【番外】雷覇《らいは》の日常
久しぶりの雷覇の番外編です(*^▽^*)
彼目線で書くのは毎回とても楽しいです!!皆さんにも楽しんでもらえると
うれし嬉しいです(^_-)-☆
午前5時。俺は右腕がしびれてくるの感じて目が覚める。まだ明け方で太陽が昇る前。
瞼を開けるとそこには、無防備な顔をして眠っている怜彬がいる。
静かに寝息を立てながら俺の腕の中で眠る彼女はまるで天使のようだった。
しっとりとしている長いまつ毛、小さくふくっくらとした唇にきめの細かい白い肌。
どれをとってみても、愛おしいとしか感じない。
左手でそっと怜彬の頬に触れ、唇に軽く口づけをする。
「ん‥‥」
起こしたかな?一瞬、ドキリと心臓が強く跳ねる。
少しピクリと瞼を震わせて俺の胸に顔を埋めてくる怜彬。
よかった…。まだ彼女の眠りは深いようだった。俺は優しく彼女の髪をなでる。
幸せだ…。そう感じながら俺はまた彼女を抱きしめながらもう一度眠りにつく。
これが毎日の習慣だった。
朝、怜彬より少し早く目を覚まし彼女の寝顔をみてから朝日で眩しくなるまで二度寝する。
甘く柔らかい繭に包まれているような幸福感にひたる。俺の一番好きな時間だった。
何処へ出かけても、何をしていても怜彬と一緒なら楽しいし笑っていられる。
でも、朝方薄暗い部屋で俺の腕の中で眠っている怜彬を見るこの瞬間がたまらく好きだった。
右腕の痺れも怜彬が俺の傍にいる証だ。
最初は寝苦しいと感じたこともあったが、今となっては習慣になっているため全然平気だった。
むしろ右腕に重みがないと眠れない。落ち着かないのだ。
以前の自分なら考えられない事だった。誰かが傍にいる事自体煩わしいと感じていた。
特に戦が終わった後は気が立っているため誰とも話す気になれないし、誰も近づこうとしてこない。
独特な興奮状態にあり感覚も鋭くなっている為、俺は静まるまでひたすら部屋で一人過ごしていた。
それが今では…だ。一人ではとても眠れないし、右腕の痺れさえ愛おしく感じる始末だ。
弱くなったものだと感じる。いや…。人らしく変わったと言った方が正しいかもしれない。
母を亡くし、心の中にポッカリ開いた穴を埋めるために必死になって剣術に打ち込んできた。
どれだけ剣を振ってもその穴は埋まることなくずっと俺の中にあった。
それが寂しいという感情だと俺は知らなかった。欠けている何かを埋めるためにひたすら走り続けた。
それが孤独だという事を知ったのは怜彬を好きになってからだった。
初めて彼女を好きになった瞬間から、世界は色付きはじめ俺の中で別の感情が生まれた。
温かく柔らかく、まるで木漏れ日の中で寝ているような安堵感。
怜彬を想う度、怜彬を見るたびにどんどん大きくなる。
いつしかそれは…俺の胸の中の穴を覆いつくすほどになっていた。
この感情は何というのだろう?いまだに答えは見つかっていない。
でも、見つからなくてもいいと思っている。怜彬が傍にいればそれだけで満たされるのだから…。
ー…それと同時に新しい悩みも出来た。
怜彬の全てを自分のモノにしたいという欲望だ。
困ったことに、彼女が俺を好きだと言ってからはとくにその傾向が強くなっている。
怜彬は、弟と一緒にいる時間が長かったからだろうか?気軽に俺に抱き着いてくる。
俺がこんな感情をもっているとは、露程もしらないのに…。無防備にもほどがある。
男を知らなさすぎるとでもいうべきか…。
怜彬は細身だが決してガリガリというわけではない。つくべきところにはちゃんとついている。
彼女の胸は布越しでも分かるほど大きいのだ。恐らく怜彬はその自覚がない。
笑顔で抱き着いてくるたびに、彼女のふくらみを感じ彼女を押し倒してしまいたいという激しい衝動にかられる。
