132.嬉しい知らせ
「水蓮殿がご懐妊!?」
わたしは持っていたユノミを思わず落としそうになってしまった。
すごーい!水蓮殿がお母さんになるのね~。きっと可愛らしい赤ちゃんが産まれるわ!
「昨日、妊娠が分かったみたいなんだ」
「…ああ!それで急に会議が中止になったのね」
「そうなんだ!あの水覇がすごい慌てて帰って行ったよ…よっぽど嬉しかったんだろうな」
「嬉しいに決まってるわ!好きな人と自分の子供ですもの」
「だな…俺達も早く欲しいな…怜彬」
「う…うん…そうね…」
熱い眼差しで見つめて手の甲に口づけする雷覇。
まだ、結婚もしていないのに…気が早すぎるとは思うけど…。
でもな~。かれこれ婚約期間が1年…。普通ならすぐにでも結婚してもいいタイミングだった。
ユノミを見ると微妙にユノミからの圧を感じる。『どうして子供を作らないの?』
とか思ってそう…。黄色い小ぶりのかわいいユノミ…。ザガクがくれた子宝に恵まれると言う縁起物のユノミだ。
やめて~!そんな目で見ないで!あれからユノミとして重宝してるけど…子供はまだまだわたし達には早いわ!
「今度、秋唐国へ行ったらもう一度、怜秋殿と話をしてみるよ」
「うん…。今度は冷静になってると思うから話し合いできると思うわ」
「怜秋殿に認めて貰えさえすれば、俺達も晴れて夫婦になれるんだな!」
「え…ええ…そうなるわね…」
雷覇は意気揚々として、楽しそうにしている。
でもわたしは急に昨日の事を思い出して気恥ずかしさが増してくる。
雷覇がわたしに触れるたびに色々と我慢していると言う‥‥。
なるべくわたしからのボディタッチはしない事で話は収まったけど、やっぱり当人は待ちきれない様子だった。
恥ずかしい…。雷覇がわたしを好きだから求めてくれるのは嬉しい…。
でも‥‥。わたしは初めてだし…経験ないし‥‥。ふぅ…顔が熱い…。
わたしはいつそうなってもいいように、心の準備をしておく必要があると感じた。
今度、これも相談しよう…。心構え的な?感じのアドバイスをもらおう…。
「水覇殿達にはお祝いはするの?」
「そうだな…。何か祝いの品は用意しないといけないだろうな」
「だったらわたしが考えてもいい?」
「ああ。お願いするよ。俺にはさっぱりわからん」
「ええ。任せて!水蓮殿が喜びそうな品を考えるわ」
「助かるよ、ありがとう。怜彬」
でも…。嬉しいな~。水蓮殿に子供ができたこと。
今は、妊娠3か月で安静にしていないといけない時期らしい。
つわりが酷いらしいが、食べれる種類が多いため健康には問題なく順調だという事だった。
どうりで最近会わないと思ったよのね~。建国祭の時は元気そうだったけど…。
あの時にはすでに妊娠してたってことよね?あんなにお腹を出していて大丈夫だったのかしら?
「雷覇もとうとう叔父さんと呼ばれるのね~」
「そうだな!甥っ子でも姪っ子でも可愛いだろうな…」
心なしかはしゃいでいるように見える。きっと雷覇もすごく喜んでいるのね!
なんだかんだ言っても、雷覇と水覇殿は仲がいい。
時々、水覇殿がきつく詰め寄ることがあるけど、それだけお互いが信頼している証だ。
他人にはああまで言えないだろう…。
「きっと双子でかわいい赤ちゃんが産まれるのね」
「その可能性は高いな。親父も祖父も双子だったからな」
「ふふふ。楽しみね~」
「ああ。俺も楽しみだよ」
水覇殿もきっと大喜びだろうな~。会議を中止にしてまで確認したくらいだもんねぇ。
でも…どんなお父さんになるのかしら?普段が腹黒イケメンなだけに父親になる姿が想像できない。
それとも、水蓮殿の前ではキャラが違うのかしら…。
きっとそうよね!何といっても水蓮殿と二人で過ごしたいがために2か月も
仕事をお休みしたくらいだし…。新婚さんだし、きっと二人はラブラブよね!
