくる。
わたしはもらった水を口に含んで雷覇の隣で座っていた。
膝の上に座らせようとしてきたからそこは全力で阻止した。
「神殿へ行ったらどうするんだ?」
「えーっと…。まずはお祈りをしてそこから、奉納の舞を舞うの」
「奉納の舞?」
「そうよ。神様にここにいるよって呼び掛けるための舞よ!」
「ほぉ…。秋唐国の祭りは独特だな」
「そうね。厳かな儀式として捉えているから、夏陽国のように賑やかではないわね」
五神国の中でも秋唐国のお祭りは
雷覇が言った通り独特だった。
春魏国の様に国をあげて盛大に開くものでもないし
夏陽国の様に国民と一体感を出して盛り上がるものでもない。
真面目で固い印象があるのが、秋唐国の誕生祭だ。
お祭りについてしばらく雷覇と話したあと、再びわたし達は神殿を目指して出発した。
神殿に近づくたびに気温がどんどん下がってきて肌寒い。
風が冷たく吹き鳥肌が立つほどだ。
でも雷覇の背中は広くて温かかった。
わたしを抱えていてもびくともしない。がっしりとして広い肩幅。
安心して体を預けられるほど安定感があった。
「俺は秋唐国のような張り詰めた空気の中のお祭りも好きだぞ」
「ありがとう…実はね。わたしも嫌いじゃないの。神殿まで来るのは億劫だけど…」
神殿で神様に捧げる奉納の舞を見るのが好きだったりする。
舞姫が一心不乱になり音楽に合わせながら舞を舞う。
初めて見た時は物凄く綺麗な動作に魅了された。
何の飾りもつけずシンプルな着物だけを身に着けて体だけで表現をする。
何とも言えない感動があった。
雷覇とそんな話をしているうちにあっという間に神殿までたどり着いた。
大きな太い木を柱にして四角くぐるりと囲んでその上に三角の屋根が乗っているシンプルなつくりだ。
床はヒノキの板でできていて水はけが良い。雨にぬれても腐らないようになっている。
神殿は壁がなくて吹き抜けで舞を奉納する間は吹きさらしになる。
わたし達は先にご祈祷をしてそこから奉納の儀を行った。
アシュラ王子を見るとわたし達にならって大人しく座っている。
わたしはホッと胸をなでおろした。よかった…。何事もなくて。
こんな山の中で何かをされたら大変なことになる。
どうか…。このまま何事もなく誕生祭を終えることが出来ますように…。
わたしは奉納の舞を見ながら神様に祈った。
音楽は笛と鈴の音、あとは太鼓のみのシンプルなものだ。
どっしりとした太鼓の音に伸びやかな笛の音が重なり、引き締めるように鈴の音が合わさる。
神殿の中央に舞姫が歩き進み一礼をして音楽に合わせて踊りだす。
その途端に神殿の空気ががらりと変わる。ピンと張り詰めた糸のような空気だった。
30分ほど舞を奉納したところで奉納の舞は無事に終わり、わたし達は下山の準備に取り掛かった。
「いや~。凄かったな!感動したよ」
「そうね!毎年見るけどやっぱりすごいと思うわ」
雷覇が興奮気味で感想を口にした。
よほど奉納の舞が気に入ったらしい。大絶賛だった。
「僕も感動しました。誕生祭とはすばらしい儀式なのですね」
わたしと雷覇が話しているとアシュラ王子が近づいてきた。
雷覇がスッとわたしの前に立って、アシュラ王子と壁を作るようにして立った。
「そうだな。秋唐国の伝統的な素晴らしい儀式だった」
「今日見に来れて良かった。とても浄化された気持ちになりました」
「そうか…。ならばこのまま大人しく自国へ帰る事だな」
「ハハハ。まるで僕が何かするかのように仰るんですね…雷覇国王…」
「どうとらえるかはそなた次第だ」
さっきとは違った意味で空気が張り詰めている。
二人の会話は聞いているだけでも胃がキリキリしてくる。
「さっ!二人とも…下山の準備ができたみたいだから行きましょう!」
わたしはこれ以上ピリピリしないうちに二人を離した方が良いと感じた。
雷覇の腕をとってその場から立ち去る。
アシュラ王子は何も言わずにわたし達を見つめていた。
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