が、ラカン殿との特訓のおかげで何とか持ちこたえていた。
結婚前の女性と体の関係を持つことは、女性の地位を貶め辱める事だと教わってきた。
夏陽国は女性を敬う傾向が特に強い。子を産むことのできる女性を神とするくらい扱いが丁寧なのだ。
その事をラカン殿に話したらとても興味深いと言われた。
秋唐国では女性の立場や権利は非常に弱く、男性がいないと生きていけないようなシステムになっているそうだ。
もちろん幸せに暮らしている夫婦もいる。ラカンのご両親がそうだと言っていた。
だが、怜彬や怜秋殿の母親たちは違った。彼女たちは王の気まぐれで見染められ
子供をもうけた。夫婦の愛情などは殆どと言っていいほどなかったそうだ。
だからと言って、怜彬達を無下に扱うことなく王女として大切に育てられてきた。それだけが救いだったと言っていた。
同じ神を祖とする五神国。それでも国が違えばここまで文化が違うのか…。
ラカン殿から聞く秋唐国の話はとてもショッキングな内容だった。
「それでも、怜彬様は真っ直ぐ健やかに育ってくれました」
「そうだな…。過酷な環境であれほどまでに屈託なく育ったのはラカン殿が傍にいたからだろうな…」
「私のできる限り持っているもの全てを懸けて守ってまいりましたから…」
「そういう意味ではラカン殿には頭が上がらないな」
「私は怜彬様の父親の役割も担ってきましたから」
「なるほど…父親か…」
「怜彬様を大切に想う気持ちでは、年季の入り方が違いますよ」
穏やかに微笑みながらこちらを見てくるラカン殿。
彼は本当に優秀だ。陰ながら怜彬を支え、一歩も二歩を先を読んで立ち回る。
どんな時でも何が起きても決して己を見失わず、冷静に対処することができる人物だった。
「さ!お話はこれくらいにして、続きをしましょう!」
「ああ。頼む」
俺は地べたに座り足を組んで姿勢を正した。ラカン殿に教えて貰った、ザゼンというものだった。
目を閉じてゆっくりと息を吐き出し、その後の呼吸は自然にまかせる。これを2 、3回行う。
口を閉じて、静かに細く、長く息を吸い、下腹の辺りからゆっくり吐いていく。
頭の中を空っぽにして精神統一を行っていく。東の島国で行われている修行だそうだ。
いらない欲を捨て、己のみに集中する。簡単に聞こえるがこれがなかなか難しい。
集中力なら自信があったのだが、ラカン殿から教わるザゼンは手強かった。
「‥‥」
意識を呼吸をすることだけに集中させ余計な考えを取り払っていく。
しばらく無言が続いた。風の音、俺の心臓の音、ラカン殿が俺の後ろを歩く音しか聞こえない。
「あ…怜彬様」
ふいにラカン殿がポツリと呟いた。するとピクリとこめかみが震え目を開けてしまった。
その瞬間パシンと乾いた音が響く。ラカン殿が持っていた薄い木の板で肩を叩かれたのだ。
「雷覇様。集中できてませんよ」
「すまない…無意識で反応してしまった」
「今は無になる事に集中してください」
「わかった」
そうしてまた目を閉じて呼吸に意識を傾けていく。ひたすらこの繰り返しだった。
かなりきつかった。無になろうとすればするほど様々な考えが頭の中をよぎる。
ラカン殿にお願いして半年。座り方や呼吸法は身についてきたと感じたが意識を集中させることはまだできていない。
しかし全く効果がなかったか?と言われればそうでもない。
最近では怜彬に対する欲求もかなり受け流すことが出来るようになってきた。
衝動的に彼女に触れていた最初の頃に比べればかなりの進歩だと思う。
パシンとまた乾いた音が響く。
「雷覇様、今…怜彬様の事を考えていましたね?」
「ああ‥。すまん…考えていた」
「表情に出てたからすぐに分かりました。雷覇様は分かりやすい方ですね」
