140.誕生祭~備え~
久しぶりに「シュウ」を出せて楽しかったです。(*^▽^*)
「姉さん…ちょっといいかな?」
「どうぞ」
秋唐国へ来た次の日。神妙な顔押した怜秋がわたしの部屋にやってきた。
「どうしたの?深刻な顔をして…」
「ちょっと困ったことになっちゃって…」
「困ったこと?」
「前に言っていたキーサ帝国が貿易したいって言った話なんだけど…」
「聞いているわ。誕生祭が終わった後に面会するのよね?」
「うん…。それが、誕生祭をぜひ見てみたいって使者から連絡があったんだ」
「まぁ…こんな急に…」
「僕としても丁重に断りを入れたんだけど、どうしても参加したいって言ってるみたいなんだ…」
なるほど…。わたしが来たタイミングに合わせて向こうも面会を早めてきたかもしれない。
雷覇も水覇殿もキーサ帝国の目的はわたしにあるって言っていた。
誕生祭を見たいと言うのは建前で、本当の目的はわたしに会う事だろうと感じた。
「分かったわ。いずれにしても避けて通れないし…会いましょう!」
「ありがとう…姉さん…助かるよ」
「大丈夫よ。雷覇もいるし、水覇殿と対策は練ってきたから!」
「それは心強いな…」
「じゃあ、当日の動きを確認しましょう!」
わたしと怜秋で、当日どのようにキーサ帝国を迎え入れるか話し合った。
元々、秋唐国の誕生祭は夏陽国や春魏国のような大掛かりなお祭りではなく
王族と一部の貴族だけが参加し厳かに開催されるものだった。
一般の人達はそれぞれの自治区で開催している。国をあげてするというものではなかった。
「アシュラ王子の対応は基本的に怜秋と雷覇にお願いするわ」
「分かった」
「わたしはシャチー王女と話してみて、仲良くなれるか試してみる」
「シャチー王女が今回の鍵なんだよね?」
「そうよ!彼女のいう事をアシュラ王子は何でも聞くそうなの」
「なるほど…じゃあ同じ女性同士、姉さんが対応した方がいいかもしれないね」
「ええ。任せておいて!彼女が気に入りそうな品を沢山用意しておもてなしするわ」
「助かるよ。それなら珀樹殿に言ってくれれば手配できるようにしておくから」
「わかった。それなら彼女にも立ち会ってもらって、女の子同士のお茶会でもしてみるわ!」
「それならシャチー王女も楽しめるね」
ある程度方向性が決まったところで怜秋とは解散した。
わたしはそのまま、珀樹殿と当日の打ち合わせを行った。
いよいよ…キーサ帝国のアシュラ王子とシャチー王女に会うのね…。
侵略国家で今回の来訪の目的はわたし…。
どうなるか予想もできないけれどできる限りの準備はしよう!
珀樹殿との打ち合わせもスムーズに終わり、午後からは自由な時間ができた。
そうと決まれば…まずは…。
「お嬢様。準備はできております」
「ありがとう!リンリン」
「怜彬…何をする気だ?」
「ちょっと城下街へ行ってありったけの宝石を仕入れてくるわ」
「それなら俺も一緒にく!」
「いいわよ。雷覇も目立つから変装してね」
「わかった」
わたしはリンリンから手渡された返送道具を手にして『シュウ』になる準備をした。
わーい!久しぶりだな~。変装するの!!
仕事とは言えちょっと…いやかなりワクワクしてしまった。
「怜彬…本当に俺はこんな格好をするのか?」
愕然とした顔で雷覇に尋ねられた。
「当然よ!雷覇は普通にしてても目立つもの。それならもっと目立った方がいいわ」
「いや…しかしだな…」
「じゃあお留守番してる?」
「嫌だ!一緒に行く!」
「じゃあ、早く着替えて。リンリンよろしくね」
「承知いたしました。雷覇様…さぁこちらへ」
雷覇も以前に秋唐国へ来た時に顔が知られている。
一緒に歩くためには雷覇も変装してもらう方が都合が良かった。
ふふふ。どんな仕上がりになるのか楽しみだわ!