「水蓮殿が妊娠したとなると、また叔母上様達がお祝いに来てくれそうよね!」
「う…そう…だな…」
「わたしが怪我した時にお見舞いの品を頂いたからお返ししないと!すっかり後回しになってたわ」
「ああ…そうだな…俺と怜彬からのお返しと言う事で頼む」
叔母上様達の話をした途端、急に歯切れが悪くなった雷覇。
よっぽど苦手なのね…。まぁ、分からなくもないけど。
でもとっても愛情深くて思いやりがあっていい人達なのに…。やってることは突拍子もないけど。
「はぁ…。いくつになっても、叔母上様達にはなれないよ…」
「ふふふ。雷覇が唯一頭が上がらない人達だものね」
「そうなんだ…。小さい時のトラウマもあるし…何より勝てる気がしない」
「雷覇でもそんな事を思うのね」
「思うよ…虹珠殿はいまだに現役感が凄いし、虹禀殿に関しては年々凄くなるし」
「それだけ元気って事でしょう?いいことじゃない」
「まぁ…。そうなんだがな…」
雷覇がため息つきながら、やれやれといった感じでわたしに抱き着いてきた。
わたしからすればそんな悩みがあること自体羨ましい。
わたしにも桐生おじ様がいるけど、ここまでの交流がない。数年に1度会うかどうかだ。
家族の様に気軽にやり取りをしている雷覇が眩しく感じる。
わたしが結婚しても、怜秋が結婚しても仲よくしよう…。
親戚付き合いって大切だもんね~。それに…。怜秋の子供なら絶対!ぜーったいかわいいにきまっているわ!!
想像しただけでワクワクして母性がうずく感じがした。ああん!今すぐかわいがりたい!愛でたい!
女の子でも男の子でもきっと愛らしいんだろうな…。
「あ…。話は凄く変わるんだけど…」
「どうしたんだ?」
「二人で作ったお庭の名前がまだだったでしょう?」
「そうだな…。思いついたのか?」
「ええ。カーネリアンはどうかしら?」
「カーネリアン…。いいな!どんな意味があるんだ?」
雷覇にぎゅっと後ろから抱きしめられながら問いかけられる。
わたしは雷覇の手に触れて手の甲をそっとなでる。
これくらいなら…セーフ…よね?ちょっとドキドキしながら雷覇の手に触れている感覚は
最初の頃、好きだと意識しだした時の感覚に似ていた。
「綺麗なオレンジ色の宝石でね。別名太陽の石とも言われているの」
「太陽の石…初めて聞いたな」
「あまりポピュラーな宝石ではないけどとっても綺麗な宝石よ」
「いいな。なんでそれにしようと思ったんだ?」
「だって、金木犀をくれたでしょう?綺麗なオレンジ色の花が咲くもの」
「そうだな…。いい名前だ。それにしよう!」
カーネリアン。太陽の石。
思いついたのは昨日の夜だった。偶然、宝石の本を読んでいたら見つけた宝石だった。
色鮮やかな瑞々しい、果物のオレンジのような色をして丸みを帯びた宝石。
金木犀が植えられている庭にぴったりだと感じたのだ。
わたしは窓の外に目をやって外を見た。雷覇と植えた植物たちが
雨に濡れて生き生きとしているように感じる。
今日は朝からずっと雨が降っている。そのため雷覇とは暖炉の前で本を読みながら一緒に過ごしていた。
美味しいリョクチャに甘いおやつ。パチパチと薪が燃える音だけが響く空間は時間の流れがとても緩やかに感じる…。
こうして、ゆったりと二人で過ごす時間が一番好き…。二人で出かけたりするのも楽しいけど
やっぱりここで、話をしながら過ごしているほうが一番ほっとして安心する。
それに雷覇の安定感がすごい!わたしがちょっと強めにもたれてもびくともしなかった。
大きくてがっちりしている彼の胸板は、服越しでも重量感を感じるほど逞しい。
背中越しに雷覇の熱を感じながらそんなことを思っていた。
水蓮殿のお祝いはどうしようかしら…?
小説が好きって言っていたから本を読むことが好きなのよね~…きっと。
それにちなんだ品だったら喜んでくれそうだな!
叔母上様達はお酒とかがいいのかしら?秋唐国にも地酒はあるからそれをプレゼントしてみよう!
酒豪の人達のことだ、喜んでくれるに違いない。それならお酒に合うおつまみも一緒に送ろうかしら?
ラカンに何が合うのかピックアップしてもらおうっと!
ふふふ。こうして誰かにどんな贈り物を送るか考えるだけでも楽しいわね!
それからしばらくして、叔母上様達がお祝いを聞きつけて近日来訪するという知らせが来た。
早い!!わたしと雷覇でさえ今日知ったのに…。どうやったらそんなに早く知ることが出来るのかしら?
叔母上様達の情報収集能力の凄さを実感した。これは…。早めに地酒を送ってもらわねば!