「そうなんだろうか?俺は無表情だと言われてきたが…」
「そんな事はありませんよ」
「そうなのか‥‥」
ラカン殿に言われてびっくりした。小さい頃からあまり感情を表に出さない子だと言われてきた。
だから俺は無表情なんだと勝手に思い込んでいたが、どうもそうじゃないらしい…。
特に怜彬の事となると分かりやすいくらい顔に出ているそうだ。
自分の欲をコントロールするのはまだまだ先になりそうだった。
「今日はこれくらいにしておきましょう」
「ありがとう。ラカン殿」
「では、また来週」
「ああ。宜しく頼む」
それだけ言葉を交わすと彼は静かに去って行った。
初めは機械のような人物かと思っていたが全く違った。
むしろ面倒見がよく、根気強い性格の持ち主だった。俺が何度失敗しても諦めず
気長に教えてくれている。本当に素晴らしい人だと思った。
なぜここまでしてくれるのか?と前に問うたことがあった。
「怜彬様が幸せになる為ならなんだってしますよ…」
にっこり微笑みながら答えてくれた。
彼の原動力は怜彬の幸せのためなのだ…。その為ならたとえ面倒だと思っていることでも
決して手を抜かず真摯に向き合ってくれる。やっていることが怜彬に知られることがないのに…だ。
それほどまでに怜彬を大事にしているのだろう。彼の覚悟の大きさを感じた。
だったら俺もそれ相応の結果を出さなくては!改めて気合の入る思いだった。
午前8時。ラカン殿とのザゼンが終わった後は、執務室に行って仕事をする。
怜彬がかなり仕事を効率化し、役割分担を明確にしてくれたおかげで
かなり捗るようになった。黒綾殿が一緒に手伝ってくれていることも大きい。
細かなところまで気が付き、先読みして大きなミスが起きないように事前に対処してくれている。
全体をよく見れている証拠だと思った。
そんな彼に支えられながら日々の業務をこなしていく。以前と比べると仕事が苦痛ではなくなった。
これも大きな進歩だった。昔の自分なら椅子に座り机に向き合っていること自体苦痛だったが
ラカン殿との修行のおかげもあってか、長時間座っていてもなとかこなせるようになっている。
今さらだが仕事は早めにやればやるほど、時間ができてくる。
時間ができれば怜彬と一緒に過ごす時間もそれだけ多くなる。
そうするとストレスもなくなり、また仕事に集中することができるようになる。
とてもいい循環だった。
お昼になれば怜彬と一緒に食事をとり、午後3時になったらいっしょにお茶をする。
要所要所で怜彬と過ごしていることもスムーズに仕事ができている要因だった。
黒綾殿はそれが分かっていて、意図的にスケジュールを組んでくれている。
本当によくできた子だと感心した。
以前は怜彬がスケジュール調整をしてくれていたが、後継者ができてからは
黒綾殿がその役割を担ってくれていた。
彼の気配りがあるから俺も気持ちよく仕事ができている。
あんな事があってからは関係がギクシャクするかとも思っていたが、彼は気持ちを切り替えてきた。
時々、怜彬を見かけるたびに複雑な顔をしているが
すぐに気持ちを立て直して凛とした表情に戻っている。心の強い人だと思った。
夕方5時になると仕事も終わっているため、怜彬のいる別邸に戻り夕食をとる。
とりとめのない話をして、食事を食べた後は二人で庭を眺めてみたり一緒に本を読んだりしてゆっくりして過ごす。
眠る支度が整ったら彼女に右腕を差し出してベット中で一緒に眠る。
そしてまた右腕がしびれてきて目を覚ます。
幸福な余韻に浸りながら俺はまた彼女の寝顔を眺めるのだった。
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