それから30分ほどして雷覇の準備が整った。
「いいじゃない!雷覇すっごく似合ってる」
「そうだろうか…」
「ええ。とっても綺麗な女性よ!」
「そこは褒められても嬉しくない…怜彬は可愛い男の子だな」
「でしょ?シュウという名前でよく街に出かけてたの」
さすができる侍女!リンリンね~。
雷覇の体格の良さをうまく生かした女装になっている。
髪の毛はそのままにキレイ目にメイクをして大きめの衣装をきて
体のラインが分からないようになっている。
遠目から見たらちょっと背の高い女性にしか見えない。
それにしても…。もともとイケメンとはいえ…雷覇ってば綺麗!!
これは男の人は好きになってしまうんじゃないかしら?
「さぁ!さっそく出かけましょう!」
「よし!行こう」
「お嬢様…指輪は外されませんと…」
「あ!そうだった」
わたしは慌てて雷覇から貰った指輪を外した。
危ない。危ない。
やっぱり。リンリンはよくわたしの事を見てくれてるな~。
リンリンににお礼を言ってわたしと雷覇は王宮の裏手から出て
徒歩で城下街へ向かった。うーん!久しぶりの街だ!
雷覇が来て、逃げ回っていた時以来だからほぼ1年ぶり?くらいだな~。
街のみんなは元気にしているかしら?
すると果物屋さんの店主が話しかけてくれた。
「おう!シュウじゃねぇか」
「よ!元気にしてたか?おっさん」
「元気も元気。お前さんは最近ぜんぜん見かけなくなって心配してたんだぜ?」
「ありがとうな!ちょと他国へいって商売してたんだ」
「はー!相変わらずの行動力だねー」
「誕生祭の準備は順調か?」
「問題ねぇよ。それにしても…ものすごいべっぴんさんを連れてるな!」
「俺の助手だ」
「お前さんの女じゃないのか?」
「言ってろ!」
たわいもない会話をして果物を数種類注文して果物屋さんを立ち去った。
ご主人…。相変わらず元気そうでよかった。
「すごいな…。怜彬の事を完全に男だと思ってるんだな」
「ふふふ。だてに男装して街にきてないわよ」
「年季が違うな。俺は話すとバレてしまうだろうからな…」
「声は変えれないものね!あの人はお店の前を通るたびに声を掛けてくれるいい人なの」
「おまけの果物もたくさんくれたしな!」
雷覇はもらったりんごを頬張って満足そうにしていた。
秋唐国で食べ歩きする女性はいないんだけど‥‥。まぁいっか…。
果物屋から10分ほど歩いたところにいつも通っている宝石店がある。
そこへ行ってシャチー王女が気に入りそうな品を仕入れるつもりだった。
「怜彬はいつから男装してるんだ?」
「うーん…兄が亡くなってからだから結構前かな」
「そんなときから…やっぱり怜彬は凄いな」
「最初はね…息抜きに王宮を抜け出したかったの」
「なるほどな…それで男装して街へ行っていたのか…」
「ええ。うちは夏陽国程、国民との距離が近くないから…」
普通に王女の恰好で行っても騒ぎになるだけだ。
必要な情報を得るための手段として男装を選んだ。
思いの外うまくいき、沢山の知り合いを城下街で作ることが出来た。
「いや…身分を伏せることで国民の本音が聞けていいかもしれん」
「雷覇…」
「俺もやってみたいが顔が知られ過ぎているからな…」
「なるほど~。そういう弊害もあるのね」
「そうだ。だから怜彬の方法はいいと思うぞ!」
「ふふふ。ありがとう。さっ着いたわよ!」
そうこう言っている間に大通りにある宝石店の前まで来ていた。
中に入って、店の店主を呼んでもらった。
「お久しぶりです。シュウ様」
「久しぶりだな。店主殿」
「今日はどういった品をご入用でしょうか?」
「かなり身分の高い人に渡す品を探してる。値段はいいから見繕ってくれないか」
「かしこまりました。それではこちらで掛けてお待ちくださいませ」