わたしは早速、ラカンに頼んでいくつか地酒を送ってもらうよう手配した。
またしばらくバタバタしそうね…。叔母上様達が来るならおもてなしの準備をしないと!
いつも唐突に来る彼女たちの為の事前準備は欠かせない。
雷覇はげっそりした顔をしているけど、わたしは虹珠殿達に会えるのが楽しみだった。
虹珠殿達が来たらこの別邸にも来てもらってお庭を案内しよう!
雷覇と二人で作ったと言ったらきっとびっくりするに違いない…。もしかしたら耳に入ってるかもしれねないけど。
雷覇がわたしと一緒に庭作りをしていることは城中にすぐに話が広まった。
あの銀獅子が庭作りをしている!と、皆驚きを隠せないようだった。
丸くなったと言われている雷覇。今までどれだけ怖いイメージを与えていたのかしら…。
わたしと稽古をしている事も大変な衝撃だったようで、お城を歩く度に皆に心配される。
怪我してないか?とか疲れてはいないか?しごかれ過ぎてないか?とか…。
普段の雷覇の訓練のやり方を知っている人達にとっては気が気でないらしい。
わたしは凛々し手くてカッコいいと思うんだけどな~。むしろ次の稽古が楽しみだし!ときめいたくらいだ。
「そうだ!雷覇にお願いがあるんだけど…」
「なんだ?なんでも言ってくれ」
「あの…ね…」
「うん…」
ううう。いざお願いするとなると恥ずかしい!軍服着て下さいって言うの…。
絶対理由を聞かれるだろうし…。でも…でも!軍服着て欲しい!
わたしは自分の欲望に耐え切れず意を決して雷覇に告げた。
「次に兼の稽古をするときは…雷覇に軍服着てほしいの…」
「軍服を?それくらいかまわないが…どうしてまた…」
「ほら!夏陽国の軍服ってきっちりしててかっこいいじゃない?」
「そう…なのか?あんまり意識したことはないが」
「雷覇が着るともっとかっこよく見えるっていうか…普段からも見たいなって‥‥」
ああああ!言ってて恥ずかしい!変かな?変に思われてないかな?
「クス…。いいよ。今度準備してもらって着てくるよ」
「ほんとう?」
「ああ。それくらいお安い御用だよ」
「ありがとう!雷覇」
わたしは嬉しくて思わず抱き着いてしまった!
やった~!!軍服姿の雷覇にお稽古してもらえる。
それだけで、心臓が爆発しそうなくらいドキドキしたいた。
「怜彬…。喜んでくれるのは嬉しんだが…」
「え…?」
「この状態はまずい…」
雷覇が顔を真っ赤にして視線をそらしてる。
わたしはまじまじと、今の体勢に目をやった。…っっ!
わたしが雷覇を押し倒している状態になってしまっている!
うわーん!昨日、あれほどやらないって決めてたのに…。嬉しくなると抱き着く癖どうにかしないと。
「ごめんなさい!」
そう言ってわたしは慌てて雷覇から離れた。
「いや…いいんだ。気にしないでくれ…」
雷覇がため息をつきながら立ち上がって別の部屋に行ってしまった。
どうしよう…。怒らせてしまったのかな‥‥。
雷覇にとってはさっきの状態は苦痛でしかない。触れたいのに触れられないのだ。
よく我慢してくれたと言うべきか…。結婚していない男女が一線を越えることをタブーとする
王族の結婚は雷覇にとってはひたすら忍耐との戦いだった。
わたしはそれほどでもないけど…。男性である雷覇からしたらそうではないらしい…。
その辺は想像するしかないけど、今のは配慮がなかったよね…。
あとできちんと謝ろう…。ああ…。さっきまで凄くいい雰囲気だったのに。
やっぱり!これ以上、雷覇を我慢させないためにもなんとかして怜秋と
仲良くなってもらう方向で話をすすめよう!
前回、怜秋から貰った手紙には気持ち的にも落ち着いてきていると書いてあった。
今の怜秋なら、二人の結婚を受け入れてもらえるかもしれなかった。
雷覇…!待っててね!できるだけ早く結婚の話を進められるようにするから!
うん。そう思ったら、怜秋に手紙を書いて雷覇のいい所を知ってもらおうと決めた。
それから、ラカンからもそれとなく雷覇のいい所を怜秋に伝えてもらおう。
別の人が話すと受け取り方も変わってくる。もしかしたらわたしが言うよりもいいかも知れなかった。
雷覇が一人、別室で悶々としている中、わたしはどうやったら二人を仲良くすることが出来るのか
必死に考えを巡らせるのだった。
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