愛想のいい店主に案内されて個室に通された。
シュウとして買い物に来るときはいつも気前のいい商売人で通している。
特に何も詮索されず、いつもいい品を用意してくれるから助かっていた。
「こちらの品々が今年採掘された宝石で一番よいものでございます」
「いいな。どれも澄んでいて形もいい」
「ありがとうございます。お好きな物に加工も致しますが…いかがいたしましょうか?」
「そうだな…若い女の子が喜びそうな品にしてくれ」
「承知いたしました」
そう言って出された品を丁寧に運んで行った。彼に任せておけば安心だろう。
雷覇はさっきから興味津々でおみせのなかをウロウロしていた。
夏陽国とは違った雰囲気で珍しいかもしれなかった。
店主から数種類のデザインを提案された。
花形のブローチに、星形の髪飾りに簪。どれも若い女の子が気に入りそうなものばかりだった。
それらの品を誕生祭の前日に指定した場所へ届けてもらうよう指示した。
うん。うん。順調だね!
「そう言えば、今年の誕生祭にはキーサ帝国の方々も来られるんだとか」
おもむろに店主が話し始めた。
「そうらしいな。俺も聞いたことがある」
「何人かの帝国の方々がお店に来られまして…一通り商品を購入されていきました」
「何を買ったんだ?」
「あちらに展示している品々です」
店主が指さした方向には数々の装飾品が展示されていた。
ただどのデザインも大人向けのシンプルな物ばかりで
シャチー王女が購入したとは考えられなかった。
シャチー王女はかわいいデザインは好みじゃないのかしら?
水覇殿から貰った資料には、そういった記載はなかった。
お人形遊びや刺繍、読書。どちらかというと女の子らしい趣味が多かった。
うーん…。選んでもらったものだったら気に入って貰えないかも…。
「店主殿。申し訳ないがさっき頼んだデザインを少し変更したい」
「かしこまりました。どのように致しましょう?」
「半分はそのまま可愛らしいデザインで、もう半分は男性用のアクセサリーにしてくれ」
「承知いたしました」
そう言って店主は部屋を出て行った。
雷覇が不思議そうに尋ねてくる。
「何でデザインを変更したんだ?」
「うーん…。何となくなんだけど、シンプルなデザインを購入してたでしょう?」
「そうだな」
「もしかしたら、シャチー王女の分ではなくて、アシュラ王子の分じゃないかって思って」
「なるほど…それはあるかもしれないな」
「二人は仲のいい兄妹だって聞いていたし…」
「シャチー王女は兄が好きだと思ったんだな?」
「ええ。王女と仲良くなるならお兄様の事も考えてあげた方がいいと感じたの」
「それもそうだな」
「さっき話を聞けて良かったわ」
「そうだな!流石、怜彬だ」
話し終わったところで、店主が部屋に戻ってきて、変更したデザインを見せてくれた。
どれもシンプルなデザインで男性が身に着けてもおかしくないようなものばかりがセレクトされていた。
「ありがとう。店主殿。こちらで手配を頼む」
「承知いたしました。いつもありがとうございます。シュウ様」
「いや…。こちらもいい情報が聞けて良かった。また来るよ」
「はい。いつでもお待ちしております」
店の外まで見送ってもらって宝石店を後にした。
有益な情報を得ることができて良かった…。
その後も雷覇と一緒に城下街を見て回って情報を集めた。
様々な人に話を聞いていくと、どうもキーサ帝国の人達は【死神姫】について聞いて回っているようだった。
なんでそんな事が知りたいのかしら?
彼らの意図が全く分からないが、目的はわたしであることがはっきりとしたのだった。
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